02.幻想的な地獄



???世界「狭間」(ランク?)



*


「… … …」


ぼそぼそと何かが聞こえる。

男性の声かな、少し高くて癇癪的な感じだ、何をそんなに怒っているんだろう。

言っていることが良く聞こえない、


…ああ、頭が痛いな、能力を使うとすぐこれだから困る。


(確かに僕は死んだはず、だよね。)


目が開けられると気がついて薄っすらとだが開けてみる。

なんとなくだけれど、今僕が意識があることを知られてはいけない気がする。

それは今まであの地獄のような国で生きてきた僕の直感だった。


元々が目元が細くてきつい悪人顔だから、目を開けた所で気がつかれもしないだろうけれど。


目に入ってきた景色に思わず声を上げそうになった。


まず一面が黒、どこまでも続くような漆黒。その周りにはちりばめられたように光が無数に漂っている。

光の一つ一つが違う色に輝いていて、くるくると光はこまめに回っている。


よくよく見れば光の一つ一つに小さな文字?かな、浮かんでいて。でもその文字は読めなくて。

この光景を例えるのならば『幻想的』って言葉が合うのかもしれない。生まれてこのかた…どころか死んでも初めてこんな言葉を使った。

悲鳴と火薬と生首が飛びかう血生臭い世界になら常にいたんだけれどな。


(何だろうここは、こんな景色見たことがない。)


奥に小さく見えるのはこれまた見たことがない格好の男が一人。


印象はこれまた黒。黒い色の生地を細身の肢体にまとわせている。

黒の他にも白い生地も上半身に着込んでいて、重なるようにまた黒い布を羽織っていて。頭にもこれまた変な形の黒い…防具が…?とても防御力があるとは思えないし隠すためでもなさそうだ。

首には目立つ赤い布が変な形で結ばれている。首に巻いているっていうことは、敵国捕虜ならば味方からの「落としてください」の合図なんだけれどこれは違うだろうな。


(地獄?なんて本当にあるんだな。地獄って幻想的なんだね。)


勧善懲悪なんて考え方が過去にはあったらしいが、僕がいた時代にはそんなものは皆無、国の教本の中でしか知らない。

その教本の中には天国地獄という死後の世界の話が記載されていて、悪い事ばかりする奴は地獄に落ちて、良い事をしないと天国にはいけないらしい。


一度だけランゲツに『良い事ってどういう事をすればいいのかな。どうしたら天国っていけるんだろうと思う?』と聞けば、『エロぃ良い事すれば天国行けるぞ』と言われて以来この件については聞くことをやめた。


自分は決して天国に行けるような生き方はしていない。と思う、正直よくわからない。

それが当たり前だったから。だからきっとここは地獄。


地面に転がったまま、どんな刑が待っているのか想像しながら耳をすます。

もう少しで聞こえそうだ、少しだけ能力を使って集中する。

ギシギシと痛む頭を押さえながら、男の言葉を聞き取る。



≪『トラベラー』がなぜ見つからない 『あの神』よりも先に見つけなければ≫

≪もう百年近く『本物』が現れない『にせもの』は掃いて捨てる程かかってくれるのに≫

≪ガチャで言う『外れ』ばかりで役にも立たない小者ばかり≫

≪汚い『シナリオ』ばかりが量産されていく ああ嘆かわしい≫

≪二度目に来た『にせもの』には困ったものだ≫



言葉はわかるのに言っていることが全く分からない。

聞いていることが悟られないように、慎重に身体に気を巡らせる。

「能力」も使えるなら「気」も使える。僕は今本当に死んでいるんだろうか。



≪この『世界』はもう駄目だな こんなに酷い状態にして戻りようがない≫

≪もういっそ『塵溜ごみだめ』にして壊してしまおうか≫



(世界?)


聞いていく内に段々とこの場所が地獄ではないのではと思い始める。

目を凝せば、男は忌々し気に宙に浮く黒く淀んだ鈍い光の玉を指で軽く弾いていた。



≪今日も『にせもの』ばかりの案内でウンザリした≫

≪ ああでも まだ一人残っていたか ≫ 



(!)



来る、そう思い急いでそのまま寝たふりを続ける。

能力結構使ったけれど鼻血出ていないよね、多分だけれど大丈夫。


全身にまとわせた気をゆっくりと体内に戻していく。

目は軽くつぶりさも熟睡しているように見せかけながら、男が気怠そうな足取りで近づいてくるのを静かに待っていた。


すぐ側に来ている、気配がするし顔をじっとりと覗き込まれている。



≪これが一番『本物』のように見えるから 最後に残してはみたがどうだろう≫



(『本物』ね。)


要するに『本物』はこの男が望む存在そのものなのだろう。

自分がそうであるか否かについてはわからないが、一つだけ今までの会話で分かったことがあった。


(この男に『はずれ』と思わせなければならない。)


欠片でも『本物つかえる』だと認証されれば最後、骨の髄まで利用されそうに感じたからだ。


暫く不躾に僕の顔を眺めながら、上からうんうんと唸る声が聞こえる。

ある程度したら納得がいったのか、今度は深く呼吸をした。そして…



「『放浪者』様、起きてください。『放浪者』様。」



先程までの気怠けだる忌々いまいまし気な態度はなりをひそめ、明るく優しい声音で僕の肩に触れてきた。



(起きればいいかな、さてと。)



少しだけ楽しい気分になる、やることは生前とほぼ変わらない。

いかに必要な情報を多く聞き出し、この怪しい男をどうやって躱してやろうかと僕は思案した。










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