第75話 ランドティア王国という指手(プレイヤー)

 以前、ダンペディアで情報を確認してから疑問に思っていたことがある。それは、なぜランドティア王国がアルデン公国へ奇襲を仕掛けたか、だ。

 そもそも、アルデン公国はランドティアの前身。カルディア王国の公爵令嬢、アンネローゼ・フォン・ハミルトン。後のアンネローゼ・アルデンの手によって建国されたカルディアの属国に近い、衛星国とでもいうべき立場だった。まぁ、本当に主権が制限されていたのか、そちらは不明だがカルディア王国の政策に追従していたのは確かなようだ。

 それもこれも、アンネローゼ・アルデンとカルディア国王夫妻が蜜月の仲だったことが影響していて、3人の死後、疎遠になっていったのも情報を見る限り間違いない。


 だが、それでも利用価値はあった。カルディア――いや、ランドティア王国とルシオン帝国。二大国家の緩衝地帯として。

 それはランドティアとアルデン。二つの国が疎遠となり、中立的な立場となったからこそ発生したものだ。

 それをなぜ、ランドティア王国はあえて崩したのか。とくに開拓村、ルディアは立地的に帝国の喉元に突き付けられた剣だ。

 それを仮想敵国であるランドティア王国に占領されて、おとなしくしている。などと王国上層部が考えた、などというのはあり得ないだろう。……もしかしたら、本当に頭お花畑な可能性は否定できないのだが……。

 しかし、そこまで想定すると話が進まないので、あえて戦争になってもこの地。ルディアを確保したかった、というていで話を進めていく。


 そうするといくつかの可能性が考えられる。


 1.帝国との戦争になっても勝てる自信がある。

 2.帝国との戦争に負けてもなんとかなる算段があった。

 3.そもそも帝国との戦争を回避できる材料を持っている。


 パッと思い付くのはこんなところだろう。次にそれらの可能性を考えていく。


 まず、1.帝国との戦争になっても勝てる自信がある。これについてだ。

 可能性で考えられるのは2つ。1つは奇襲戦時点で姫騎士-リーゼロッテ・アルデンを討ち取るつもりだった。王国と帝国、この二ヶ国に明確な国力差はない。そこに姫騎士という特記戦力が片方に加わればその時点で勝敗が決しかねない。それを防ぐため、初戦で彼女を討ち取るつもりだった。と言うものだ。もっとも、結果として取り逃がした上に俺たちダンジョン勢力まで加勢した、という王国には泣きっ面に蜂な状態だが……。

 2つ目は帝国包囲網、という可能性。

 実は奇襲戦を行う前の時点で諸外国へ外交戦を行って、帝国に対する包囲網を作成していたのでは、ということだ。

 とくに外交とともに行われていた奇襲でリーゼロッテを討ち取っていれば、諸外国は姫騎士という大陸に轟く武威を討ち取った王国を敵にまわす、という選択肢を取ることなど不可能。確実に包囲網を作成できていただろう。……実際のところは失敗しているが。


 次に2.帝国との戦争に負けてもなんとかなる算段があった。これについてだ。

 ……と、言いたいが実はこれ。3.そもそも帝国との戦争を回避できる材料を持っている。とほぼ同じ理由になりそうなのだ。


 それでは改めて、可能性についてだが。それは王国が真に欲しいのはルディアではなく城塞都市エィル。ゆえに、帝国の喉元に突き付けられた剣であるルディアを帝国へ割譲することで手打ちにする。というものだ。

 なにせ王国からすればルディアは開発のため、イニシャルコストがかかるのに、なおかつ防衛しなければならないという足枷でしかない。

 それに対して城塞都市エィルは大陸中央部にあり、北方には諸部族連合へと通ずる道もある交通の要衝。経済的、軍事的に戦争をしてでも確保する価値がある土地。

 そこを確保できるならルディアなどという僻地。割譲してもお釣りがくるというものだ。

 むろん、そこは帝国も承知しているだろう。だからこそ、可能性が2と3に別れている。

 もし万が一、帝国が交渉で納得すれば3の帝国との戦争を回避できる可能性に、もし開戦となっても王国が手強く戦い帝国側に手酷い被害を与え、なおかつ停戦交渉でエィルを要求。呑まなければ戦争継続、という外交カードをちらつかせ帝国を諦めさせることが出来れば2の戦争に負けてもなんとかなる、という可能性へ行き着く。


 もちろん、帝国もリーゼロッテ。アルデン公国の公女が亡命している以上、早々諦める。なんて選択肢は取れない。が、最終的に取り戻せば良い。という考えで一時停戦を受け入れる可能性は十分ある。リーゼロッテを確保している以上、大義名分はこちらにあるのだから。

 その方面でリーゼロッテを説得できる可能性は十分ある。……が、もしかしたら。


 もし、可能性が本当だと仮定しよう。こうなると、公国奇襲時に王国が公族を本当に処刑したか怪しいかもしれない。なにせ本当に処刑していれば帝国へ大義名分を与えてしまうのだ。それを回避するため、表では処刑したと公表しつつ、裏で生かしていたという可能性は十分ある。

 そして帝国が再戦してきた時に公族が生存している情報を開示するとともに、こう嘯いてやるのだ。


 ――帝国は、自身の領土的野心の隠れ蓑にするため、麗しき姫騎士殿下を利用している、と。


 もし、これが通常であれば一笑に付されるだけだろう。だが他の公族が生きている場合だけ、状況が変わってくる。


 まず、本来リーゼロッテは他国へ婚姻に出されるということから公位継承権は高くない。他の公族が出てきた時点で、リーゼロッテを公王。この場合、女公だろうか。ともかく、その大義名分を失う。

 次に、ランドティア王家とアルデン公王家が血縁関係にあること。そしてランドティア王家がルシオン帝国の領土的野心に気づいたが、時はすでに逼迫していたため、あえて公国奇襲という形を取った。と、情報を流布すればいい。それがであるか、などということは関係ない。

 対外的にはランドティア王国は縁戚関係にあるアルデン公国を救うため、仕方なく公国領土へ進駐したというが残る。

 そして、その真実に対して国際世論はどのような判断を下すか。今さら言う必要もないだろう。哀れな被害者たるアルデン公国を悪のルシオン帝国から救う正義のランドティア王国。と、いう図式の完成だ。


 いわば、偶然とはいえこちらがやろうとしたモンスターが活性化したのは王国が侵攻してきたから。という情報流布及び、流言計略をやり返された形になる。

 もちろん、あちらが先に計画していた可能性は十分にあり得るのだが……。

 そして、それが本当とするならランドティア王国は想定以上に手強いプレイヤーということになる。

 これは、もしかすると根本的に戦略を変えなければいけない、という段階に来ているのかもしれなかった。

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