23 当事者 ⑪
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見ただけで分かる、死んでいる。確認した所で意味など無い。
分かっているがもしかして、まだ間に合うかもしれない。そんな風に思い息をしているか確認したが息などしているわけもなく魔力も感じない。
サニアかどうかも分からない訳も無く紛れもなく彼女だ。彼女の手に触れるが冷たい。
どう繕おうともそれはサニアの他無い誰でも無い彼女の亡骸。死んでから腐敗は進んでいない、つまり殺されたのは最近。頭や身体中の傷口の血は乾いている。
殺された。きっと例の交渉で偽物がバレた、例の男が殺したに違いない。それ以外に思い浮かぶ事がない、それに彼女の私情を知らないとは言え恨みを買う様な生き方はしていないはず。
だが殺す程の事なのか?彼女が指示通りに話したとするなら拾った物とだけしか話していないはず。中身があんな物だというのは知らない、そしてそれを勝手に高値で買った。それが男の目的の物では無かったから殺したという事なのか?
殺された理由はどう考えても理不尽他ならない。最初から殺す事が目的なのであれば話がつく。
「サニア、痛かったか?せめて最後まで見届けるべきだったな。俺にはお前をどうしようともう救うことは出来ない。だがせめて俺のやり方でお前の無念を晴らしてやる」
体を元の大きさへと戻し彼女の亡骸を抱き抱え、俺はサニアの体を全て食い尽くした。
目を閉じ、亡き彼女の体が口に、刃の様な歯に切り刻まれる所を見ずに血の一滴も溢さぬ様に、食べたのだ。
目を開くと手には少しばかりの彼女の血と仄かにかおり、いい気分ではない。だが不思議と力が湧いて出る様なそんな気がした。
身体中の魔力を練り上げ龍の姿から形を変え、人間の姿へと変わる。それは彼女”サニア”そのものの姿に。
オアシスの水面に映る自身の姿は不気味に思えるほどだった。
彼女の亡骸に覆われていた大きな布の服の代わりに体に巻きつけ、町の方まで歩いて行く。
俺自身あの交渉をしていた男を見ていない、町に帰れば何かしら誰からか反応がありそいつの足取りが掴めるはず、なんとか”サニア”として振る舞う必要がある。
あの時、オアシスの周りには足跡が全く無かった。もちろん数日経つのなら風のせいで消える事もあるだろうが亡骸の感じからすると数時間といった所だろうか、その間全く痕跡も残さずこの何もない一面傾斜のあるだけ砂の世界から抜け姿を消すのは難しい。
空から見渡したあの時には人影はなかった、それならここから数時間で身を隠せる場所はこの土地の町以外無い。
もし町に着いた時点でどこかへ行っていたのなら尚更町の人間に聞けばすぐ分かる。
俺は急足で街へと行く、慣れない人の体だったが慣れるのにそうそう時間はかからなかった。
一時間しない位には町が視界に現れ、近くでは町の人間と思われる人物がいた。
「おい!そこのお前!」
その声に驚く住人は俺の方を見ると不思議そうな顔で口をぽかんと開けている。
「さ・・サニアちゃん?」
「そうだ、ここら辺で変わった男を見なかったか?」
「え・・・えっと・・・服はどうしたんだい?」
「今はいい!!いいから答えろ!」
「いや・・・え・・・どうしたんだサニアちゃん」
苛々とした表情を見せると住人は困惑した表情で言う。
「ああ・・・あのどこかから来た男なら急足で君の家の方まで行ったよ」
「どこだ!?」
怖がる様子で指差す先に俺は急いで走って行く、小さな町には違いないが建物はそれなりに並んでいる。町中の視線が集まる中一人の女を捕まえ脅す様にさっきであった住人と同じ問いをすると一軒の家を指差した。
結果から言えばそこはサニアの家だったという事をその後すぐ気付く事となる。
家の中に入ると人はいなかったが家の二階にあたる場所から物音が聞こえ、直様階段を上がり様子を見ると少し痩せた一人の良い歳の男が机に向かい座っていたのだ。
「おい」
階段を駆け上がる音から最初から気づいていたのか男は振り返る事なく適当な返事を返しこういった。
「サニアかい?早いね」
俺は黙ったまま机を前に座るその男の襟を掴み椅子から引き摺り落とし突き伏す男の頭に足を乗せると、
男は焦った様子で「何をするんだ!」と叫ぶので腹に一撃蹴りを入れ、悶えるその様子をしばらく眺めていた。
「おい、あの男はどうした?」
ようやく男は俺の姿を見るや否や少し驚いた表情であっけに取られたような表情を見せ、確かめるように言う。
「さ・・・サニア?暴漢かなにか・・・」
「もう一度言う、あの男はどうした?」
「男?・・・ああ・・・、あの男か・・・調査書を渡せと言ってきたあの男ならあれ以来来ていないよ」
「町にもか?」
「たまに見かけるがあれ以来調査書を渡せとは言わなくなったな、丁度今日も調査の為に"カスレミレ"の様子を見ていた時には来ていた・・・それよりサニア・・・一体何が?」
調査書?そういえばサニアのやつ父親がどこかの機関の人間でとか何とか話していたような・・・、ということはこいつが父親。男を探すのが最優先だが、サニアが殺された理由とこの男からその調査書というのを狙っていたが止めた事も気になる。
「おい、調査書っていうのは何だ?」
そう問うと目の前に座る男はグッと口を締め目をそらす。呆れた俺は石を蹴るが如く顔面に勢い良く回し蹴りを入れる。サニアの父親と思わしきその男は蹴られた勢いで近くにあった本棚に体をぶつけ苦しそうに悶えていた。
