第25話

九月十九日。今日はみんなが待ちに待った二泊三日の修学旅行その二日目だ。昨日はクラスごとに清水寺と金閣寺、銀閣寺を周り宿へと向かい食事をとり各自部屋で時間を過ごすという流れだった。そして二日目の今日、主な予定としてはグループごとの自由行動だ。俺たちが最初に向かったのは「竹林の小径」と呼ばれる場所だ。そこは野宮神社から大河内山荘を結んだ場所にあり、四百メートルにわたって竹林が続く幻想的な場所だった。天まで届くような高さの竹が両脇に並ぶ風景は、まるでおとぎ話の中に迷い込んだかのように感じるほどで、夏が姿ばかりまだ多少暑さが残るこの時期でも涼しく、木漏れ日を感じる事ができる。その光景をまた俺は口を閉じるのを忘れてしまうほどその景色に見惚れてしまっていた。俺以外にも長谷部さんや神崎さんもその光景に見惚れており、亮だけは興味無さげに歩いている。あいつにはこういうったものがわからないのだろう。そんな亮に対して長谷部さんは嬉しそうに話しかけると亮もそれに反応して先ほどまでの退屈そうな顔はどこかへ消えてしまう。俺はそんな二人を横目に見ていると神崎さんが俺の元まで来る。


「あの二人結構仲良いよね。美男美女だしお似合いカップルって感じするよね」


確かにあの二人はかなり仲が良い。グループが決まって以降あの二人が話している姿はよく見るし、美男美女ということもありかなり絵になる。


「そうだな」


俺は淡白に答える。確かにお似合いだが長谷部さんはわざと亮に話しかけているのだ。その理由は神崎さんと俺をくっつけるのが目的らしい。以前グループを組んでくれた理由を聞いた時、俺と神崎さんが付き合ってると勘違いしていた長谷部さんはその誤解がとけた後今度は俺たちをくっつけることを目的に行動し始めたらしい。これは神崎さんから聞いたことでどうやら神崎さんにも俺との仲を聞いたみたいだ。俺には内緒にしておいてと言っておきながら自分で本人に言ってしまうなんて本当に抜けてる人なんだろうな。


「なになに、嫉妬してるの?それならあたしたちも手とか繋いじゃう?」


神崎さんはニヤニヤ笑いながらそういうと、片手をこちらに差し出してくる。この人は本当に人をからかうことが好きなんだろうな。それに俺が長谷部さんのことを好きと気づいているだろうに。そんな俺たちのことをちらちらと前の二人が見てくる。どうやら亮まで長谷部さんのグルらしい。なんで俺の周りはこんな奴らばかりなのか俺は上を向きながら大きくため息を吐いた。





その後俺たちは他にも適当な観光地を周り最後に「北野天満宮」にやってきた。ここは長谷部さんがどうしても行きたいと言うこともあり場所的にも最後に来ることにしていた。なぜ長谷部さんがそこまでして行きたかったのかというと「学業成就」のご利益があるためで長谷部さんの成績はどちらかといえば下から数えた方が早い。そのためもう時期くる定期テストのためにご利益を貰いたいとのことだった。俺たちはお参りを終えると北野天満宮内にある臥牛のもとまで行く。俺たちが着くよりも早く長谷部さんはお参りが終わるなり一人でそそくさと向かっおり、今もものすごい勢いで臥牛の頭を撫でている。


「そんなことしても頭良くならないんだから修学旅行終わったら勉強するよ」


俺たちが来ても未だに頭を撫で続ける長谷部さんに神崎さんからのきつい言葉がはいる。長谷部さんは「そんなこと言わないでー」と涙目になりながらもまだ撫で続けている。そんな長谷部さんをよそに俺と神崎さんはお守りを買いに授与所へ向かうと学業御守を購入しているとふと視線を感じそちらへと振り向く。そこには私服ではあるもののどこかで見たことのあるような生徒たちと数人のクラスメイトの姿があった。やはり学生たる者みんな学問の神様にあやかりたいのだろう。そしてその中の一人がこちらを見つめており、俺はその人を確認すると一瞬目が合いすぐさま逸らす。相手は柏木さんだ。


「どうかしたの?」


俺の挙動不審っぷりを見て神崎さんは首を傾げる。


「柏木さんがこっち見てたんだよ。あの人最近学校でも良く見てくるからなんか怖いんだよな。もしかしたら本当に俺がユナだってことバレてるんじゃないかな」


俺は不安になりつつ小声で話す。神崎さんも目線だけで柏木さんを探しはじめ「確かに見てるね」と確認すると「モテ期何じゃない」と鼻で笑う。そんな事はないだろ。女装してる時の俺ならともかく今の俺は正直地味で目立たないド陰キャだ。まともに話したこともないのに惚れられる覚えはない。やはり佐伯さんには女装のことばれているのではないだろうか。





____________________________________________________________________________

本編をよんでいただきありがとうございます。

少しでも面白い、続きが気になると思っていただければ☆とフォローをしてくれると励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る