第21話 いざ、開拓村へ
ダンジョン最奥の部屋で俺はほくそ笑んでいた。なぜなら、件の姫騎士どのの反応が予想どおりだったから。
こちらの要請は受けたし、提案も驚きこそしているが彼女なら呑むだろう。
なにせ、そもそも彼女らは開拓村の詳しい場所を把握していない筈だ。対して、こちらは詳しい場所を把握している。
つまり傭兵たちが開拓村へたどり着く、あるいは略奪が終わる前に駆けつけるためには、我らの協力が絶対条件となる。
だからこそ、彼女がこちらの提案を拒むことはあり得ない。
「さて、返答はいかに。姫騎士どの?」
『わかった、わかったわ。あなたたちに協力を要請します!』
「確かに承った」
――勝った! これで、俺たちの有利に事が運ぶ。だが、まだだ。ここで下手を打てばこれまでの交渉が水泡に帰す。
そんな片手落ちは許されない。
「ナオ、ルードを呼び――」
「マスター、お呼びですかい?」
「……おっと、もういたのか」
まさか、俺が呼び出す前に戻ってくるとは。手間が省ける。本当にこいつは使い勝手が良い。
俺はごまかすように咳払いをする。
「んんっ……。ルード、貴様はどこまで把握している?」
「あの騎士たちに協力するんでやしょう? それであっしを呼ぶということは――」
打てば響く、とはまさしくこの事だな。話が早くて助かる。
「ならばわかるな? 貴様は部下のゴブリンライダーたちとともに彼女らと合流。道案内を頼む」
「了解しやした。その後はどうしやしょう?」
その後、その後か。可能なら戦闘にも協力した方が良いが、こいつらを手伝い戦で消耗させたくない。ふむ……。
「ハンス、ゴブリンアーチャーの訓練はどうか?」
ルードと同じく、いつの間にか部屋にいたハンス。スケルトンアーチャーに訓練の進捗を確認する。
――最低限、見れる程度には。
「ふむ……」
ハンスの報告を聞いて考えてみる。
奴が言う最低限、とはおそらく足を止めての射撃戦は行える、ということ。つまり、初心者なりに戦闘はできる、と考えるのが妥当。ならば……。
「一部指示の変更だ。ルード、部下の一人をこちらにまわせ。弓兵部隊を引率させる。また弓兵と合流後はお前が指示を行え。上手く使えよ」
「了解しやした、では!」
俺の指示を確認したルードは意気揚々と部屋を出ていく。予定とはちょっと違うが、それでも部隊の指揮を任されたのだ。それが嬉しいのだろう。
「ハンス、弓兵たちに集合をかけろ。その後はわかるな? ……あぁ、あと。あくまで出撃するのはゴブリンどもだけだ。貴様はダンジョンで待機するように」
――了解。
俺の指示を受け、ハンスもまた部屋を出ていく。さて、これで俺がいまできることは終わりだ。最低限、成果はあげてくれよ?
ダンジョンマスターと交渉した時間から少し後、リーゼロッテは聞かされた協力内容について思い返していた。
「道案内用の斥候、そして少しではあるが戦力をつける、か……」
「姫さま、信用できるのでしょうか?」
彼女の側近にして護衛騎士。アリアが不満そうな顔をして問いかける。
そもそも、ダンジョンマスターとの交渉が前代未聞。しかもモンスターが人間種に協力するなど到底信じられる内容ではない。
そんな事、リーゼロッテもわかっている。しかし――。
「黙りなさい、アリア」
「しかし――」
「黙れ、と言ったのよ?」
「…………はっ」
リーゼロッテからしてもアリアの心配は痛いほどわかる。しかし、
そもそも、ここではいつ、どこで聞き耳を立てられているかわかったものではない。最悪、不信感を抱かれ、後ろから刺される可能性だって否定できない。
だからこそ、いまはまだ隣人へ挨拶するようににこやかでないといけない。疑われないように、余計な敵を増やさないためにも。
「しかし、道案内役はまだなのかしら?」
外が、開拓村がどういう状況かわからない以上、一刻も早く出発したいリーゼロッテだが、それでも闇雲に歩いて開拓村にたどり着ける、などと能天気ではない。だが、それでも焦れったいのは確かだ。
そんなとき、リーゼロッテの耳に、ドカ、ドカ、と地面を力強く蹴る音が聞こえてきた。
「……来たのかしら」
音が聞こえる方を見る。そこにはゴブリンを乗せたコマンドウルフが2頭、こちらへ走ってきていた。
「あれが道案内……?」
思わず首をかしげるリーゼロッテ。彼女の常識でのゴブリンたちは、知能の低いモンスターであり道案内など到底できる訳がない。
だが、彼女の常識に反してコマンドウルフは彼女たちの前まで移動して停止すると――。
「おまたせしやした、あっしがアンタらの道案内を命じられたルードでやす」
「なっ、喋っ――。しかも
確かにゴーレムでは道案内に不向き、とは考えていた。だが、まさか、ゴブリン。しかもネームドが出てくるとは思ってもみなかった。
そもそも、ネームドモンスターとはある程度規模が大きくなったダンジョンなどで発見されるのがほとんどであり、なおかつ他のモンスターとは一線を画す強さを持つ。
しかも、このルードと名乗ったゴブリンは人語を解している。それがどれ程稀有なことか。
リーゼロッテとしても実際のところダンジョンマスターの協力について半信半疑だった。しかし、ここまでするとなると……。
「正直、驚いたわ。ダンジョンマスターさんの本気さに……」
「そうでやすか? それより、さっさと出発するとしやしょう」
「ええ、そうね。あっ、でも。マスターさんが言ってた戦力ってあなたたちの事?」
ダンジョンマスターから告げられていた戦力について確認するリーゼロッテ。
しかし、ルードは首を横に振ることで否定。
「いえ、後からあっしの部下が弓兵10名とともに追い付く予定ですな」
「……そ、そう」
まさかのゴブリンアーチャーが増援として到着予定。その情報を聞いてどもってしまう。
数だけで考えると少ない。が、そもそも一般的なゴブリンの遠距離攻撃はあくまで投石であり、弓兵という存在自体が稀だ。
それを10体も、というのは剛毅な話だった。
「と、ともかく開拓村に向かいましょうか」
そう言うリーゼロッテは、心の中で開拓村を救った後、このダンジョンとどう付き合うべきか頭を悩ませていた。
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