第30話 宮廷

 朝食後、ナターシャとテリの治療を終えると、自宅に戻り、白衣からドレスに着替えた。


 昨日のお茶会で着た物ではなく、きちんと仕立ててもらった高級品だ。


 今日は侍女に髪を結ってもらった。清楚な白っぽいドレスに、靴も白い。


 フラウムの銀に淡いピンクアメジストの髪によく似合っている。

 母は、ロイヤルブルーのドレスを身につけ、銀の髪を結い上げている。



「では、行きましょう」


「はい」



 馬車が屋敷の前に来ている。


 そこに乗り込む。



 +



 宮廷に到着すると、皇妃様とお妃勉強をしていた別邸ではなく、皇帝もいる宮廷に招かれた。


 しかも、謁見の間でもなく、サロンに招かれて、フラウムは母と首を傾げる。


 サロンは展望台になっていて、ぐるっと四方が見える。


 思わず窓辺に寄りたくなるのを堪えて、母と一緒にソファーに座る。



「フラウム、待っていた」



 迎えに出てきたのは、シュワルツだった。



「畏まった席など、要らぬだろう?景色はどうだ?よく見たか?」


「そういう訳にも……」


「このサロンから見える景色を、フラウムに見せたかったのだ」


「ええ、とても素敵ですけれど」



 また、フラウムは母の顔を見る。母は頷いて、「心遣いありがとうございます」とシュワルツに頭を下げた。



「今日は、皇妃様にお目にかかって、お話をするつもりだったのよ」


「母君も、ここに来る」



 ノックの音がして、扉が開いた。


 皇妃様が部屋の中に入ってくる。


 フラウムと母は、立ち上がって、カテーシーを取る。



「楽にしてください」


「はい」


 皇妃様はソファーに座った。



「ソファーにどうぞ」


「はい」



 フラウムは母と隣り合って、ソファーに座った。



「よく見ると、親子だと分かるほど似ていますね」



 フラウムは嬉しくて、微笑む。



「わたくしも緋色の髪はしておりません。フラウムは間違いなく、わたくしに似て生まれてきています。魔力も測定しておりませんが、かなり強いような気がします」



 母は淑やかに話をする。


 元々も、母は感情を激しく表に出す人ではない。


 清楚で、淑やかで、清らかで、気品がある。



「そうね、フラウム嬢ももう16歳になったのだから、一度、魔力測定をしておくといいですね」



 皇妃様も清らかな女性だ。


 妃候補第一位と第二位だった頃は話をしたことは、あったのだろうか?


 フラウムは、他の妃候補を知らない。


 名前も顔も見たことがない。


 シュワルツは知っているのだろうか?



「シュワルツの魔力は980あるのよ」



 皇妃様は自慢気にシュワルツを褒めた。



「それはすごいですわね」



 母も褒めたけれど、母の魔力は一万を超えていたような気がした。正確な数値は覚えていないが、幼い頃に聞いた事があった。


 皇妃様はどれくらいなのだろう?



「私は魔力は高くないのですよ」



 フラウムの心を読んだように、皇妃様がおっしゃった。



「私はとても平凡で、皇妃になれるとは思っていなかったので、勉強もしていませんでした。子を成すために、皇帝と結婚をしたのです。結婚の申し込みも、『貴方を愛してはいませんが、愛する努力をしていきます。どうか私の子を産んで欲しい』でしたわ」



 皇妃様は笑い話で、求婚の申し込みの話をした。



「皇妃様は、それでよかったのですか?」


「そうね、愛されて望まれる方が、より幸せでしょうが、皇妃とは国母ですからね。シュベルノバ帝国を一緒に守るのだと強い意志で、皇帝の申し込みを承りました。フラウム嬢は、シュワルツに愛され、求められておりますので、私は反対はしておりません。結婚の時期は、二人で相談し、皇帝の許可が下りたら、結婚しても構いません」


