48 祝祭と流転
53
あれから少しだけ時間は過ぎ
リフレシアはめでたくと言うべきなのか、私と同じ[スターキャリアー]として働く事となった。
業務内容説明の際に本人は「あまり楽しく無さそうだ。」と嘆いていた。
素行はどうあれなんとか所長の許諾も得られ、共に行動し依頼を熟す事となった。
その折に所長から別件での話として私は彼と話す事となるのだったが、その内容はナインズ、及び"マグ・メル"の監視役の一人として抜擢されたという話で、
彼直々のお達しとの事。
私にとってこれ程信用出来る人はいない。
そんな人間を彼自ら選んだ理由、それは私への信頼に対する証明の為なのだろう。
所長は「仕事が増えて困るよ」と弱音を吐くものの私としては断られることのほうが恐ろしく彼を引き止めるべく必死に励ますのであった。
依頼を終え、少しの間街に滞在をしていたローライはというと、
早速貰った報酬で街で買い物へ行くとラックを引き連れ下町へと降りそのまま元の家のある"ノコラズの森"へと戻ると言う。
私達はそこでしばらくの別れを告げた。
「さて、俺らはどうするかね」
「式典まで何も無いし、しばらくまた暇になると思うから街を案内でもしようか?」
「式典?」
「前に話したでしょ?"マグ・メル"の封印を式典で披露して欲しいの」
「そうだったか、でもあれだなあまり大きい所でこの顔を出すのも今後旅に支障が出るんじゃないか?」
「そう思って事前の打ち合わせで顔や姿は隠して行うんだって」
「それ信用されんのか?つうかその男も信用できんのか?なんかお前が警戒していた時より譲歩するって感じで話進めてたのに上手い具合に全部通ってんじゃねえか」
彼女の言う通り。全て丸く行き過ぎている気がする。何より彼がそこまでを引き受けてまでする理由すら私には分からない。もしかすると本当に街が平和である為に自身から動いているのかもしれない、何一つ信用出来ていないからこそ彼の考えを理解してはいないだけで本当の目的というのはそこまで悪い物では無いのかもしれない。
「お前、間違ってもそいつが良い奴だなんて甘えた事ぬかすなよ
「え・・・えぇ!?」
「思ってたのかよ・・・お前バカか、そもそも話し合いで最初から済むならだ、
ごもっともである。見透かされた私が恥ずかしくその後もガミガミと怒られながら「ハイ・・・ハイ・・・」と言われるがまま返事をするだけの機械としばらく化していた。
「まあ裏があるにしてはあまりに奥手過ぎる気もするがな・・・何か狙いがある様には見えんな」
「もしかしたらだけど・・・。あなたがというかサニアさんがもしかしたら私たちの知らない何かしらの力を持っていて、それに恐れていてあまり手を出しにくかった・・・とか?」
「ありえそうだな、まあ取り付けた約束だ。これで何かしら相手から動きがあって俺達を狙うのであれば亡命するなり俺達で全員ぶっ殺すかだな」
「・・・本当に最悪はそうなりそうだよね」
冗談の様に聞こえる彼女の言葉はとても現実的で冷たい選択肢、しかしそれしかもう無いほどに相手は話が通じない物だと彼女は私に言い聞かせている。
「まあ気負うのは何かしらまたトラブルに巻き込まれた時だ。今は自由にあらゆる国が回れる、楽しみだ」
「楽しみなんだ」
「まあな、龍という強大な存在と敵対し得た奴らの自由とその先の世界というのを見せて貰おうじゃ無いか」
「ご期待に添えますかどうか・・・お姫様」
「今の約濁には不服だがな」
これから彼女との旅が続く、しばらくしていなかった誰かとの旅はここから再び始まる。
不安も多くなってこれからも大変な旅は続くけど、それ以上に心強く、頼りになる仲間が出来た。
私の旅は希望を胸に新たな始まりを迎える。
54
式典当日。
慌ただしく大変だった数日間、あれからゆっくりと日々は過ぎ気がつけば一ヶ月ほど経ったその日急遽開かれることが告知された式典は、その期間とは思えない程のお祭り騒ぎとなり、他外国の住人やお偉い役職の方や客人を迎え
パーティさえ開かれる程の準備の周到具合。
パーティ自体はやはり”カラット”の上層で招待された者しか招かれず、勿論私達やラック、ローライや所長など顔馴染みの人間も招待を受けていた。
しかしラック達は来られないという一報と共に私達も式典には参加をするのは当然ながらパーティには参加はしないと決めていたので、身内がいない所長は「身内がいないと、誤魔化せないから接待だらけになって困る」と嘆いていた。
式典が始まる午後のおやつ時まで私達は下町のお祭りや出店を回り楽しんでいた。
「おいカペラ!!あれなんだ!!あれも美味そうだな!!」
まるでそれははしゃぐ子供のそれで、街の子供達に混ざり騒ぐ彼女は楽しそうに街中を見渡す。