「あまり回りくどい事は好きではない」
「サニア・・・、父さんが黙っているからと言って調子に乗るなよ・・・」
更に腹に蹴りを数発、顔面に数発殴り入れ、ついには男は嘔吐し怯えた表情で俺の目を見ている。
「殺さずには済ませてやる。だがな、今俺は非常に気分が悪いんだ。俺はあらかた知っているんだ全部答えろ」
「ぜ・・・・、私の調査書を見たのか・・・?」
男の顔を青ざめさせれた。勿論ブラフ、何も知らないがこの父親がサニアの事を全く見ていなかったのは彼女の話から何回か聞いていた。自身と重ねていたのだろうか、俺なら父親にこうしたかった。八つ当たりだ。
しかしそれが功を奏した、何か知っている事は探れたのだから。
男を間髪入れず持ち上げ壁に押し当て利き手と思われる腕を折り首を絞め悶える様子をしばらく見続けているとついに男は口をひらく。
「ほ・・・本気で私を殺すのか?サニア」
呆れた。もう一度蹴りを入れると男は片手で頭を守り体を丸め防御姿勢になり体を震わせ怯えた様子を見せる。
「話す話す話す話す話す!待ってくれサニア!お前が怒るのも無理はない!!」
「・・・・話せ」
男は体を丸めたまま壁に向かって話した。
「・・・この調査は”トリル・サンダラ”の地質調査じゃない、いや・・・地質調査を名目にした経過観察なんだ」
「経過観察?」
「"カスレミレ"。あれの状況調査それはこの土地の魔力の動きを見る為にこの土地へ来た・・・サニアがどこまで内容を読み理解したのかは分からない・・・、しかし私にも伝えられていないから詳しくは知らない。・・・だが大凡機関の目的は分かる」
「成程・・・だから俺を利用したのか」
それっぽいセリフを吐くと見事に男は体をびくりとこわばらせる反応を見せた。その様子を見るに当たりだ。サニアは何かしらに利用される為にこの土地へコイツと来ていたのか。
「・・・どこまで、それを」
「続きを話せ。質問するな」
「・・・、私が一年前に機関から伝えられた内容はこうだ。『この土地でしばらくの間極秘で地質調査を名目に魔力の流れやその土地に関する環境の変化を調査をせよ、異変があれば直ぐに報告』との事だ、そしてこの内容にはお前を連れここへ来る事が絶対条件。最初から変だと思っていたんだ。施設にいたお前と共にこの土地へ来る事」
「養子」
そう言えば以前、サニアは自身について話していた事を思い出した。養子であり孤児院で育った、そんな内容だった気がする。
「覚えているか?あの研究所からサニアを引き取ったのちにまたしばらく施設に預けた事。都合が良いよな・・・お前も何か勘付いてはいたんだな」
「簡潔に答えろ、思い出話など無意味だ」
「・・・サニア、君は私達機関によって作られた鍵なんだ、それは極秘中の極秘だが機関の人間なら大抵は知っている、更に詳しい内容は知らないがね。そして恐らくこの土地に君にしか開けない魔道具がある。恐らく”アレ”だろうな・・・。私はその調査内容を聞いた時大凡そんな事だろうと予想は出来ていたんだ」
”アレ”、あの禍々しい箱に旗に違いない。
「君がこの土地でそれを見つけるための探知機であり鍵。そして君がそれと接触した時、この土地の魔力に変化が起きる。そういう算段なんだろう。機関もバカだな、こんな事機関の人間なら大凡予想はつくのに態々回りくどい言い方でここまで調査させるとは」
一段落話し終えた様に男は落ち着いた様子を見せ、再び質問を投げかける。
「俺は・・・何者なんだ」
男はさっきまでベラベラと話していい内容では無い事を話しながらも、その質問には少しばかり沈黙する時間を要した。その事から少なからず普通じゃ無い何かを彼女は持っていることに確信を持った。
「サニア、君は特別だ。それ以上に君が聞くべき事は何もないよ、聞くべきではない。かく言う私も確定したことではない事を君に伝えられない、知らない・・・んだ」
あれだけ痛めつけてそれだけは話したがらない、父親としてか?良心か?何にせよ聞いた所でどうしようもない内容なのだろう。それからは黙ったままだったので自ら質問することにした。
「男は?」
「・・・あの男は本当に知らない、面識もない。どこの何の依頼で調査書を欲しているのかは知らない、名前すら言わないのは論外だ、機関以外の譲渡や情報の公開はありえない。表では地質調査なんだ、途中経過の情報公開は聞いていないから突き返したよ。恐らく最近になってこの土地の砂による自然現象"砂上の夢"の以上発生に人を襲った事件。あれらの事についての情報を欲しがっているんだろう」
「で?今日も来たんだろ?他の住民は皆ここを指差し示していたぞ」
その質問に男は顔を見せ不思議そうな顔で俺を見て言う
「え?いや・・・私はずっと2階にいたが・・・」
その質問に男は顔を上げ不思議そうな様子で俺を見て言う、男の様子はまるで嘘をつくそれには見えなかった事に狙いはこのサニアの父親から彼女サニアになったのだと考えが及ぶ。
「おい、俺の部屋はどこだ?」
「え・・・」
「答えろ!!」
「い・・・一階の居間の奥だよ」
二階から階段を下り、急いでサニアの部屋へと入り棚という棚や家具の隙間などを覗き込み調べ気がついた。
あの”旗”を魔道具を封印した箱が無いことに。
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