ええ!? 俺が勇者ですって!? いやただのロボットアニメオタクなんですけど!? ~異世界へ召喚された俺は、アニメの主役機を駆って超大国相手に無双する~

英 慈尊

巨大甲冑の戦場

 これを一言で表すならば、ロボットということになるだろう。

 もう少し複雑な表現をするならば、人型機動兵器だ。


 直線的な線で形作られる装甲が、複雑に重なり合い……。

 アスリートのごとく均整が取れたボディに、堅牢さとヒロイックさを与えている。

 頭部は戦国時代の鎧武者を思わせる造形で、眼光鋭いツインアイが、あまりにも格好良かった。


 カラーリングは――シンプル。

 上半身やバックパックに加え、シールドの一部が黒く染め上げられているのみで、他はほぼ純白である。


 だが、この簡素ルさが――イイ。


 真に完成されたデザインであるからこそ、ゴテゴテと余計な塗装を加えずとも、映えるものなのだ。


「ああ、格好良いなあ……。

 やっぱり、この機体が……アルタイルが最高だなあ」


 ついに完成し、テーブルの上で屹立する1/100スケールモデルを見ながら、俺は恍惚とした声でつぶやいた。

 ワンルームの室内は、壁の至る所へこの機体や、他シリーズに登場する機体のポスターが貼られており……。

 モニターの中では、作業用BGMとして流していたテレビアニメ――もちろんこの機体が登場するものだ――が、今まさに主役機の交代を果たさんとしていた。


「こっちの後期主役機も、好きなんだけどな。

 やっぱり、こいつの方が最高だぜ」


 絶体絶命の窮地へ駆けつけた可変機の姿を尻目に、眼前で立体となっている機体を眺め回す。


「武装は、シンプルにライフルとブレード。

 結局、これを当てさえすればどんな敵機も落とせるんだから、他の仰々しい武装なんていらないんだよな。許せてバズーカくらいか?

 こう、余計な要素を付け足せば付け足すほど、本質が薄れるっていうか……」


 ぶつぶつとつぶやきながら、プラモデルをいじくり回す。

 シールドを後ろに引き、格好良くライフルを突き出したポーズ!

 ライフルを捨て、背中のブレードを引き抜きながら白兵戦に移行するポーズ!

