17 当事者 ⑤



24


初めて感じた感覚、箱の中に封印されていた方がまだ結意義だ。

腹は減る、一日が長い、それに暇。

あれから2日だろうか、サニアとも会っていない。

ダンジョンを探検するが何も無い、物や生き物1つだ。


海辺に出ては魚を食うが飽きたし不味い。

最近砂浜の砂が集まり何やら海洋生物らしき物に化けて現れ、動き回る。しばらくすると満足したかのように砂となりサラサラと崩れ落ちる。

サニアが何と言っていたかは思い出せないがそれを頻繁に見るようになった。何度かあの奇妙な道具が入った箱を開けようか考えもしたが、やはりその不気味な力がどう作用するか少し怖いながらも見たくもあった。

まあ開けないがな、理性が勝った。


夕方頃位だろうか、ダンジョンで一人火遊びをしている頃にサニアが入って来た。

少し元気が無いように見える彼女は少し無理に笑顔を作っていたのが分かる。


「リフレシア〜、売ってきたよ」

「どうだった?」

「うん・・・でもこれで良かったのかなって・・・」


後味の悪そうな、何かよからぬ事をして叱られた様なそんな顔をするサニアがいつもより弱々しく見えた。


「交渉が上手くいかなかったのか?」


大袈裟に首を横に振る彼女、しかし何に気をとめているのかと問いただすと彼女はこう答えた。


「倍額は少し悩んでいたけど、直ぐに出すって返事が貰えたんだ」


つまりは当初予定していた金額以上の取引は想定内ということ。これだけでもアレに対する価値はある程度分かりやすいものになった。


「ああ、良かったな」

「悩んだのはお金が足りないからってわざわざ私の町で自分の持ってる高そうな武器や物を売ったり、婚約していた彼女さんへの指輪を売ったりしてお金を作ってた・・・」

「それに悪気を感じたのか?甘いなお前も」

「うん・・・でもね、それさえ手に入れば依頼が完了して買い戻せるから大丈夫だってその旅人のお兄さんが言ってたんだ。その依頼さえこなせれば結婚式の資金も加えて手に入るからって嬉しそうに言ってたの聞いて・・・」


お兄さんという事は男か。それに依頼という事は恐らくあれを手に入れたがっているのはその旅人では無くその旅人に依頼した人物がいる。

そうなると依頼主も馬鹿ではない、鑑定士やらハンターや商人等は雇っている筈。恐らく偽物だとバレるだろう。

偽物を掴ませたからバレたら依頼は上手くいかず報酬金は貰えない。質に出した物も取り返すのに時間が掛かると。


「まあ俺達には関係の無い話だ、気に病むな。それで倍額手に入ったうえであとは情報だ」

「その事なんだけど、そのお兄さんは「俺も依頼で受けた物だから使い方も何なのかも定かじゃない」って。どうして欲しいのかに対しては「依頼された物だから、これを渡せば依頼主から報酬が貰える」だって」

「成程な、まあ想定内ではある」

「そうなの?凄いね、全部わかっちゃう」

「まあな、そういう場合も一応はあるなとは考えてはいた。だがそういう事ならもっと金額をふっかけるべきだったか・・・」

「そんなの無理だよ・・・それこそ交渉にならないでしょ?」

「その依頼主に交渉すれば良い、仲介役にその旅人を使いマージンをせしめれば丸く治るだろ?」

「何言ってんのか分かんないけど、良からぬ事なのは分かるよリフレシア」


色々想定していたが思っていたよりあっさりと交渉が滞りなく進む、気掛かりな点はあるが深く考えた割にあまりにもすんなり目的も答え法外な金額にも柔軟に対応した。だからこそ、この不気味な箱の正体が気にはなる・・・


結局使い方やなんなのかは分からない。痛手とまでは言わないにしても何なのかは知っておきたい所ではあった。間違いなくこれはとんでもない力を持っている、これさえ扱えれば更なる力が手に入る。


「金はどうした?」

「お金もあの箱もまだ貰ってないし渡してないよ。お金まだ少し足りないそうだから一旦トリル・サンダラから出て近くの街で預けてあるお金を持ってくるって。箱はオアシスの方に隠してあるよ」

