第40話ギルドの使い
≪ブラウの街支部の冒険者ギルド長視点≫
「―――ギルド長、植林場の奥…街から少し離れた所にて【魔の森】らしき場所を発見いたしました」
「ふむ…魔物の発見例は幾つか上がっていたが、まさか本当に【魔の森】が生まれていようとは……して、
「奥地の確認は出来ていませんが、入り口付近で確認出来た魔物はゴブリン、スライム、ロックタートルと言った弱い魔物ばかり。恐らく【魔の森】が出来て時間が経っておらず弱い魔物しか生まれていないと思われます。戦力が揃えば可能かと」
先日からちょくちょくと報告に上がっていた『魔物との遭遇報告』と王都から来ていた商人とその護衛の冒険者からの提言で【魔の森】が発生したのでは?とギルド職員を調査に向かわせると、まさかの“黒”。
普通【魔の森】は数十年……いや、数百年以上を掛けて地脈を流れる魔素が固まり、そこを中心に魔素を吸った森が群生して行く事によって生まれる国家指定の災害級危険地帯。
そう簡単にポンポン生まれる物じゃないし、ましてやここら周辺は人工的に樹を植えられた植林場なので、もし【魔の森】化しかけている所があればすぐに気が付きそうなものだが……いや、今は原因を突き止めるよりも出来てしまった【魔の森】を何とかする事に注視するべきか。
「王都のギルドへの連絡は?」
「通信魔道具にて連絡するように手配済みです。それと並行して今【ブラウの街】に滞在している冒険者で【魔の森】攻略に迎えそうな人材へ声を掛けさせている所です。……まぁ数える程度も居ないでしょうが」
「…本来この街周辺で出る魔物はトレントかマイコニドと言ったこちらがちょっかいを掛けなければ攻撃してこない気性が穏やかな魔物ばかり…魔物討伐などを生業にする強い冒険者はこの街に留まらないからな…」
人を見れば襲ってくるような危険な魔物が居れば魔物討伐の依頼なども発行出来て、冒険者が集まるのだが、生憎この街で需要があるのは精々他の街へ向かう際の護衛依頼くらいだ。
その護衛依頼だって基本的に弱い魔物しか出くわさないルートを通る依頼ばかりなので、自ずと有能な冒険者達は王都やその他の街へ流れがちなのだ。
「まぁいい。我らがすべきは王都から応援に来てくれる強い冒険者達の為に情報を集める事。出来立ての【魔の森】であればそれほど規模は大きくはないはずだ、情報収集依頼を多めの報酬で発行しろ」
「かしこまりました」
ひとまず、やるべき事は沢山あるが、根本的な解決は今の【ブラウの街】にある戦力じゃ足りない。
せめて早急な解決が出来るように情報集めを優先しよう。
―――ガチャッ!
「―――し、失礼します!ギルド長!」
「こら、急ぎとは言えせめてノックをしなさい!ここはギルド長室なんですよ?」
「構わない…何があった?」
本来であればマナーに厳しい部下の言う通り、面会中の部屋にノックも無しに入るなど注意しなければいけないが、部屋に入ってきた職員の子の表情を見て、何かまずい事が起きたのだと直感し、すぐに話すように促す。
「す、すみません……実は、王都の冒険者ギルドへと応援要請をしようとしたのですが……間の悪い事に通信魔道具が故障したらしく、連絡不能の状態です…」
「なんですって!?」
報告をしに来た子は上司の大声にビクリと肩を揺らしながら、申し訳なさそうに表情をゆがめる。
別に君が壊した訳でもないだろうに…と呆れつつも事態の深刻さに頭を抱える。
「故障……不運は続くという事か…。ならば仕方がない、魔道具の復旧を目指しつつ、王都へ直接人を向かわせるしかない」
「で、ですが今から王都へ行くとなれば護衛の冒険者と馬車、それに馬を用意しなければなりませんが…」
確かにそれらを準備するのは些か厳しい。護衛の冒険者に関しては道中の弱い魔物のみを排除出来るだけの力があれば問題はないが、馬車と馬に関してはそう簡単に用意出来る物ではない。
馬車だけであれば街に定住する商人が使わなくなったボロイ物などを借りる事は出来るかもしれないが、馬に関してはそもそもこの街で馬を扱う人間が居らず、馬その物が殆ど居ないのだ。
精々王都や他の街から【ブラウの街】へ行商をしに来た商人が連れているくらいである。
「……確か、【魔の森】の可能性を提言した商人のグループは王都から来ていたと言っていたな?」
「は、はい!オレンス様のガトラーに5…6名の搭乗者でブラウの街への滞在は1日と聞いています!」
ふむ、通信魔道具の件は不運だったが、最悪の事態は何とか回避できそうか?
