第21話魔法の発動に必要なのは【イメージ力】と【強い……意思?】






 そして、ゲルト達が魔物の群れを迎え撃ち始めて数分後。




「おーきーろぉぉ!!起きろってばこのタダ飯食らいの疫病神ッ!」



「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ……あ、あの…フォルンさん?流石にこの状況は起きた方が…」






「……すぴー……デザートははちみつケーキがいぃ……すぴー」




 案の定フォルンが寝ていた事に気が付かなかった俺達は、魔物の数に対処しきれなくなってきたタイミングで頼みの広範囲攻撃が行えない事実にパニックを起こしてしまう。



「頼むッ!このままだと馬車の護衛がままならない!どうにかしてそのバカ女を叩き起こしてくれ!!」



 ついには、先程まで年長の貫禄を醸し出していたゲルトまでもがフォルンを馬鹿呼ばわり…。


 まぁ気持ちはわからなくはないし、俺も【アイテムボックス】というセーフティエリアが無ければ、口に腕を突っ込んででも無理矢理フォルンを起こしていただろうしね。



「おーい?フォルン?フォルンさーん?起きて―!魔物がめっちゃ来てますよ!このままだと何人か怪我人が出ますよ!」



「すぴー……すぴー……アーデリアのゴリラパワーで……全部吹き飛ば……す」



「んなもん無いわよ!?張っ倒すわよ!?」



 案外アーデリアも余裕がありそう?



 ともあれ、このままじゃ本当に怪我人が出ても可笑しくはない状況なので、もう少し真面目に考え込む。



(フォルンは幾ら起こそうとしても起きない…多分顔面に水をぶっかけたとしても、この子場合眠り続けそうで怖いな……もういっその事【アイテムボックス】に皆で避難する?)



 【アイテムボックス】であれば、魔物の侵入を拒めるし、時間が経てば魔物達もその場から居なくなるだろう。


 もし仮にその場に居座られてもフォルンが起きるのを待つか、ゲルト達に頼んで少しずつ魔物を減らして行ってもらえば、比較的安全にこの場をやり過ごせられる。



 しかし、個人的には『今は”ガトラーという職場を見学”しに来ている立場なのだし、出来るだけ手出しはしたくない』と言う思いがあったりする。



 もちろん誰かが怪我をする前には行動を起こすつもりだが、俺の【アイテムボックス】が知られて『ならコナーの【アイテムボックス】の中に入って移動しよう、その方が安全だしな』と言う流れにでもなれば、このガトラーに見学しに来た意味が無くなってしまう。



「どうしたもんかなぁ……あ」



 色々と頭を悩ませていると、とある事を思い出した俺は徐にフォルンへ手を伸ばし、女の子らしく細く柔らかい腕を取る。




「えと……こうでいいかな……」



「……なにやってんだ?こんな状況に手ぇ繋いで青春ごっこか?…流石に寝てる相手にやるのはいかんだろう…」



「違いますよ!?」



 御者のおっさんも戦う力が無いというのに肝が据わっているのか、俺のしてる行動に見当違いな事を言ってくる。



「……さっきの状況で出来たなら、もしかしたら……」




「――コナーさん!」



 アーデリアの声に後ろを振り向けば、馬車に向かって突撃してくる犬の顔をした魔物(多分コボルト?)が見え、隣で俺の事を茶化していた御者のおっさんも『やべぇッ!?』と言った表情を浮かべている。



「くッ…今だ!!」



―――“ファイア・ボール”!



 瞬間、馬車に襲い掛かろうとしていた魔物達に大きな火の玉が直撃し、逃げる時間も無いまま魔物達を炎の爆発で消し炭に変える。



「え!?フォルン?」



「やっと起きたのか!」



 魔法の発動を見て、寝坊助のフォルンがやっと起きたのかと安堵の表情を見せる面々。




「えーと……まだ起きてはいないですよ?」



「すぴー……すぴー……ふがッ……」




「「「「……は?」」」」




 ……しかし、未だフォルンが夢の中をお散歩中なのだと告げると、全員が全員『なんで?』と呆気にとられた表情を浮かべる。




(……ていうかまだ魔物は残ってるんだから気を付けてくださいよ?)



