魔術制御機関:終末世界の雨上がり(仮)

サギリ

プロローグ

プロローグ

 人生すなわち時はレコードのよう。すでに未来は決まっており前世や来世などない。ただ、ひたすら繰り返される事と同じ。そう彼は話したようだ。

 だが、それをまた再生していいようにする必要がある。これもつけ加えねばならない。

 夜に生きる私のセレナーデよ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 団地の屋上では風が強く吹き、後ろから照らす月の影は見えない。この星を眺める時は感傷に浸る。僕だけの秘密の空間そのものだ。この空間を支配しているのは私だけだ。港の近くの市街地はまだ光っている。湾内中央部に建てられたタワーもまた神秘的だ。


「ねぇ……なにしてるの?」

 突然後ろから声がした。屋上のドアは誰も明けていないはずなのに。

 そっと後ろを見る。


 月光でシルエットしか見えないがそこには宙に浮かぶ女の子がいた。

「昨日もきてたよねぇ?一昨日も。そんなに死ねないなら殺してあげるよ」

 彼女は少し離れた位置から僕に急接近して蹴り飛ばした。


 「わぁぁぁ!!!」

 屋上から放り出された身は瞬く間に加速し、地面めがけて落下していた。団地の駐車場めがけて落下している。もう助からない。

 


 「こんなんじゃ死ねないよ。高さが足りないね」

 突然、彼女が僕を後ろから抱きしめ、耳元でささやいた。その後、落下速度はみるみる低下した。そのまま再び屋上へ抱きしめられたまま飛んで連れて行かれた。屋上へ着いたらそっと地面に落とされた。その恐怖から足が眩んで地面に腹ばいになっていた。

 「どうだった?飛び降りは」

 そう彼女は問いかけてきた。

 「飛び降りって言うより、殺人じゃないか……」

 顔を見上げる。そこにはそこそこ長い透き通った赤黒い髪にフォーマルな服装、柄頭に青く光る宝石がはめ込まれた芸術性の高い剣、赤いバラの髪飾りをつけた女の子がいた。少し、笑みを浮かべてこちらを眺めている。

 「でも、昨日も今日も死にたがってたじゃない。どうせ死ぬんでしょ?なら少し頼みを聞いてよ」

 (頼み?というか僕に自殺願望はないぞ。勘違いも甚だしいな)

 「私の、私のごはんになってよ」

 「ごはん?」

 (まさかこいつ、ぼ、僕を殺して食べるつもりだったのか!?初めからだ、空を飛んだり、突然アパートの上から突き落としたと思えば、いきなり救助してくる。この女、本当に頭おかしいんじゃないか)

 「ぼ、僕を食べるのか?……お、美味しくないと思うよ」

 すると突然、あの女が笑い出した。

 「元人間でも、さすがに人間は食べないでしょ」

 元人間?この女は何なのだ?

 「そんなに怖がらないでよ。私はレイ・ホルヴェーク。吸血鬼よ。貴方は?」

 彼女を後ろから照らす月の光が眩しい。影になった彼女のほのかに輝く赤い目に見惚れてしまった。

 

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