拾った皇子と時空を超える。魔力∞でも、恋愛は素人なの

綾月百花

プロローグ


 フラウムは薬草を摘んで籠に入れていく。


 今日は雲が出ていて薄暗く雨が降りそうな天気だ。


 早めに帰宅した方がいいかもしれない。


 空を気にしながら、帰宅を決めると、家に向かって薬草を摘みながら歩いて行く。


 熊除けの鈴が、腰でチリンチリンと鳴る。


 深い山を抜け、草原が広がった。その時、大きな銃声の音がした。



「ひっ!」



 びっくりして、フラウムは飛び上がった。


 音は山の中ではなく、崖の上からした。


 咄嗟に崖の上を見ると、男達が集まっていた。



「盗賊?」



 いや、あれは、帝国騎士団の制服のような気がする。


 賊に襲われたのか、賊を襲ったのか?


 もう一度、銃声がした。



「逃げなくちゃ」



 目の前には、川が流れている。


 急いで橋を渡った時に、人が流されてきた。


 流されてきた人は、橋の手前で石に引っかかって止まった。それを見たフラウムは置き去りにして逃げるか助けるべきか悩んだ。


 万が一、悪人だったらと思うと怖く、それでも、万が一、被害者だったら助けなければならないと葛藤した。


 濡れた洋服は赤く染まり、彼が怪我をしていると示している。


 このまま放置したら、死んでしまうかもしれない。


 人が死ぬのは怖い。


 だったら、助けてから、どうするべきか考えた方がいいかもしれない。



「落ちたぞ、探せ」



 男の声がして、フラウムは泣きそうになりながら、石に引っかかっている男の元に走った。



「浮遊」



 フラウムは、魔術が使えた。


 魔法使いの一族なのだ。


 男の体が浮き上がって、フラウムに付いてくる。


 フラウムは走った。


 とにかく、身を隠さなければならないと思った。


 目の前にある林まで走って、男を寝かすと、木の葉でその体を隠した。



「遮断」



 気配を隠す魔術を放って、フラウムも身を隠す。


 男達が川沿いを走って行く。



「いないぞ」


「流されたのかもしれない」


「もっと下流だ」



 男達は帝国騎士団の制服を着ていた。


 そうして、今、隠している男も、また帝国騎士団の制服を着ている。


 同じ制服を着ているのに、撃ち合ったのだろうか?


 どちらが敵でどちらが被害者?


 男達の姿が消えたので、フラウムは隠した男を、もう一度浮遊させた。


 万が一、悪者だったら、自分が殺されるかもしれないけれど、フラウムは自分の直感を信じていた。


 この人は、きっと悪い人ではないと思う。


 悪いことがあるときは、亡き母が遺してくれたブレスレットが教えてくれる……はずだ。


 フラウムは男を自分の家に連れて行った。


 魔術で浮かせたままで、剣を外し、濡れた洋服を脱がせて、ベッドに寝かした。


 傷は脇腹を撃たれていた。



「清潔」



 体をクリーン魔法で綺麗にする。



「消毒」



「透視」



 言葉に出さなくても魔術は発動させることはできるけれど、言葉に出すのはフラウムの癖のようなものだ。


 傷を視て、魔術で治していく。



「治癒」



 手をかざして、意識を集中する。


 腕のブレスレットには強い魔力を貯めてある。その魔力を媒体にして、自分の魔力と混ぜながら魔術の力の制御をするのだ。


 治癒魔法は、この帝国の中でもフラウムの一族だけが使うことができると言われている。


 母からは、誰にも見せてはいけないと言われている。


 その母ももう今は亡き人だ。


 銃弾は貫通しているし、運良く臓器は傷つけていない。


 脇腹の傷は、すぐに治るだろう。


 頭を視ると、幸い脳出血の様子はない。


 目を覚ませば、安心できるだろう。


 フラウムは治療を終えて、洗い立てのシーツを掛けて、布団を掛けた。


 この家には、フラウムしか住んではいない。


 男物の洋服など無い。


 シーツしかないが、真っ裸よりはマシだろう。


 それから、男が着ていた制服のポケットの中を探る。


 制服に名前が刺繍されていた。


 ―――――パルマ・クロノス


 聞いたこともない名前だった。


 フラウムは男をベッドに寝かせたままにして、今日採ってきた薬草を片付けることにした。


 しばらくは眠るだろう。


 その間に、やることはたくさんある。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る