第6話 ダンジョン周辺と今後の指針

 ダンジョンコアたるナオが安置されている部屋。いわばダンジョンの中枢で、ハンスの話を聞いたところいくつかの事実が判明した。

 まず、生前ハンスはこのダンジョンの近場にある開拓村の住民であったこと。

 このダンジョンが二つの国家。ルシオン帝国、アルデン公国の国境に存在すること。開拓村はアルデン公国の所属であること。


 そして面白いことに、このアルデン公国。ルシオン帝国の従属国ではなく、あくまで対等に外交をしている、らしい。

 名前だけで考えれば帝国と公国。はっきり言って比べるのも愚かしいほど、国力差があってもおかしくないし、実際ある、とのこと。

 実際、帝国は領土拡大を国是として周辺国を併呑して国力を増強しているという話だ。

 ならばなぜアルデン公国は、そんな覇権国家に対等な外交を出来るのか。

 それはアルデン公国の立地と、なにより支援者の存在にあった。


 まずはアルデン公国の支援者。その名もランドティア王国といい、立地的にはアルデン公国を挟む形になるがルシオン帝国とはほぼ隣国といって良い立場だ。

 この隣国がアルデン公国支援することでルシオン帝国と、アルデン公国、ランドティア王国連合の国力差はほぼ拮抗。連合側がやや劣勢という立場らしい。

 そこで問題となるのがアルデン公国の立地。

 なんとこの国、ルシオン帝国首都エルシオンに近く、なおかつ経済、工業的な中心地に一部食い込むような形で国土が存在。

 つまり、ルシオン帝国からすると脆い脇腹をさらしている状態なのだ。

 しかも、アルデン公国自体も領土拡張前のルシオン帝国と、それとなく良い付き合いをしていたことから積極的に敵対していた訳でも、それ以上に敵に回せる状態でもなかった。

 なにせ、領土拡張する前のルシオン帝国からするとランドティア王国の影響を防ぐ壁として、拡張後、今度はランドティア王国がルシオン帝国の攻撃を防ぐ盾として有用だったのだ。

 そうなるように動いたアルデン公国公王の手腕もあるのだろうが。そう考えると公王は中々強かな戦略を取ったともいえる。

 まぁ、力のない小国ならではの処世術ともいえるか。

 しかし、そんな国家がなぜ両国の国境に開拓村を――しかも話では共同出資ではなく、アルデン公国単独で――建設したのか。

 いくらなんでも挑発行為過ぎる。話が本当なら強かなコウモリ外交を行っていたアルデン公国らしからぬ杜撰さだ。


 まぁ、そんなことを俺が心配しても仕方ない。それよりも重要なのは、近くに開拓村が、人間が暮らしている、ということだ。

 つまり、うまく使えばハンスと同じようにDPの足しにしたり、ルードをはじめとするゴブリンたちの個体数をDPを使わず増やすことが出来る。

 また、開拓村という立地自体にも使い道があり、最終的に村を滅ぼすことも視野にいれたい。

 そのためには、まず――。


「では、まずルード」

「はいっ! なんでありやしょう!」

「貴様はゴブリンの中から二名。お前の目で使い物になりそうなやつを選抜。その後、コマンドウルフへの騎乗訓練を行ってもらう」

「了解しやした!」


 ルードへはこの指示で良し。後はある程度形になった時点で、訓練を兼ねた開拓村の偵察をさせれば良い。

 むろん、今はルードのみならず人員自体が貴重なのだからあまり無理をさせるわけには行かない。

 そして、次はハンス。こいつには――。


「ハンス。貴様には、ゴブリン全体に弓術の訓練をしてもらう」


 ――了解。


「……あぁ、ただ全体を訓練するのは最初だけで良い。その時にある程度才能があるのを見つけ出して、そいつらを徹底的に扱きあげろ。その後の訓練は仕上げ終わったそいつらに一任する」


 ――……了解。


 どうやら、俺の指示になにか思うところがあるようだが……。

 それでも、指示自体に不満がある。という訳ではなさそうだ。

 おおよそ、なぜ最後まで自身に訓練を任せないのか、といったところか。

 ……ふむ、先ほどの聞き取りでもある程度分かっていたが、人間としての記憶、記録か。は、残っているようだが、感性は完全に失われているようだ。まぁ、それでこそ、という話でもある。


 大体、スケルトンとゴブリンでは体格差はもとより、膂力などでも大きな差がある。そんな状態でスケルトン、人間の弓術を教えたところで限界がある。

 だからこそ、才能のあるゴブリンというワンクッションを置くことで、人間の弓術ではなく、に発展させ教え込む。

 そうすれば戦闘力はマシになるし、たとえ習得できなくともDP消費での習得の際、消費軽減に繋がるだろう。

 むろん、それはゴブリンを後衛に配置することに繋がり、前衛のモンスターを整えることで全体の損耗を抑える狙いもある。

 ……一番の問題は、その前衛になるモンスターがいないことだが。それはおいおい片付けるしかないだろう。

 まぁ、直近の指針はこんなところで良いだろう。問題はない筈――。


「マスター」

「どうした、ナオ」


 今まで黙っていたナオが急に喋り出すということは、なにか問題でも起きたか?


「ダンジョン内に侵入者です」

「……はぁ?!」


 突然放たれたナオの報告に驚いた俺。

 そんな俺に対して、ナオはハンスの時と同じようにホログラムを起動する。

 写し出された映像には、確かに、ダンジョン内をおっかなびっくり歩いている女の姿があった。

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