ギフテッド

鍋屋木おでん

第1話


【1】それが最初に発見されたのは文献が残っている中では中国の黄河文明の時だという。

曰く「朝起きると村の中央に黒い石が有った」と書いてある。

日本で最初に発見されたのは弥生時代、かの卑弥呼がそれに触れ、未来を見通す力を手に入れたそうだ。

それは黒い石の柱の様に見えるが材質はこの世に無い分質で形成されており、まるで黒曜石の様に表面がてらてらと光っている。

それの名は【モノリス】。モノリスは急に出現し急に消える。故に触れたことのある人間は少ないが触れると先程の卑弥呼の様に特殊な力を手に入れられるのだと言う。

【2】

不思議な事にモノリスに触れた人間のDNAは特殊な変質が見られ、アレに触れた人間の子孫を調べると全員、DNAに普通の人間にはない特殊な物が見られ、この変化の影響なのか、脳のとある部分…これは普通の人間では絶対に使うことのない領域が異常な活性化が見られ、これにより特殊な力、先の卑弥呼宜しく、未来を見たり炎を操ったりが出来るようになるのだそうだ。

【3】

19XX年、日本国内でこの能力を神の力だと騒ぎを立てた集団がいる。

【エデン】、そう呼ばれる新興宗教の当時の教祖はモノリスによる特殊能力を【ギフテッド‐神の贈り物‐】と呼び、逆に能力の無い一般的な人間は【フォセイクン‐神に選ばれなかった存在‐】と呼び区別した。

そしてエデンはギフテッドを利用したテロ行為、殺人を多く引き起こした。

この事態に強い危機感を覚えた政府は警察管轄の対ギフテッド対策部隊、通称【NSGC‐国家安全ギフテッド対策委員会‐】を設立。

警察本部内で腫れ物扱いをされていたギフテッド持ちの警官を全てNSGCに配属となり、エデンを第一級テロ組織としてエデン本部を壊滅させる。

この一件によりギフテッドの存在は大きく世に知れ渡り、又同時に現在まで続くギフテッドとフォセイクンとの差別や争いの歴史がスタートしたのだ。

【4】

そこまでを歴史の教科書を持ちながら教師がつらつらと説明する。

先程の歴史から100年経過した現在、20XX年、今年の夏も熱くなりそうだなと七色伊織(ななしきいおり)は感じていた。

ここ、都立聖能(せいのう)学院では120名の高校生が在学しており、30名程はギフテッド持ちである。

この学院内でも度々、ギフテッドとフォセイクンの喧嘩は発生しており、ギフテッド持ちが行く少年院に向かう人数も年々増えてきている。

それと同時にギフテッド持ちも年々増えており、現在は人口の40%程度がギフテッドになり、世界中でも増え続けている。

歴史の教師は更に現在でも続いている某国内部での内戦(これもギフテッドとフォセイクンの戦争だが)の話を始めた。

伊織はそれを聞き、同じ人間なのにな、と考えていた。

教師は次の戦争について話そうとしたがその直後、授業終了のベルが鳴り、教師は「まぁとりあえず今日の所はここまでな。次回は今回の授業も含めた小テストをやるから、しっかり予習してくる様に!」と言って教室を出ていった。

教室内ではブーイングの嵐が引き起こされたが、それもすぐに収まり、生徒同士のおしゃべりが始まった。時刻は12時。昼時間だった。

伊織は自身のバッグからコッペパンとコーヒー牛乳を取り出し、それを手早く開ける。

「いただきます」

そう言ってパンを口に含もうとした時、急に眼の前が少し暗くなる。

「伊織君、またパン??」

「みかちゃん」

眼の前に影を作っていたのは伊織の幼馴染の聖美香子(ひじりみかこ)だった。

「毎日そのコッペパンじゃん、飽きない??」

「このパンが私に取っては一番身体に合ってるからね」

そう言って伊織はピーナッツ味のコッペパンを一口齧り、すぐさまコーヒー牛乳を流し込む。

「…本当に伊織君の食べ方って…」

「変かな?私は普通に食べてるって自分で思ってるんだけどな…」

「普通、もうちょいパン噛んでからコーヒー牛乳を飲むと思うんだよね…」

「この食べ方だとね」

「この食べ方だとピーナッツバターとコーヒー牛乳のマリアージュがどーたらこーたらでしょ?何回も聞いた」

美香子にそう言われて伊織はハハッと笑い頭を掻いた。

それを見た美香子も微笑む。

伊織は幼馴染とのこの時間が本当に好きだった。そして心からこの時間が続くことを祈っていた。

だがその願いは脆く崩れることになる。あの出来事のせいで。二人は長く険しく苦しい旅をしなくてはいけなくなったのだ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギフテッド 鍋屋木おでん @nabeyakiodenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る