15 当事者 ③




22


「ここか?」

「はぁ・・・はぁ・・・、そう・・・」


息を切らし手は膝につきながらもしっかりと指を差し、サニアの言う大きな力を感じる物がある方を示していた。

しかし辺り一面やはり砂しかない。少しばかり潮の匂いがするがそれも少し遠くからでこの場所一帯とは関係はない。やはり何も感じない、この娘がからかっているとも思えない。


「おいサニア、本当にこんな所にあるのか?」

「はぁ・・・ふう・・・、本当にあるよ、ここまで来てハッキリ凄い力を感じる」


感じ取れない、魔力や力に対しては母譲りで凄く敏感な所はあり他より優れていると自負していたのだが、特筆してサニアは何か感じ取れるらしい。それもその何かを掘り出せば済む話だ。


「とりあえず場所は把握したよね、じゃ!」


そういうと先程来た道を戻っていく彼女に思わず動揺し引き止めた。


「待て待て待て!どこ行くんだ!」

「え?帰るんだよ。だってほら」


そうして指を空に向け指す方を見ると日は沈み始め、間も無く夜が来ようとしていたのだ。


「俺はどうするんだ?まさかこのまま置いていくのか貴様。良い度胸しているな」

「あれ?箱に戻れないの?」

「戻れない、更に言うなら箱でも置いていくなバカ」

「それもそうか。どうしようかな」


そういうと何か思いついた様に彼女は服の下にしまっていた、俺が封印されていた空の箱を取り出し始め「戻れ!!」と大声を出した。


「お前バカか、そんな魔力も使わず俺を再び・・・」


箱の中身は漆黒に満たされ、黒い渦が発生し瞬く間に俺はその闇の中へと吸い込まれていった。

嘘だろう?魔力も術式も詠唱、情報すらなく再び箱の効力を取り戻した。ありえない。

驚く間も無く闇の中瞼は重く閉じていった。


それからは全く記憶が無い。再び封印から目を覚ました時だった。さっきとは一転して空は明るく、日は上がり目の前にはサニアの姿があった。


「おはようリフレシア」

「おう・・・というか「様」をつけろ」

「なんで?」

「俺はお前のボスだぞ。敬え」

「友達でしょ?」

「手下だ」

「そっか手下か、分かった。リフレシアじゃあ掘ろうか!」

「おまえな・・・」


サニアと俺で何があるかも分からない、彼女が示した場所を只管に掘った。彼女は持ってきた小さな板で、俺は大きく鋭い爪で。

その日から只管掘って、掘って、掘って。そんなつまらない日々がしばらく続いた。


だが悪くはなかった。お喋りで馬鹿みたいに明るいサニアがいたから、下らない事や世界のこと、全くと言って良いほど興味の無い家族の事を毎日明るく色々な事を話す。

不思議な事につまらないが飽きはしなかった。いつしかこんな日々も悪くは無いなどと、腑抜けたことすら思ってしまう位に。


毎日あれだけ朝から夕暮れの日までバカの様に砂を掻き出しては掘って、たまに現れる砂の生き物に穴を埋められたり。何をしているのか馬鹿馬鹿しくなる事もしょっちゅうあった。

しかしそんな中でもサニアはずっと俺と話していた、ほとんどは覚えていないが印象的な事はいくつか覚えている。


「私ね、養子なんだ」

「ほう」

「お父さんの話はしたよね?地質学者でって話」

「覚えてないな」

「ひどいなリフレシアは。でね、私お父さんのいるチームが持つ孤児院に住んでて。いつだったか覚えてないけどお父さんが養子に貰ってくれたんだ」

「チーム?どこかの軍団ということか」

「よくは覚えてないけど大きい組織があって、その組織が管理してるチームがお父さんの働く仕事場なんだ」

「その話面白くなるのか?今の所つまらんぞ」

「面白く無いと思う。けどね、リフレシアは私にこの世界の事位しか聞いてくれないじゃ無い、だからリフレシアはリフレシアの事や家族の事もっと教えて欲しいなって」

「なんだそれは・・・話す必要も無いだろう」

「私は話したよ」

「だから何だ・・・」

「私、あなたと仲良くなりたいんだ。私孤児院でも友達がいなくてね、あなたの手下ではあるけど友達にはなれるでしょ?」


その時初めてサニアの寂しそうな顔を見た。こいつバカみたいに明るく振る舞っている癖してこんな顔もするのかと少し驚いた。そんな表情を見たからなのだろうか、俺も口がいつの間にか緩くなった。


