なぜおっぱいを見つめてしまうのかを男子高校生2人が議論してみました。

@Ahhissya

性欲って、嘘。

「性欲って、嘘なのか?」


友人と2人で勉強会の途中。突然、ほんとに突然言いやがる。

視線を向けたところ、高校保健体育の教科書を読んでいた。


「どうしたんだ、勉強疲れか?」


「いや、この文章が興味深いんだ」


ホウは当該のページを開いて俺に見せてくる。

『思春期になると異性に対する性的な興味が湧く』


「・・・なんか気になるとこあった?」


「この説明はすべての人間に当てはまるのだろうか」


「まあ普遍的なんじゃない?三大欲求の1つだし」


「三大欲求って性欲と食欲と睡眠欲だろ」


「うん」


「食欲と睡眠欲が普遍的なのは分かる」


「うん」


「でも性欲だけ異質じゃないか?」


「というと?」


「食事と睡眠は生存に不可欠な行為だから、それへの欲求は本能的だとしても理解できる」


「あーうん、生きてるってことは食べてるし寝てるしってことだもんなー」


「しかし、性行為は生きていくために不可欠なものではない」


「俺たちだって生きてるもんなー」


「だから性欲は生理的欲求とは言えない」


「あー、なるほど、それで性欲は嘘かもって思ったんか」


議論をすっぱりまとめ挙げて、すっかり放置してた卓上に意識を戻す。


「マズローの言葉を借りれば、性欲は社会的欲求の一種とも言える」


さらさらとペンを走らせながら「というと?」と返す。半分聞いてない。


「子孫は種の未来を保証するから、生殖行為をなすものは社会の一員として受け入れられて然るべきだ」


「あー、つまり性欲を持つ者は社会的に承認されるわけねー」


「そうだな」


これで議論は完璧に区切れたのだろう。ホウは納得した様子で沈黙した。だが、今度は俺が筆を止める。気になったことが1つあったから。


「なら、性欲を持たない人間は社会参加できないってことになるな」


ホウは目を光らせた。


「そうだな!」


「でも今の社会って、LGBTQとか無生物性愛とか、生殖行為に繋がらない性欲に対しても寛容になってるよな」


「確かに、性欲が生殖へ向かない人間を承認するメリットは社会全体にとっては存在しない」


「じゃあ、性欲って社会的欲求と呼ぶのは、なんかこう・・・違うんじゃね?」


「・・・性欲は生理的欲求ではなく、もはや社会的欲求でもないなら、一体どう呼べば良いんだ?」


ちょっと考え込む。勉強しろよと告げる頭の中のアラートまで鳴り止んでいた。代わりに、一切の無音が部屋に鳴り響いている。そして、


「「性欲って、嘘なのか!?」」


声が発されるのは2人同時だった。

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