 未だゲルト達の周りに沢山残っている魔物達に目を向け、あまり気を抜かない方がいいぞー?と俺は心の中でエールを送るのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「いだぃ……ふぁぁぁ~……」



「ったく、私達が大変だって時にも平気で寝るからよ」



 魔物との戦闘が落ち着いて来て、最後の一匹をリードディヒが剣で魔物を始末すると、アーデリアが一足先に馬車に乗り込んできて、眠りこけるフォルンの頭に強烈なげんこつをいれる。



 フォルンも暫く眠れた御蔭か、頭にたんこぶを作りながらやっとの事起きる。



「……で?さっきの【火魔法】は何です?もしかしてコナーさんも【火魔法】の使い手なんですか?」



「うぇ?何それ初耳」



 アーデリアが馬車に腰かけると同時に、先程の魔物を焼き尽くした”ファイア・ボール”が何だったのか気になるらしく、すぐに俺へと視線を飛ばしてくる。



「俺は【火魔法】のスキル持ちじゃないですよ。アレはフォルンの【火魔法】ですから」



「―――だが、フォルンは眠っていた。どういう事か説明してもらってもいいかい?」



 最後の魔物を倒し、アーデリアの後に続くように馬車に乗り込んできたゲルト達も先程のカラクリが気になっているらしく、御者のおっさんに馬車を任せつつこちらの会話に入ってくる。



「はい。と言っても、俺がしたのはフォルンの手を“魔物達に向けただけ”なんですけどね」



「手?」



 そう、あの時御者のおっさんに弄られたが、俺がやっていたのはフォルンの手を馬車の外、魔物達が向かってくる方向にフォルンの手のを向けさせただけなのだ。



「実は、俺がフォルンの手を押さえて魔法を発動させた時がありましたよね?あの時に気が付いたんですけど、フォルンは魔法を放つ時に手の平を魔物に向けながら“指を反らす癖”があるんです」



 フォルンは魔法を放つ時、手から放たれる炎を意識的に恐れているのか火傷をしない様に指を目一杯反らしていた。



 これは【風魔法】持ちの俺の兄であるベルフから聞いた事だが、魔法の発動には魔法名の発声は必要なものでは無い物らしい。



 と言うか、これは俺の【アイテムボックス】も同じだが、スキルの発生に必要なのは明確なイメージと明瞭なスキルの使用するぞ!という意思があれば発動する物なのだ。



 どちらかと言えば魔法名を発声するのはその『明確なイメージ像』を手助けする為の儀式みたいなものなので、やろうと思えばファンタジー小説で有名な“無詠唱魔法”も出来なくはないのである。




 「なので、その癖を逆手に取れば、寝ながらでも【火魔法】を発動してくれるんじゃないかなぁって思って……ほら、最初もほぼ眠りかけで目をつむったまま魔法を発動してたし」



「……それはなんとも……大分無茶な事をやって見せたな…もし魔法が発動されなかったら君は魔物の餌になっていたかも知れないというのに…君は勇気があるな」



「ほぇ~……私寝ながら魔法使えたの?……これは寝ていても仕事をしていると言っても過言ではない!?」



「反省しろッ!このバカフォルンッ!!」



「――ぎゃッ!」




 ……女子二人の漫才はひとまず置いて置き、ゲルトの言葉は最もなのだが、俺には安心安全の【アイテムボックス】という隠し球もあった事から特に命の危機を感じていた訳では無いので、そう褒められても妙な罪悪感が…。




「いててぇ……ねぇねコナー。ちょっともっかい私の事使ってみて?」



「は、はい?」



 使う?と言うのは【火魔法】を撃たせてみろという事だろうか?微妙に事情を知らない人が聞けば危うく勘違いされそうな言葉に少し驚いたが、確かに自分が意識が無い時に勝手に魔法を発動されるのは嫌な物だろうし、感覚を確かめて、もしもの時に対処出来るようにしておきたいのかもしれない。






「もし、私が寝てても魔法が使えるなら、私はずっと寝てていい大義名分が手に入るッ…!」






「あ、うん…そうだよね、フォルンがそんな事気にするはずなかったか…」



「ん?…何か言った?」



 いえ、何も…と返事を返しつつ、隣で寝ながら魔法を発動させる技術に目を輝かせるフォルンに手を握らされる俺なのであった。







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