ソロモンの指輪

花道優曇華

第一章「怠惰編」

第1話「逃走」

幼き頃、無価値だった物が大人になった頃には価値のある財宝になる。

この小さな指輪も付属品のような鍵も価値を知らなかった。



レイラ・リヴィエールはその日、黄金の指輪を見つけて指に嵌めた。

シンデレラフィット、彼女の白い指にぴったり。装飾も美しく、彼女は

気に入ったのでそのままにしていた。その指輪こそソロモンの指輪。

既に彼女は悪魔絡みの事件に巻き込まれている。


「はぁはぁ…」

「大丈夫か。ある程度撒いた。少し休憩だ」


長身の青年シリウス・ブルースターは荒事に長けた人間だ。何故かレイラと

シリウスは街中を疾走していた。レイラと違い体力に余裕があるシリウスは

物陰から様子を窺う。黒スーツにサングラス、サラリーマンでも無いようだ。


「アイツらはルベウスファミリーっていうマフィアだ。最近、悪魔の存在が

噂されている。それに踊らされてる奴らさ。お前が持ってる指輪がそれと

深い関係がある」

「そうなの?」

「お前がソロモン王の子孫だと言う事だろ」

「信じてるの?」


珍しい。馬鹿らしい話をシリウスが信じるとは思えない。彼は荒事に慣れた

人間ではあるが、決して能無しでは無い。頭の回転も速く機転が利く。


「柄に合わない、か?」

「―見つけたぞ。ソロモンの子孫」


黒スーツの男たちは揃って現れる。皆、威圧感がある。


「裏社会の情報網を舐めない方が良い。案外、色々揃ってるモンだぜ」

「そうなんだ…ってか、詳しい?」

「とりあえず呑み込んでくれ。その指輪、大切なんだろ。絶対に手放すな」


男たちにとって邪魔なのはシリウスだ。シリウスも何故かこんな危険な男たちに

名前が知られている。


「用心棒か。こんな貧乏娘の何処に雇う金があるんだ?もしかして、やっぱり

悪魔の力を使ったのか」

「金だけで動くようなフッ軽じゃねえっての」


シリウスは上着を脱ぎ捨てる。半袖のTシャツ姿だ。片足を軽く引き、ステップを

踏む。裏社会の人間に対して彼は不敵な笑みを浮かべ挑発する。


「来いよ、屑共。明日には噂になってると思うぜ?素手の若造一人に武装して

数十人で掛かって行ったにも関わらず、無様に敗北した弱者としてなァ!」


シリウスは好戦的だ。普通の暮らしには不要な性質を持っている。彼は有言実行

してみせた。シリウスは無傷、一方戦闘慣れしているはずの男たちはボロボロだ。


「猛獣…め…!」


意識がギリギリ残っている男の胸倉を掴む。


「お前ら、目的は彼女が持っている指輪だな?一体何処から情報を入手した」

「言うわけ、ねえだろ…悪魔を手下にして、裏社会から表社会を牛耳るんだ!

俺たち、ルベウスファミリーがな!アガッ!?」

「シリウス…やりすぎ」


頭からアスファルトに叩きこまれた男は失神した。暫く起きないだろう。流石に

やり過ぎでは無いかと気にしていた。


「お前が優しいからな。俺が怖がられるぐらいで丁度良い」

「―」


その言葉を聞いたレイラの口がだらしなく開いたまま硬直している。


「そういうところだぞ、シリウス」

「あァ?」


匿って貰える場所はシリウスの自宅だった。ブルースター家はブラヴァシティの

自警団の拠点であり、メンバーである。主力、警察もいるというのに自警団が

必要な理由がある。それこそ悪魔と言う存在が関わっているのだ。その力を

持っている可能性がある犯罪組織への切り札としてこの指輪が必要だ。それを正しく

扱える人間も必要なのだ。

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