 最新式モデルはB社が持つ技術の集大成であり、俺の要求するポージングへ難なく応えてくれた。

 しかも、ただ応えているだけではない。

 関節部には可動式のシリンダー等が配されており、メカニカルな情報を付与してくれているのだ。


「ああ、やっぱり格好良いなあ。最高だなあ。

 ワンルームで置き場に困るから迷ったけど、買って正解だったなあ」


 一旦、テーブルの上にプラモデルを置いて、溜め息を吐き出す。

 帰り道、何気なく立ち寄った家電量販店で目にし、大いに迷った末、ニッパー等と合わせて購入。

 その後は、夜通しで組み立て続け、気がつけばもう朝方だ。


 だが、俺を満たしているのは疲労感ではなく、大いなる満足感である。

 しがない営業マン――橘勇斗は、これを組み立てている間だけ、大ヒットロボットアニメ宇宙戦士シリーズの登場人物になったような気分へ浸れていたのだ。


 こうして、テレビを飛び出し、立体となった機体を眺めていると思う。


「一度でいいから、本物に乗ってみたいな」


 ……と。

 これは、ロボットアニメファンなら誰もが持っている感情だろう。


「なんて、夢物語だけど……」


 つぶやいていると、精神はともかく、肉体が限界を迎えていたようで、急激な眠気が襲ってきた。


 ――このまま寝ると、ワイシャツにしわが付いちゃうな……。


 そんなことを考えても、眠気が収まることはなく……。

 俺は、うつらうつらと船を漕ぎ始める。


 視界が閉じゆく中、プラモのツインアイが俺を見つめていた。




--




 眠りが覚める時というのは、いつだって突然だ。

 それまで、どれだけ気持ちよく眠っていたとしても……。

 ふと気が付けば、体は覚醒に向けて準備を整え、俺の意識を呼び起こしてしまう。

 あるいは、スマートフォン等のアラームがやかましく俺を目覚めさせる、か。

 多くの人にとって、目覚めの体験として圧倒的に多いのは、後者の方だろう。


 だが、この時……。

 俺を眠りから覚ましたのは、アラームなどという平和的な代物ではなかった。


 怒号と喧騒……。

 あるいは――破壊音。

 鼓膜を突き破るんじゃないかという暴力的な音の群れが、強制的に俺の意識を覚醒させたのである。


「なん……だ、ここは?」


 目覚めて最初につぶやいたのは、そのひと言だった。

 それも、当然だろう。

 周囲を見回せば、青々とした草原が広がっており……。

 住んでいるワンルームどころか、都内ですらないことが明らかだ。


 そして、そんな場所を闊歩している者たちの姿があったのである。

 と、いっても、そいつらは人間ではない。

 何より――でかい。


 全長にして、八メートルから九メートルはあるんじゃないだろうか……。

 まるで、西洋の甲冑を、そのまま巨大化したような姿であった。

 そのように巨大な鋼の塊が、草原内の各所で剣を振るい、あるいは、手にしたボウガンから矢を放っているのである。


 よくよく見れば、片方は黒を基調とした塗装が施されており、もう片方は青色をしていることが分かった。

 また、黒い方は威圧的な装飾を施されているのに対し、青い方はやや控えめな……質実剛健な造りをしている。

 数は、圧倒的に黒が多い。


 青い巨大甲冑一つに対し、三つから四つの黒い甲冑が、囲んで剣を振るい、あるいはボウガンの矢弾を浴びせているのである。


「なんだよ、こりゃ……。

 まるで、アニメかゲームだ。

 それも、ファンタジーの……。

 はは、夢か……?」


 幸い、俺の周囲で甲冑たちは戦っていない。

 だから、能天気にそんなことをつぶやけた。

 でも、本能ではとっくの昔に理解している。


 これは――現実だ。

 動いている甲冑たちも、飛び交うボウガンの矢弾も、この鼻で嗅ぐ土臭さも……。

 何もかもが、圧倒的な質量と現実感を伴っているのであった。


 で、ある以上、俺も傍観者ではいられない。

 向こうが現実であるなら、俺という存在もまた現実……。

 いつまでも、放ったらかしにしておいてくれるはずもないのである。


 ――ズシン!


 ――ズシン!


 その証拠に、黒甲冑の一体が、俺を目指して駆けてくるではないか!


「――ひっ!?

 く、くるな!」


 本能的な恐怖を覚えて、駆け出す。

 草原の草花ごと地面をえぐり、飛び散らかせながら駆けてくる巨大甲冑の動きは、一見、鈍重なものと思えた。

 だが、そこは九メートルもあろうかという巨体……。

 人間とは、一動作辺りのスケールというものが違う。

 結果、傍目には鈍重でも、実際に出せている速度は桁違いのものとなり……。

 俺は、あっという間に追いつかれつつあった。


「どこか……。

 どこか、隠れる場所……!」


 パニックになっていると、目についたのが、力尽きたように膝立ちのままうなだれる青甲冑だ。


「黒い方と戦ってるんだろう!?

 なら、あいつと戦ってくれよ!」


 叫びながら、そちらに走っていく。

 いわば、ゲーム等におけるターゲットのなすりつけと同じ。

 俺を無視し、よく分からないデカブツ同士でやり合ってくれればという算段だった。


 だが、よくよく見れば、青甲冑の頭部――兜のバイザーには、剣で突き刺したような穴が空いており……。

 しかも、バイザーのスリットや空けられた穴から、おびただしい量の鮮血が流れていることへ気付ける。


「――まさか!?」


 どうせ、このまま黒甲冑に追いつかれれば、ろくなことにならないんだ。

 半ばヤケクソとなって、青甲冑に飛びつく。

 そうしてよじ登り、兜のバイザーを覗き込むと……直感が当たっていたことが分かった。


「人が乗ってる……。

 死んで……いや、潰れてる……」


 俺が目にしたものの壮絶さを、どう例えればいいだろう。

 ともかく、吐いたりせずに済んだのは、生命の危機が近づいていると感じられたからである。

 このままいけば、俺もこのようなひき肉となる……そう予見できたのだ。


「く、くそ……」


 予見できたところで、できることなど何もない。

 黒甲冑が接近を果たすまで、あと数十秒といったところか。

 背後を見れば、奴は剣を振りかぶっており……。

 俺のことを、斬る……いや、潰すつもりなのは明らかであった。


「――ままよ!」


 降りてから駆けたところで、逃げ切れるはずもなく……。

 ひとまず、空いている穴から青甲冑の兜内へ飛び込む。

 兜の中は、そのまま胴体へも通じており……。

 狭苦しい内部では、無惨な死体の下半身が、小さな椅子へと座っている。

 そして、死体の前では、水晶玉のようなものが、不思議な輝きを放っていた。


「なんだこりゃ……。

 まるで……」


 頭に浮かんだ単語を、そのままつぶやく。


「……コックピットだ」


 頭がイカれたロボットアニメマニアの妄想。

 そうであって欲しいと、願う。

 だが、この中を満たす死の臭いが、俺の願いを否定している。


「なんだよ、クソ!

 どうせ、わけも分からないまま殺されるなら、こんなおかしな鎧じゃなくて、もっと格好良いロボットに乗せてくれよ!」


 自分でも意味不明な八つ当たりを吐き出しながら、水晶玉みたいな物体へ触れた。


「もっとこう、宇宙戦士シリーズの主人公機みたいな……。

 俺だけのワンオフ機に乗せてくれよ!

 こんな、悪夢みたいな死に方させるんならさ……。

 頼むよ、神様……」


 裏返った声で、子供のようにわめく。

 こんな時だというのに……いや、こんな時だからか?

 脳裏をよぎるのは、大好きな……ついさっきまで、プラモを作っていたあの機体である。

 その時、だ。


 ――ドクン!


 と、触れている水晶玉が鳴動し……。


「――ッ!?

 ぐう……あああああっ!?」


 何か、得体の知れない力が、俺の脳味噌をかき乱したのであった。




--



【作品応援のお願い】


 フォロー、星評価お願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る