「母君、ありがとうございます」


「皇妃様、ありがとうございます」



 シュワルツとフラウムはお辞儀をした。母も一緒にお辞儀をした。



「妃教育は、そうですね。幼い頃からしていますからね。週に一度、お茶会を致しましょう。貿易の勉強はそこで致しますね。ダンスレッスン、マナーのレッスン、帝国の歴史などは、過去にしておりますので、気になるようなら、ご自宅で家庭教師を付けて学んでください」


「はい」


「後は、シュワルツと仲良くなさい」



 皇妃様は優しく微笑んだ。



「お母様は私に求めている物はありますか?」


「わたくしの子はフラウムだけでございます。一人娘なので、大切に育ててきました。どうか、皇妃様もフラウムを愛してくださいますように」



 母は、皇妃様に頭を下げた。



「約束致します。大切なお嬢様を、私も我が子のように大切に致します」

「ありがとうございます」



 母はまた頭を下げた。


 フラウムは目に涙を貯めて、母の手を握っていた。



「シュワルツは、今日の日を楽しみにしていたので、宜しければ、私と二人でお茶会でも致しましょう」



 皇妃様は、母だけをお茶会に招待した。



「フラウムも、今日を楽しみにしておりました。二人で、デートに行ってらっしゃい」



 母の手が、フラウムの手を握って、そうして離した。



「では、母君、ご配慮感謝致します。フラウム、行こうか?」


「皇妃様、お母様、ご配慮感謝致します。行ってきます」

 


 差し出されたシュワルツの手に、フラウムは手を重ねた。



 +



 招待された所は、温室だった。


 温度管理されたそこは、温かく、適度な湿度もある。


 寒い冬なのに、春の花が咲き、果物もなっている。


 水が流れているのか、小川のような音がする。


 なんだか懐かしい音だ。



「ここにいると、キールの村にいた頃を思い出すのだ。小川の音がするだろう?」


「いま、わたくしも、同じ事を思いましたの。小川のような音がすると」


「そうであろう」



 温室の奥に進むと、カウチと小さなテーブルが置かれていて、お茶の準備がされていた。


 色鮮やかなフルーツとプチケーキ等がお皿に載っている。



「まあ、綺麗ね」


「綺麗だけではなく、甘くて美味しいぞ」


「わたくしの為に、準備をしてくださったのですか?」


「毒味もしてあるし、銀のスプーンもフォークもある。安心して食べるがいい」



 シュワルツは、フラウムを抱き上げると、片手で葡萄をつまんで、フラウムの口に入れた。


 ツルンと甘い果実が、口の中に入ってきて、口いっぱいに甘い味が広がった。


「こんな寒い時期に葡萄があるの?」


「この葡萄は南国の国から輸入しておる」


「まあ、高級品ね」


「せっかくの品だ。しっかり食べてくれ」


「贅沢だわ」



 シュワルツは目を細めて、フラウムの頬に触れる。



「この国の国民も食べている一般的な物だ。スピラルの塔は知っているか?」


「この間、その近くを通りました」


「スピラルの塔にあるフルーツ屋に売っている。人気の葡萄だ。お金があれば、平民でも買える物だ」


「平民でも葡萄を買えるのですか?」


「しっかり働いて、収入がある者だけだぞ。貴族でも働かない者には、食べられない。テールの都は、平民でも働きたいと希望をする者には仕事を斡旋している。この土地は観光地になっている。働き手はいつも足りない」


「テールの都は、観光地でしたっけ?わたくしの記憶では、寂れた街だったような気がしていました」


「まだ発展途中だったのだろうな。ここ三年の間に、かなり発展したのだ。私がテールの都を管理している。皇太子になったので、予算を多くもらえるようになったのだ。この地は、シュベルノバ帝国の保養所のような場所にしたいと思っている」



 フラウムは頷いた。


 知らないことは多くある。


 また葡萄を口の中にツルンと入れられた。



「甘くて、美味しい」



 頬が落ちそうで、両手で頬を押さえる。



「なんと愛らしい」



 シュワルツは、しっかり腕に抱きしめて、頬に頬を触れさせる。



「フラウムを腕に抱き眠っていたので、この地に戻ってきてから、寒くて仕方がない」


「目が覚めるとシュワルツがいないから、早朝から、シェフにパン作りを習っているのよ。キールの村でパンが焼けなくて、シュワルツにお腹いっぱいパンを食べさせてあげられなかったんですもの」


