第38話 ナターシャの治療

 フラウムの行方は、分からなかった。


 皇子も探しているところを見ると、フラウムは皇子の所には行かなかったようだ。


 どこに姿を消したのか、皆目分からない。


 フラウムは、お金を持っていないと思う。


 あったとしても、それほど高額な金額は持っていないはずだ。


 テールの都の宿泊所も全て探したが、見つからなかった。


 平民に紛れた可能性もあるが、あの荷物をどのように運んだのかも分からない。


 深夜に家に戻ってきて、父は、怒っていたが、疲れて眠ってしまった。


 翌朝、プラネット家系の騎士達と下級貴族に、フラウムの行方を捜せと言い渡していた。


 毎日、フラウムと一緒に行っていた回診もアミ一人で行くことになった。


 アミは、心細かった。


 フラウムはアミに気を遣いながら、サポートをしっかりしてくれていた。


 扉をノックすると、使用人が「おはようございます。どうぞお入りください」と頭を下げた。



「おはようございます、お邪魔します」



 アミはいつものように階段を上って、ナターシャの部屋をノックした。


 扉を引いたのは、メーロスだ。



「おはよう」


「おはよう。今日もお願いしますね。フラウムは見つからなかったの?」


「ええ、どこに行ってしまったのかしら?」


「心配ね」


「本当に」



 部屋の奥に入ると、ナターシャがベッドに座っていた。



「先生、おはようございます。フラウムの魔力が無限大だって聞きました。フラウムの手術を受けます」


「フラウムは家を出て行ってしまったの」


「私の治療をほったらかしにして?無責任よ」


「昨日は、ナターシャはフラウムの手を拒絶したでしょう?フラウムは、昨日、治すつもりでいたのよ。拒絶されたから、ナターシャの治療はわたくしが一人でして欲しいと言われたの」


「昨日は数値が分からなかったわ」


「もう、遅いのよ。わたくしは、フラウムのように上手く治せないわ。このまま皮膚を柔らかくしましょう」


「そんな……」



 ナターシャは、落胆のため息を漏らす。


 昨日は散々、フラウムを侮辱して、治療せずに、フラウムは部屋を出て行ってしまった。



「アミには無理なの?」



 メーロスは心痛な顔で聞いてくる。



「テリのように完璧に治す自信がないの。あの術はフラウムにしか無理よ」



 アミはナターシャの包帯を取っていく。



「皮膚を柔らかくしましょう」


「そんなことをしても、無駄なのでしょう?」


「以前より、綺麗になってきているわ」


「先生」


「集中したいの。ナターシャ黙っていて」

 

 アミは苛々していた。


 昨日、素直に手術をしていれば、今日は治っていたはずなのに、ナターシャの顔は、まだ引き攣っている。


 上手く魔力のコントロールができない。


「先生、いつもより熱いわ」


「ごめんなさい」


 アミは、いつもより早く治療を終えた。



「今日はここまでにしましょう」


「まだ少ししかしてないわ」



 ナターシャは声を上げた。



「ごめんなさい。疲れているの」



 ナターシャに新しい包帯を巻いて、アミは早々に部屋を出た。



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