第52話
「…百合さん」
「なんだ?」
「恋人…」
「うんうん」
「…あなたが良いです」
「よしわかった!」
驚嘆する素振りも見せず、考える仕草も見せず、百合さんは即答した。
「私が恋人だな! よっしゃ任せとけ。手を繋いでやろう。休みの日はパフェでも食いに行くか? いや、クレープかな? 一緒に寝るときは腕枕してやるよ。お化け屋敷に入った時は背中に隠してやるから。手料理だって、振舞ってやるから…」
そう捲し立てた百合さんだったが、途中から声が震え始める。見ると、目から涙が零れていて、頬にこびり付いた血を溶かしていた。
唾を飲み込んだ彼女が、前を見据えながら言った。
「だから、死ぬなよ」
「………」
「生きるんだ。多分私は、お前が死んだら、悲しいんだと思う…」
「…はい」
ボクは頷いた。次の瞬間、急に眠くなる。きっと安堵したからだ。しまった…と思い、意識を繋ぎ止めようとしたのだが、風に吹かれたビニール袋のように、強烈な浮遊感が自分を襲う。百合さんの声も、まるで海に飛び込んだ時のように、聞こえなくなった。
ダメだ、死んだらダメだ。
そう思ったのに、ボクは意識を失う。
後のことは、よく憶えていない。
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