「可愛いことを。だが、早朝からキッチンでパン作り等習わなくても、もうキールの村に行くことはないだろう?」



 シュワルツは前髪を撫でて、そのまま、口づけをして、フラウムの顔をじっと見つめる。



「未練や後悔は、できるだけ残さないようにしているのよ」



 フラウムはドレスのスカートに皺が寄りそうで、スカートを直しながら、紅くなった頬を隠した。



「フラウム、まだ不安か?」


「不安よ。好きになった人が皇太子だなんて、指の間をすり抜けてしまいそうよ」


「フラウム、私の愛は届かないのか?」


「そんなことはないわ。わたくしも愛しているの」



 シュワルツは、フラウムの体をカウチに横にした。真上から、フラウムを見つめる。


 二人で見つめ合って、唇を合わせる。


 何度もキスを交わし、シュワルツはフラウムの唇を割って、舌を絡めた。



(駄目よ。シュワルツ。そんなことをしてはいけないわ)



 フラウムの心の声を聞きながら、シュワルツはキスを続ける。


 フラウムの目がとろんとして、手から力が抜ける。


 けれど、美しいドレスを穢すことはシュワルツにはできなかった。



「フラウム、愛している。すぐにでも結婚するか?」


「もう少し、お母様と一緒にいたいの」


「いつまでだ?」



 崩れてしまった髪を、指先で梳かしながら、シュワルツはフラウムに聞く。



「お母様に寂しい想いをさせたくないの。今やっと、お母様は、先生になったの。自分で生活ができるようになるまで、見守っていたいの」


「結婚しても、見守ることはできると思うが?」


「……わたくしだけが、幸せになってもいいの?」


「親は子の幸せを願う物だろう?フラウムが幸せになれば、母君は喜ぶと思うぞ」



 フラウムは、何度も頷いて、涙を必死に拭う。


 泣かせるつもりはなかったのに、フラウムを泣かせてしまった。


 綺麗に結い上げられた髪は、崩れてしまった。


 フラウムの体を起こして、カウチに座らせる。


 魔道具のポットから、紅茶をカップに注ぐと、銀の匙で混ぜて、フラウムにカップを持たせた。



「髪を崩してしまった。すまない」


「いいの」



 フラウムはカップを持ちながら、崩れた髪を手櫛で伸ばしている。



「先に飲んだらどうだ?零してしまったら、ドレスも汚れてしまう」



 フラウムは頷いて、紅茶を飲み出した。


 シュワルツも紅茶を入れて、一緒にお茶を飲む。



「ケーキはどうだ?どれが好きだ?」


「あなたよ」


「フラウム、私はまたフラウムを泣かせてしまうかもしれない」


「いいのよ。シュワルツがいいと思う物をください」


「ああ、いいとも」



 シュワルツはお皿に、果物と花が飾られたケーキを載せてくれた。



「口を開けて、あーん」



 フラウムが口を開けると、ちょうどいい加減の量のケーキが口の中に入ってきた。


 オレンジの風味のするケーキだ。


 甘酸っぱくて美味しい。



「美味しいわ」



 テーブルの上をよく見ると、軽食も載っている。



「サンドイッチもあるのね?」


「欲しいのか?」



 フラウムは手を伸ばすと、それを一欠片取って、シュワルツの口の前に持って行った。



「どうぞ」



 シュワルツは嬉しそうに口を開けた。


 お互いに食べさせあって、抱きしめ合った。



 +



「ねえ、シュワルツ、もし、この間、わたくしが顔に火傷をして、元の顔とは違ってしまったら、シュワルツの気持ちは変わってしまったかしら?」


「綺麗な顔をしているではないか」


「もし、醜くなってしまったら、愛は冷めてしまうのかしら?」


「そうだね、フラウムの美しい顔に傷が残ってしまったら、悲しく思うだろう。でも、私はフラウムの顔だけを好きになった訳ではない。きっと愛は冷めないと思うよ」


「だといいわ」


「どうかしたのか?」


「クラスの女生徒が二人、顔に酷い火傷を負ったの。今、母に治療方法を習って、母と一緒に治療をしているの。けれど、火傷はとても酷くて、顔の骨まで達する程だったの。皮膚を増殖させながら、整復して、鏡の術で左右対称の顔を作り直したの。まだ彼女たちは自分の顔を見ていないの。皮膚はまだ引き攣れて、お化粧しても隠せる程には治っていないの。そんな顔を婚約者が見たら、どう思うのかしらと思って」