「俺には父と母がいた。正反対の考え方でな、喧嘩までしないまでも俺の事でたまに言い合いになっていたな。大した思い出もないな。母は殺され、父も殺された」

「そっか・・・嫌なこと思い出させてごめん」


初めて生まれた沈黙の時間。あれだけ彼女の話しかけが鬱陶しく感じていたのに、静かな時間が少し辛く感じた。


「なあサニア、お前の夢は何だ?」


初めて自分から話しかけた。その事に驚いたサニアは俺を見上げキョトンとした顔をしたのちにすぐ笑顔に変わる。


「あのね。私は今はこの地中に眠る何かを掘り上げる事!」

「下らないな」

「重要なのは次の夢!それを使って今いる町の皆んなの役に立ちたい」

「何かも分からんのにか?」

「わかる!絶対にこれは皆んなを幸せに出来る!そんな気がする!」

「それが出来たら?」

「次は他の町や村に行って人の役に立つ事をしたい!」

「適当だな。楽しいか?そんな先が早い小さな願いを叶えて満足か?」

「楽しいよ、次の夢を叶えたらまた新しい夢が見つかる、探せる。楽しくて仕方ないんだ!次に何をして何を叶えたくなるのか!ワクワクする」


そうサニアは楽しげに話していた。

ふと、考えた。俺は何者で何がしたい?龍が支配出来なかった世界に俺は何がしたい?

支配していたら違っていたのか?いや、分からない。何もない日々を過ごすだけが俺の生きている意味なのか?


また龍の支配を、世界を支配して何になる?成功しても失敗してもまた同じ事を繰り返すのか?

それは楽しいのか?俺は何を見てどうしたかったなんて考えた事も無かった。そうだ、俺には夢がない。

何がしたい?この下らない掘り出し物を終えた後何がしたい?何をする?

楽しくなんてない、ただ虚無が襲う。この先もずっとただ何もなく生き続けるのだ。


「リフレシア?」

「・・・・。なんだ?」

「リフレシアは?何か夢はないの?」

「無いな、野望も夢も」


どこか期待していた、この少女が何か俺に与えてくれるのかもしれない。それが夢と呼ぶのだろうかは分からないがまるで縋り付く様で情けないと心中思った。


「リフレシアは何がしたいの?」

「したい事・・・そんな物考えた事もない」

「”強い敵と戦いたい”、”幸せな家族が欲しい”、”美味しい物が食べた”、”誰かに認められたい”。”大金持ちになりたい”とか、お父さんは”仕事を早く辞めて、静かに暮らしたい”なんて言ってたね。世界には色んな人がいて色んな問題や色んな習慣、見た事の無い食べ物や本でしか見た事な無い大地があるんだよ。それにね、色んな人が色んな夢を持っていて皆んな一緒に見えてちょっとずつ違うんだ」

「・・・そうか」

「ねえじゃあ私の夢を一つあげる」

「はあ?」

「その夢を叶えるまでにリフレシアはリフレシアの夢を見つけてよ、もし見つからなかったら今度は私と一緒にあなたの夢を見つけることが私のもう一つの夢になる。それってきっと楽しいよ、ワクワクしない?」


そう俺の目を見て満面の笑みで笑い言う。あまりにも下らないそんな話にふと少し笑ってしまった。

彼女は俺の手を両手で握りいった。


「私の夢!『世界がどんなふうになって、世界はどう変わっているのか色んな所を旅して見てみたい!』を与えます!それは契約です!」


もちろん魔法など使えていなければ何の効力もない詠唱、勝手に作った約束だ。


「世界を見るか、悪くないな」

「でしょ?最初はね絵本で見た”オーロラ流星”が見たいな」

「なんだそれ?」

「氷の街で見られる伝説の流星で、空高くにある星が落ちる時にオーロラを突き破って見えて凄い綺麗なんだって」

「下らないな本当に、そんなの見て何が楽しいんだか」

「楽しく無いかどうかは見てから決めよう。じゃあこれが終わって、私の住む町の人達を幸せに出来たら一緒に探しに行こうよ!」

「おい、他の街や村の人間の役に立つって話はどうした?」

「じゃあオーロラの流星が見られる街の人の役に立つ事をすれば良いんだよ」

「適当だな」


下らない話。だけど自分にとって何かが変わる、彼女といれば何かが見つかる。

そんな気がした、気がしたんだ。


サニアと出会い、一ヶ月と少し。今から四週間程前に差し掛かる位の頃、大きく事態は変わった。

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