見た目はもう小さな子供というには無理がある少しお姉さんと言った風貌なので、周りには溶け込めていない違和感は若干ある。
式典に合わせその場に相応しい大人しめの服装をしている私達はとても動きやすい服装では無いので走り回る彼女を追うにも一苦労した。
「ちょっと・・・待ってよ、リフレシア〜・・・」
「とろいぞ!」
「服汚さないでよ、式典までまだ時間あるんだから」
「どうせあっちに行けば着替えるんだろ」
「そうだけど・・・せっかく買ってあげたんだから大事に着てよ〜・・・ハァ・・・」
露店や出店に並べられた食料を買い彼女に餌付けしその場に立ち止まらせ、彼女の服についた埃や土を払いながら身だしなみを直す。
折角用意した服もこの調子では式典には汚れで目立ってしまい恥をかいてしまう。既に食べこぼしやソースなどといったもので服は所々シミが出来ているのはもう見なかった事にしたい。
「大盛り上がりだな」
「まあ一応平和への祭典って事で協定を結んだ国々のお偉い人を呼んで祝うっていう事だからね。しかも協定の根幹である”マグ・メル”の実質的破棄が叶うっていうんだから」
彼女はそれを聞き笑う。「人の苦労も知らんとな」と言いながら。苦笑いで返していると街に立つ時計台は12時を指しながら大きな音を鳴らし知らせる。
「こんな時間か・・・そろそろ行かなきゃ」
「もう行くのか?」
「準備とか段取りとか聞かないとだし」
「特別何かする訳でも無いが失敗したらどうなるんだろうな」
一瞬悪い顔でそんな事を言う彼女に私は少しゾッとしたが、彼女は直ぐに「嘘だ嘘」とつまらなさそうに撤回する。
ホントにこれから彼女の気まぐれに振り回される予感は嫌という程感じてしまう。
「じゃあ行こうか、式典」
「何かあると良いな」
「何も無い事祈ってる」
彼女と私は直ぐに式典のある上層の街へ向かうと、内門で早々に案内人に出迎えられそのまま大広間に用意された会場へと迎え入れられた。
全ての段取りの説明と共にこれまた仰々しく包まれ豪勢な箱に収められた奇妙な形をした杖が1つ、私達の目の前に出される。
それはナインズが隠し持っていた"マグ・メル"。
名前も確認されていないそれは一見しただけで分かる禍々しい存在感と"フィアー・スター"にも劣らぬ強大な魔力を感じられる。
それが普通でない事はきっとこの式典に訪れる、戦いや魔法に長けていない客人にも伝わるであろう程の力。
封印から舞台に捌けるまでの流れはとても簡素な形でまとめられ、凡その式典の流れはナインズのスピーチとセラムへの黙祷と戦死への経緯を話したのちにその活躍を評して弔いと授与という丁寧な構想で終えるという、小一時間かからない程の物だった。
段取りの説明から簡単な打ち合わせや通しといった事も含め、その式典でナインズと顔を合わせる事も無く式典は最後まで何事も無く終えられたらしい。
何故こういった後日談の様な言い回しになるのかと言うと式典には最後まで参加せず、封印の儀式を終えてからは直ぐにその場から離れ、私達は最後までその場で式典を見ずに下町へと戻ったのでした。
式典の内容は改めて後日助長に確認したからで、その事について彼女は「良いのか?最後まで見なくて」とリフレシアは不思議そうに私に問いかける。
「ん?まあ何かあれば所長が教えてくれるよ。それに私ナインズ苦手だし。それにほら、つまんないでしょ?」
呆れた様な笑みを浮かべ彼女は言う。
「なんだよそれ・・・もしそいつが適当言って俺達逃げたと思われないか?」
「そんなに心配なの?あなたらしくない」
「自分の身が可愛いんだよ。あれこれ理由付けられてつけ狙われるのもゴメンだしな」
「リフレシアって思ってたより心配性なんだね。可愛い所あるじゃない」
そういうと彼女は分かりやすくムッとした表情を見せ、私はその表情につい笑ってしまうと「不愉快だ」と言い残し、近くの出店へと彼女は走っていった。
「リフレシアがあんなにつまらなそうにしてたからね・・・。セラムさんごめんね、式典途中で抜け出しちゃった」
街の中心から鳴り響く大きな鐘の音。黙祷が始まった。あれだけ騒がしかった街はその鐘の音を聞くとたちまち静まり返り、街中の人間はその一瞬誰もが静かに黙祷を行った。
目を閉じ、鐘の音が鳴り止むその時まで私は彼との旅を思い返す。
決して全てが楽しい思い出だけではなかったけど、私達の旅には彼がいた。
彼が望んだ最後だったのだろうか?彼の願いは届いたのだろうか?
鐘の音が鳴り止み、静かだった街は再び賑わいだし街の人々は変わり無く動き出す。
-第1部 死神の白魔法-
終わり
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