第2話 そうだよ
どこをどうやって歩いたんだろう。
あんなショックなことを聞いたのに、気が付けば家の近くまで来ていた。
普段のパターンからすると、もう夫は帰宅しているだろう。下手したら、料理を作って待っているかもしれない。
どうしよう、どんな顔をすればいいのか、何を話せばいいのか、わからない。
いっそのこと、なかったことにしちゃおうか。私が話さなければ彼から話すはずがない。そう。心の整理がつくまで、黙っておくのはどうだろうか。
今話し始めたら、涙がこぼれそうな、そして一度こぼれてしまったら、泣きわめいてしまうのではないか、そんな気がして、私は黙っておくことに決めた。
さっき会ったばかりのミチコを思い出した。
小柄で華奢で若くてセンスがない。持ち物すべてが安物で、それに満足している風のミチコのことを私は理解ができなかった。
夫よりずっと年下。夫は大柄で体格もよいから、二人で並んだら大人と子供みたいにちぐはぐだ。
それに、私とはまるでタイプが違う。私はどちらかといえば背が高く、服やバッグや持ち物すべてにお金をかけておしゃれするのが大好きだ。あのような一目見てアクリルだとわかるようなセーターは、就職してから一度だって着たことがない。
そうか。私みたいな女が妻だから、愛人はタイプが逆な人を選んだのかな。
ただいま。
とうとう玄関についてしまった。私は仕方なくいつものようにリビングのドアに向かって挨拶する。
ああ、おかえり。
いつもと変りない出迎えに少しホッとし、またなぜか少しがっかりし、リビングに入った。
今日はスパゲッティボロネーゼ作ったから早く食べちゃいな。
そうきたか。そりゃそうだ。私がミチコに呼び出されたことなんて知らないはずなんだから。
いただきます、と小さくいって、半分くらい食べ終わったところで、夫が突然言った。
そういえば、今日ミチコに会ったんだってね。聞いたよ。
は?
あまりの突然の展開に唖然としている私に、夫はミチコの話をし始めた。まるで、他人のことのように。
ミチコとは友人の紹介でね。もう3年くらいになるかな。見た通り、何も欲しがらない女でね。それにどんな小さなことでも大げさに喜んでくれるんだ。
まるで私がなんでも欲しがり、何に対しても喜ばないと言っているようではないか。私はそんなに悪い妻なのか。自分で稼いでいるんだから、自分のお金をどう使おうと勝手ではないか。
この後どうやって切り返そうか。怒りに任せて怒鳴り散らさないよう、私はすでに冷め切って味がしないスパゲッティボロネーゼを黙々と食べていた。
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