「そんなに酷い火傷だったのか?」


「毎日、皮膚を柔らかくする魔法をかけているのだけど、自分だったらと思うと辛くなるのよ。自分の顔を見たとき、ショックを受けると思うし、婚約者に会うことだって辛いと思うの。毎日、彼女たちの治療に、母と行っているの」


「皮膚を柔らかくする魔法は難しいのか?」



 フラウムは、シュワルツの手を引くと、腕の上に手をかざした。



「気持ちがいいな。優しい温度だ」


「これを続けると、肌が柔らかくなるんですって」


「フラウムの頬も、もっと柔らかくしたら、どうだ?」


「頬、堅いですか?」


「いや、もちもちだ。母君が、よく言っておるのだ。頬がモチモチなら化粧乗りもよくなるのにってね」



 フラウムは微笑んだ。


 確かに、言われてみれば、母も自分の頬にしているのを見たことがあった。



「そうね、わたくしも、モチモチにしようかしら?シュワルツが喜びそうよ」



 柔らかくしたシュワルツの腕に触れる。


 ちょうどいい弾力がある。



「手触りが変わったな?フラウムの腕のようだ」


「わたくしの腕は、もう少し硬いわよ」


「いや、腕の付け根だ」


「エッチ」



 フラウムの頬が真っ赤になる。



「足にも触れてみたいな」


「駄目です」



 悪戯なシュワルツの手がスカートの中に入ろうとしてくる。その手をパチンと叩くと、拗ねたシュワルツは、フラウムを膝に抱き上げた。



「なあ、フラウム、フラウムの髪に飾りたい物があるのだが、私の部屋に来てくれるか?」


「髪、クチャクチャですか?」


「崩してしまったから、櫛で梳かしてやりたいのだが」


「櫛を貸してください」


「では、行くか?」


「はい」



 フラウムはシュワルツの膝の上から降りようとしたら、そのまま抱き上げられた。



「恥ずかしいわ」


「恥ずかしければ、目を閉じておればよい」


「分かったわ」



 フラウムは眠ったフリをすることにした。



「愛らしいな」



 耳元で囁かれて、くすぐったくて体を竦める。


 その体をしっかり抱いて、シュワルツはフラウムを見せびらかしながら歩いて行く。



 +



 メイドに櫛と鏡を頼んで、シュワルツはフラウムを執務室に連れ込んだ。


 ソファーに下ろされて、フラウムは目を開けた。


 シュワルツは、机に歩いて行くと、引き出しを空けて、すぐに戻ってきた。


 結い上げていた髪が、崩れてしまったので、手で髪を梳かす。オイルを塗っていたので、自分にクリーン魔法をかけて、髪をさらさらにした。手で髪を梳かすと、シュワルツも一緒に髪を梳かしてくれる。



「綺麗にしてきたのに、すまない」


「いいのよ」

 