「正式に交換はまだ出来ていないのか・・・まあいいだろ、追加で何か聞くのも良いだろう。仮に偽物とバレたとしても知らないふりしろ」

「う・・・うん」


何気なく彼女の目を見ると俺の目を少し逸らす様子を見せ、明らかに何か隠している様なそんな素振りに見え少し鎌をかけるか。


「お前、そいつに何か話したろ?」

「え??・・・えぇ?」


図星、分かりやすいなこいつ。良くすんなり交渉出来たもんだな。


「お前の事だ、何か交渉に関係のない余計なこと言っただろ」

「・・・えっと、実はお父さんの事とか町の様子について聞かれてつい・・・、も・・勿論これを掘った事や開けた事とかリフレシアの事は話して無いよ!」

「当たり前だ。世間話ならまあいいが探られてるかも知れないんだ、必要以上に馴れ合うな」

「うん、ごめんね。でもそのお兄さんも色んな事話してくれてね、楽しかった」


ハッと彼女は両手で口を押さえ、申し訳なさそうに俺に頭を下げた。

少し気になるその男、どちらかといえばそんな奴に依頼をした人物が気になる所だ。

恐らくあの道具に関しても最低限の事しか聞かされていないのだろうか、再び探った所で恐らく何も知らないだろう


「リフレシア、結局それはどうするの?」


彼女は俺の持つ掘り出した禍々しく力を帯びた道具の入った箱を指差しいった。


「そうだな・・・、使い方も分からなければお前は金を手に入れて結果から言えばもうこいつに用は無いと言えばないな」


それを聞いたサニアは少し何か言おうと口をパクパクと動かしていたがなにか飲み込む様に口を閉じた。


「なんだ?何か案があるのか?」

「ねえ、それ元に戻そっか」

「またあの掘った穴を埋めるのか!?しかも今はもう水溜りになって水源と化してるんだぞ!冗談じゃない俺はやらんぞ」

「そっか・・・それもそうだね。じゃあそれリフレシアが持ってて」

「・・・何か言いたげだな、なんだ?」

「え?・・・いや・・・、それよりリフレシア。お家どうするの?」

「そんな事気にしていたのか、しばらくはこの地下牢にいるが魚も飽きたから何か食い物しばしば運んでくれ。俺はお前の言う”町に利益を与える”というのをお前が終わらせるのを待つ」

「え?なんで?」

「なんでってお前、共に世界を回るんだろ?俺の夢を探しにいくんだ。早く済ませろ、でないと俺一匹でこの砂漠から出ていくからな」


彼女の口はニコリと笑みが溢れながら分かりやすく照れていた。

バカだがこいつは使える、それに少なくとも愛着が少しある。手放す手も無い。


「うん!早く終わらせる!」


そさくさとその場から去ろうとする彼女を止める間もなく、地下牢から去り姿を消した。その後ろ姿は最初の元気の無さ等感じない程に。


「今から急いだ所で金がまだ用意出来てなければ意味が無いだろうに・・・本当にあいつはバカなんだろうな」


地下牢の奥に戻ろうとした。その時になってやっと気がついた異変。それは何か嫌な予感とは違う違和感にも似た物だった。

その違和感は"あの箱"からだと直ぐに気づいた。気付くべき異変はそこ以外に考えがつかなかったからだ。


適当に置かれたその箱を静かに拾い上げる、箱の隙間からは何とも言えぬ煙の様な何かが少しだけ流れ出していた。しかし、以前と変わらずその箱の中から出る道具の魔力に変化は無い。

という事は箱自体の魔力かと考えた。しかしそれも違う。

恐る恐る箱を開けるといつもと変わりない魔力の塊のような道具が1つ、そこから白い煙が出ると共に形状はカチカチと音を鳴らし、棒の先の2面についた四角は少しづつ棒の中心へと磁石に寄せられた様に寄っていた。


「形状が変化している?なんだこれは・・・」


幾つにも折り重なるその道具は形状を変え、2メートル程の何でもない細長い円柱の形へと変化し止まったのだ。

透明なその杖にも似た棒を手に取ると独立し地面に立ち、棒からはまるで旗の様に揺らめく煙が流れ出し、その様子は正に地面に突き刺した旗竿そのままで、あっけにとられていた俺は終始その姿を変えるまでに見惚れてしまっていた。


「なんなんだこれ・・・急に現れて・・・」


突如として現れた旗竿を手に離すと、水晶の様に透明な円柱の竿の中は禍々しく黒い模様が中から浮かび上がり、再び凄まじい程の魔力をおびると共に地下牢中の砂が渦を巻く様に旗に集い、鎧を纏った戦士の形を成しその砂で出来た戦士は旗を手にかけ俺の方を向き、その旗を武器の如く振り上げ正に人の様に臨戦体制の如く構え出した。


「面白い、たかだか武器如きが俺に挑んでこようか?」


”砂の戦士”とでも呼ぼうかその戦士は匠の様に旗を振り回し、襲いかかってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る