2.3 ワミボッ!!
直感でわかる。
今、この瞬間イファニを、凛香を助けることができるのは、僕一人だけだ。
大丈夫。僕は今『命』の能力を所持している。
以前の僕とは違う。強いんだ。
誰よりもVIPって言ってたじゃないか。
世界を統べれるって言われてたじゃないか。
強いんだ。強いんだ。強いんだ。
いける、いけるいけるいける。
止まれと命じるんだ。
その三文字で解決だ。
動け!動け!口を開け!言え!命じろ!!
「止まれっ!!」
渾身の力で振り絞った叫びを放つ。
だが、男は足を止めなかった。
「な、なんで…?」
新幹線は停止し、京都駅へ到着してしまった。
まずい。男が外へ出てしまう。
考えろ!止まらなければどうする?
男が止まらなければ…。
辺りを必死に見回した。
京都駅へ降りようとする人が何人か、列を作っているのが見えた。
これだ!
「京都駅に降りようとしている人全員、赤ん坊を持ったその男を外に出すな!!」
視界が青く染まる。
『命』が発動する合図だ。
10人くらいの人が束になって、走る男を止めに入った。
男は体を支えきれず、人の雪崩に巻き込まれた。
「お見事でございます!月吉殿!!」
バスタさんは小さな体を使って、人の雪崩に入り込む。
「僕だって!!」
僕も走り出し、人の雪崩に突っ込んでいった。
「どこだ!イファニ!!」
すると、二つ宙へ舞う影が僕らの頭上を通った。
それは、狸が赤ん坊の首襟を咥え、飛ぶ姿だった。
「バスタさんっ!!」
「月吉、お前の勇気ある行動を見ていた。よくやった。」
イファニは僕の顔を見て、そう言ってくれた。
だが、
「ぎぅっ!」
動物が放つ聞き苦しい鳴き声が聞こえた。
顔を上げるとバスタさんの首根っこは何者かに捕まえられた。
「梢…さん…?」
青く輝く瞳の梢さんが、そこに立っていた。
バスタさんを振り払い、凛香の体を抱える。
「梢さん!ダメだ!!」
梢さんはそのまま、新幹線から出て、ホームを走り出した。
窓から窓へと映るその走り姿を、目で追う。
じわじわと状況の重大さが僕の肩にのしかかる。
「…、どうしよう…。大人に走りで追いつけるわけない…。」
「月吉殿!梢殿がホームから降りる前に、その哺乳瓶を『ワミボ!』と叫びながら、梢殿へ向かって投げるのです!!」
バスタさんは落ちていた哺乳瓶を頭で押し、僕の前へと持ってきた。
「こ、これを…?」
「いいから早くっ!」
バスタさんは気性を荒くして僕にそう言った。
その言葉に僕は自然と体が動いた。
「ワミボだなっ!?」
僕は走りながら、落ちていた哺乳瓶を掻っ攫い、ホームへ降りた。
梢さんはもうすぐエスカレーターへと差し掛かるところだった。
「月吉殿っ!!」
走る梢さんの背に向けて、フォームを構える。
「梢さん!ごめんなさいっ!!」
「あ!あの構えはっ!!」
そして、
「ワミボッッ!!!」
気がつけば僕はそんな言葉を叫びながら、渾身の力で哺乳瓶を投げていた。
ブンッ!!
「フォークボールの構えだああーー!!!」
バスタさんの実況と共に投げられた哺乳瓶は、梢さんの背の近くで落ちていき、アキレス腱に直撃した。
「いったあああーー!!」
梢さんが吠えながら前屈みに倒れると同時に、哺乳瓶が分解、変形を始める。
「ドリえもんからヒントを得て作った道具第二弾!名付けてワンダーミルクボトル!初めて起動しますぞ!!」
哺乳瓶は3つに分かれ、それぞれある形へと変形していく。
「バスタさん…、あれは??」
「あの道具は、もしわたくしがこの体で対処しきれない事態に陥った時を想定して作ってもらった戦闘用変形ロボットでございます。哺乳瓶の形をしており、『ワミボ!』と叫び、投げますとそれぞれワオキツネザル、ミカドキジ、ボストンテリアに変形し、ぼっちゃまに危険が及ぶとされるターゲットを自動で特定し、追跡、迎撃致します。」
「ワオキツネザル…、ミカドキジ…、ボストンテリア…?もしかしてその動物達のモチーフって…?」
「桃太郎の仲間、でございます。」
バスタさんの言う通り、それぞれの動物へと変形が完了した。
「すげえ!かっけえ!!チョイスが渋い!!!」
「有り難いお言葉でございます。しかし今回は出番がないかもしれないです。」
「え…?」
梢さんは倒れたまま動かなくなってしまっていた。
「あちゃ…。ちょっとはりきりすぎちゃったかな…。」
「6歳であのフォークボールの構え…。天晴でございましたよ。万一梢さんがまた起き上がった時は、今度はワミボが梢さんを危ない目に合わしてしまうところでしたよ。」
「ほんとだ!危ないじゃないかっ!!」
「申し訳ありません…。それしか手段がありませんでしたので…。」
プルルルルルルルルーーー。
新幹線の発車音が聞こえる。
「あ!やばい!梢さん早く起きて!」
梢さんを揺するが、白目を向いている。
アキレス腱ぶった切ってなきゃいいんだけど…。
「すみません、そこの人。この人を背負って新幹線まで乗せてもらえませんか??」
僕は通りかかった人を捕まえて、そう命じた。
そしてイファニとバスタを両脇に背負い、新幹線へと入った。
ワオキツネザル、ミカドキジ、ボストンテリアの三匹も、カタカタと金属音を鳴らしながら後をついてくる。
結局出したはいいが、この三匹出番なかったなあ…。
「みんな、この人をこの新幹線から追い出してください。」
人雪崩を起こしていた10人程の人達の手を借り、イファニを攫った男を京都駅に降ろさせた。
ドアは締まり、新幹線は速度を上げて走り始めた。
「月吉、お前は見た目より頼りになる。礼をするぞ。」
イファニはニコニコ顔で僕にそう言った。
「いや、たまたまだよ…。ほんと、判断が一つでも間違ってたら取り返しのつかないことになってた…。」
「その判断力を褒めているのだ。ところで、さっきの騒動で更に喉が渇いた。ミルクはまだか?梢。梢?」
梢さんはまだ座席に座ったまま、眠っていた。
「まだ気絶してるぞこいつ。おい、わたしのミルクは?」
僕とバスタさんは梢さんの膝元に目線を向けた。
「ん?なんだこのヘンテコなロボット達は?」
「……、それがミルク…、です。」
「え…、耳にはしていたが、哺乳瓶型の変形ロボとはまさか……。」
僕らは俯いた。
気の毒だ…。これで運が良いといえるのかこの人…。
「おんぎゃあああああーーーーー!!!!」
凛香の久しぶりの泣き顔を見た気がした。
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