 ノックの音がして、シュワルツは扉を開けると、メイドから櫛と鏡を受け取った。


 すぐに戻ってきて、フラウムに鏡を持たせると、シュワルツが髪を梳かしてくれる。


 髪を梳かしてもらっているだけなのに、好きな人にされていると思うと、なんだか特別な気分になる。


 フラウムは上目遣いに、ご機嫌なシュワルツの顔を見上げる。


 鼻歌を歌い出しそうなシュワルツは、とても楽しそうだ。


 耳の横で、サラサラと髪が流れる音がする。


 いつもの髪型にして、頬の横にある髪を後ろに梳かすと、起用に髪を何かで留めた。



「見てみるか?」


「はい」



 シュワルツは鏡のある部屋に連れて行くと、そこはベッドルームで、慌てるフラウムを、箪笥の上に置かれた置き鏡の前に連れて行く。



「どうだ?」



 手鏡で髪の後ろを見せてくれた。



「綺麗です」



 そこには、金で薔薇が作られていて、中央に大きな紅い宝石が輝いていた。


 一目見ただけで、安物には見えない。



「紅玉を見つけた時は、まだフラウムと出会ってはいなかったが、フラウムを見てから、その紅玉で飾りたくなったのだ。出会いは運命だな。よく似合う」


「高価そうよ?もらってもいいの?」


「贈りたいのだ」


「ありがとうございます。大切にします」



 髪飾りもとても気になるけれど、シンプルで豪華な、この部屋も気になる。



「ここは、私の寝室だ。結婚をするときは、もっと大きなベッドを置こう」


「素敵な部屋ね。ベッドも十分に広いわ」


「そうか?キールの村で使っていたベッドよりは大きいな」



 シュワルツは少し笑った。



「そうね、シュワルツには、あのベッドは狭かったわね。足もはみ出してしまっていたし」


「そうだな」



 白いレースのカーテンに、窓の横で黄金のタッセルで纏められたカーテンは、銀のような白色だ。ベッドは大きくレースの天蓋があり、やはり四隅には黄金のタッセルで纏められていた。

 

 ベッドルームには箪笥が一つあるだけだ。


 眠るだけの部屋だと分かる。



「早く、また一緒に眠りたい」


「わたくしも、夜、寂しく思うの。でも、まだ、もう少し待って。母の事もあるけど、クラスメイトが苦しんでいるときに、結婚の話はできないわ。母と一緒に治すって約束したの」


「フラウムは優しいからな。魔力も優しい」


「シュワルツ、もう少し、待って」


「ああ、いいとも。だが、デートはしよう」


「今度は、シュワルツに誕生日のお祝いをしなくちゃ」


「楽しみだ」


「パーティーが開かれる。兄達も来るだろう。紹介させてくれ」


「急に緊張してきたわ。ダンスは、もう3年も踊っていないの。どうしようかしら」



 シュワルツは微笑む。



「では、レッスンは、私がしよう。いつがいいか?夜、訪ねていくか?」


「いいの?」


「もちろん、いいとも。正式に侯爵家に手紙を書いておこう」


「お祖父様、許してくださるかしら?」


「許してくださるように、私からお願いしよう」



 フラウムは、何度も頷く。



「夢をみているようよ。シュワルツとダンスが踊れるなんて、いいのかしら?」


「フラウムは私の婚約者だ。そうだ、誕生日に正式に婚約発表しよう」


「胸がドキドキするわ」


「愛らしいな」



 シュワルツはフラウムの背中を支えると、自分の執務室に連れて行った。



 いつまでも、未婚の女性を寝室に置いておくと、常識を疑われてしまう。




「ずっとここに、置いておきたいが、そろそろ送っていこう」


「何時かしら?」


「もう、夕方だ。母君は先に帰られたそうだ」


「遅くまで、ごめんなさい」


「引き留めたのは、私だ。さあ、行こう」


「はい」



 シュワルツは、フラウムと手を繋ぎ、出口まで歩いて行く。


 扉の外には、馬車が止まっていた。


 御者の騎士が、扉を開けた。



「フラウム、どうぞ」


「ありがとう。皇子様みたいね。本物の皇子様だったわ」



 シュワルツとフラウムは、笑い合った。


 護衛の騎士が、馬に乗って、馬車の回りに集まりだした。



「旅の時に馬車に預けた荷物は、母君と一緒に届けてもらっている」


「無事に馬車は戻ってきたのね。皆さん、無事でしたか?」


「怪我をしている者も多くいて、休暇を与えている」


「シュワルツ、忙しいのでしょう?ダンスのレッスン、無理をしないでね。家庭教師を頼んでもらってもいいし、お祖父様が相手になってくださるかもしれないわ」


「フラウムに誰も触れさせたくはない」


「シュワルツ」


 馬車が動き出して、シュワルツはフラウムにキスをした。


 互いに手を繋ぎ、体を寄せ合った。



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