第48話 トロイホース
えっと、ルゥの名前はルゥ。アルデン公国の北にある連合体の国家、諸部族連合で暮らしてるエルフでお姉、国の外交官のリィナお姉の護衛武官なんだ。つまり、フツーのエルフや、他の国民たちより強いんだ。
それはともかく、ルゥたちは――というよりもうちの国の諜報網がランドティア王国の暗躍に気付いて、その警告のためお姉が派遣されたわけだけど……。
すでに事態は進行していて、交易都市にして城塞都市エィルに到着してすぐに首都が陥落してたことをしったの。
そして公族の方々も行方不明。姫騎士と謡われたリーゼロッテ姫殿下も同じく行方知れず。でも、そっちは後々無事だって教えてもらえたけど。
でも、アルデン公国が滅びかけてるのにはかわりない。そんな時にもたらされたエィル襲撃の集団が近づいてきている報。
このままじゃあ、本当に国が滅びてしまうかもしれない。でも、そんな時。ダンジョンマスターさんが1つ、策があるって言ったんだ。そのためにはルゥたちの手伝いが必要だってことも。
本当なら手伝う必要も、それどころか手伝っちゃいけないことも分かってる。下手に手伝うとルゥたち、というより諸部族連合にだって迷惑をかけちゃう。それでもルゥは手伝いたい、そう思ったんだけど……。
「でも、まさか。敵を目の前にひたすら逃げ回れ、なんてのは予想外だよ……」
そう、いまルゥたちは王国兵と思う将兵たちを引き付けるため、お姉と一緒に森のなかをガサガサ、と草木を掻き分けて走ってた。
それもこれも、あのダンジョンマスターさん。彼による指示だった。
「確かに、王国がルゥたちエルフを奴隷にしてるって言ってもさぁ……」
自分で言うのもなんだけど、ルゥとお姉。二人ともみてくれはかなり良いと思うよ?
ルゥは運動、というより剣士として鍛えたことが関係してるか分からないけど、胸はそれなりにあるし、そこ以外はスラリとした体型。お姉は、ちょっと胸がさびしいけど、全体的に痩せててスマートな体型。
まぁ、早い話が二人ともベクトルの違う美人なんだよ。だからこそ、奴隷としての価値が上がるということでもあるけど……。
でも、だからって。まさか、国の要人のお姉を含め、囮にするなんて、そんなことある……?
いや、まぁ。あるから今こんなことになってるんだけど。
「それも、ルゥたちが逃げ切れるって確信してるから、敢えて指示したんだろうけど……」
信頼、とはちょっと違うと思う。なんて言うか、エルフなら森のなかを自由自在に逃げられるだろ。みたいな偏見なんだと思う。
確かにエルフは基本、森の中で生活してるのは確かだけど……。
「この森はルゥたちも初めてなんだけどなぁ……」
さすがに来たことない森は土地勘なんてないよ。一応、そこも対処してくれてるみたいだけど、ね。
なにもルゥたちだって、がむしゃらに逃げてる訳じゃない。とある場所を目的地として逃げてるんだ。
その目的地とは――。
――ブルルッ!
「お姉、聞こえた?!」
「ええ、大丈夫。聞こえたわ」
馬の嘶き声。ルゥたちが目指していたのはこの子たちがいる場所だった。
でも、森の中で馬なんて、と思われるかもしれないけど、この子たちは普通の馬じゃない。
なんといっても特徴的なのは、体の一部。主に脚や胴などの弱点になりそうな部分が鉄で
この子たちの正体は馬型のモンスター、トロイホースというモンスターなの。
まさか、ここにトロイホースがいるなんてルゥもお姉も予想外だったよ。そして、さらに予想外だったのがこの二頭、というより二体かな?
それぞれがネームド。名前付きのモンスターだったこと。
そもそも、ネームドなんてそうそう生まれる筈ないんだけど……。まぁ、ルゥたちからしてみればありがたい話なんだけどね。
ネームドってことは、通常個体よりも能力が高いってことなんだから。
ちなみに、この子たちの名前は。
「ルゥのこと助けてね。シュンライ号!」
「頼りにさせてもらうわね、リュウセイ号」
ルゥが乗る子、体毛が黒く鬣が長い子がシュンライ号。お姉が乗る、茶色の体毛で顔に白い線が入ってる子がリュウセイ号。
でも、ダンジョンマスターさん。この子たちのこと不思議な呼び方してたんだよね。黒鹿毛とか、鹿毛ってなんのことだったんだろう。あと、リュウセイ号の顔にある白い線。これのことを流星って言ってたからそれが名前の由来、なのかな?
じゃあ、シュンライ号にも名前の由来があるのかな。
まぁ、それより今は逃げることを優先しないと。
「それじゃお願いね、シュンライ号」
シュンライ号に飛び乗ると、首を撫でながら語りかける。シュンライ号は気持ちよさそうに身震いしてる。そして、ざり、ざり、と脚で地面を掻くと――。
「う、ひゃあ……!」
ドン、と音がしそうなほど衝撃がするとともに走り出す。びゅうびゅう、と風を切る音がする。シュンライ号はそのまま、速度を下げず木々の間を縫って進んでいく。
すごい、これがトロイホースのネームド。後ろではお姉も感心したような顔になっていた。
これなら無事逃げきれそう、と安堵できた。これがダンジョンマスターさんの切り札だったのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます