我足掻きたもう。

七星北斗(化物)

1.刀と生きる。

 侍とは、戦の中で生きる者。魂に武を持ち、己が為に折れぬかたなを打つ。


 この国では、侍という刀を持つ剣客が多く住み、俺はその家系に生まれた。


 カーンッカーンッと鉄を叩く音が部屋に響く、自分が使う刀は自身で打つ、それがこの家のルールだ。


 刀身を冷まし、輝きを確認する。


 その出来映えに、つい溜め息が出てしまった。


「駄目だ。この刀では、十合も打ち合えば折れてしまう」


 だからといって層を厚くすれば重くなってしまい、剣速に支障が生まれる。


 ならどうするか?


 鉄の質を変えるしかない。より上質な鉄を入手し、鋼を鍛え、刀を打つ。


 鍛冶の技量の足りなさを埋めるには、それしかない。


 この国の道場では、刀が折れれば死んだと思えと、そう教わる。


 戦場で武器を失えば死ぬ、刀は侍の魂なのだ。


 折れる刀では駄目なのだ。確かに剣客としての技量も重要である。そんなことはわかっているが、近いうちこの国は、野盗の襲撃を受ける。


 金と女を差し出せば、見逃す。そう、勧告を受けたのだ。国の王、ダンキルは怒り、盗賊を正面から相手にするつもりである。


 奴らは、いつだって俺たちの常識を破壊する。明確な敵なのだ。


 俺が住むのは、国の都市より北東の小さな村である。盗賊はまず、国周辺の村から襲うだろう。


 戦わねば、奪われて死ぬ。運良く生き残っても、奴隷として生きねばならない。


 居場所だってそうだ、俺には、戦う才はない。しかし刀を打つ技量は、人よりも優れている。だからこの場所で生きることが許された。


 勝って生き残る。俺には、まだやりたいことが、たっくさんあるのだから。それに俺には、妹のような存在がいる。彼女のことを思うと、死ねないのだ。


 今日は少し遠出をして、鉱山へ赴くとする。運が良ければ、良質な鉱石が取れるかもしれない。鉱山といっても、祖父の所有する裏山なのだが。


 山は整った道などなく、獣の道であり、運悪ければ熊だって出る。護身用の刀が、唯一の支えだ。


 リーンリーンと鈴の音がした気がする。しかし気のせいだろうと、構わず坑道に向かった。


 坑道は暗く、ジメジメしていて足場が悪い。転んで落ちれば、死んでしまうだろう。全くもって、恐ろしいものだ。


 盗賊と戦うために鉱山へ行き、坑道で死ぬのでは、笑い話にもならない。戦う前から死んで…いや、もう戦いは、始まっているのだ。


 採掘を始めて四時間、納得のいく鉱石がいくつか手に入り、山を下ろうとしたところ。俺は、それを見てしまった。


 鈴の音を響かせ、熊の首を一太刀で落とした武人を。驚きのあまり、言葉にできなかった。

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我足掻きたもう。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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