「ガトラー……と言うと王都で良く聞く乗合馬車の様な物だったな?ではその馬車に乗って王都に向かう事は可能か確認して来てくれるか?出来れば早急に」
「か、かしこまりました!!」
部屋に慌てた様子で入ってきた受付の子にそう指示を出すと、ババッと頭を下げ『失礼しまs…』と言葉を言い切る前に部屋の外へ走り去っていく。
「あぁもうあの子は……ギルド長、あの子の教育は後日改めて…私も冒険者への依頼を発行しに向かいます」
「あぁ、頼んだ」
部屋を出て行く部下を見送り、私は今座っている椅子の背もたれに寄りかかりつつ、ため息を吐く。
「……はぁぁぁ……この街は平和なのが一番の特徴だったんだがなぁ……せめて被害が出る事なく終わるのを願う」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
≪コナー視点≫
「と、いう訳でギルドから名指しで依頼をされたって訳だ」
「よ、よろしくお願いします!!」
「はぁ…よろしくお願いします」
翌朝、目が覚めオレンス達と合流してすぐに『冒険者ギルドから乗客が来たぞ』と紹介されたのは、恐らく冒険者ギルドの制服を身にまとった15~6歳の少女。
なんでも昨日のフォルンが言った【魔の森】という予想はドンピシャだったらしく、街の少し離れた植林場で【魔の森】が発見されたらしい。
それで、王都の冒険者ギルドへ応援を呼ぼうと魔道具を使ったらしいのだが、運が悪い事に故障しており、直接王都へ職員を向かわせるという話になったらしい。
それでちょうどよく王都に向かうガトラー…まぁ俺達という存在に白羽の矢がたった。という事らしい。
「えと、料金はきちんと経費で落ちますので、無銭飲食じゃないです!…あ、飲食じゃなくて、乗車…?じゃ!無いです!よろしくお願いします!」
「あ、いや、そこは心配してないんで……えと、お名前は聞いても?」
「あ、はい!私、リルットと申します!よろしくお願いします!」
何回よろしくされるのだろうか…。
「リルットさんですね。…オレンスさん、これって結構大事になってるんですよね?」
「【魔の森】ってのはそんだけ危険って事だからな。流石に急いで王都に向かうべきだろうな。頼めるか坊主?」
「任せてください!」
元々オレンスの馬車に同乗する形でついて来ていたが、本当なら俺が馬車などを【アイテムボックス】にしまい、単騎掛けで移動した方が遥かに時間が短縮出来るのだが、その事をオレンスに言ったら『それだとお前の負担が大きくて俺がサボってる見てぇじゃねーか』とオレンスに怒られた。
別に急がなければいけない訳でもなかったし、俺も『まぁいいか』の精神で馬車移動をしていたが、今は緊急時で急げるなら急いだ方がいい。
「では皆さん!早速王都に向かいましょう【アイテムボックス】」
「おぉ!【アイテムボックス】持ちでしたか!!商人さん達には有益なスキルです!……ってあれ…?でも皆さんお荷物は持っていないような…」
早速、エルダや他の乗客を集め【アイテムボックス】のゲートを開くと、リルットから疑問の声が上がる。
「大丈夫だよお姉さん。こっちこっち!」
「え?え?え???」
説明しようかと口を開きかけた所で、時間が押している事にルイが気を利かせてくれたのか、リルットの手を引いて【アイテムボックス】の中へ連れて行く。
「わ、私!異性の【アイテムボックス】の中に無理矢理入れられる!?せめて初めては優しくs―――」
「やめてッ!?勘違いが広がるから!?ルイ!!ちゃんと説明してあげてね!?俺の為にも!!」
なんとも世間体に悪影響しか与え無さそうなセリフを吐かれそうになったが、ギリギリ周りに聞かれる事なく事が済んだ。
リルットとは初対面でこういう事を思うのは失礼かもしれないが、はっきり言って…。
「……アホの子」
俺はオレンス含め全員が【アイテムボックス】へ入り込んだのを確認し次第、王都へ向けて馬を走りださせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます