【祝・200話到達!】異世界司令官〜異世界の紛争を止めるのは、【統帥】スキルによって編成された我が軍です〜

あるてみす

第1章

第1話 雨、アーメン

 とある雨の日の昼間、東京某所にあるの雑居ビルの一室――


 チャーンチャチャンチャンチャンチャーン♪


「よぉーっしゃー! ようやく作戦完了ーっと」


 部屋の中に響くゲームの効果音。

今はやりの『艦船これくたーず』というゲームだ。

そのゲームを真っ昼間にも関わらず家で呑気にプレイしている男がいた。

俺こと海野大志24歳、ミリオタ。職業はまだない(迫真)。


 え? 24にもなってニートでいいのかって?

俺がこうしてニート生活を送っているのには少し理由がある。


 うちは父母ともに勉強熱心な家庭で、俺は子どもの頃からずっと勉強をやらされてきた。

正直大学入学まで勉強に口出しをしてくるのはやめてほしいかった。

ただそのおかげで、有名公立高校、そしてそこから国公立大学へと進学した。


 しかし、ほとんどの時間を勉強に注ぎ込んでいたので、友達と言える友達は一人もいなかった。

学校が終わると一人で家に帰り、ただ一人で勉強をするだけ。

まったくなんの面白みもない日々だった。


 そんな俺の人生が変わったのは大学3年生のあの日――両親が交通事故で他界したあの日だった。

両親は居眠り運転のトラックに轢かれて死んだ。

親が死んだというのに、葬式で俺は全く泣かず、親族に変な目で見られた。


 友達いなかった俺が唯一まともに話をしていたのが両親だった。

話し相手がいなくなり、その日以降誰とも話をしない日々が続いた。


 そんな中、春に俺は大学を卒業した。

同期たちは次々と有名な会社に就職していったが、俺はあの日以来人とまともに話などしておらず、就職活動も全く行っていなかったため、就職などできるはずがなかった。

幸い、両親の残してくれた遺産があったので、数年はニートでも生きていけるだろう。

そのお金があったのもまた、就職を諦める原因の一つであったかもしれない。


 卒業以降、俺は家に籠もってゲームをする毎日が続いた。

今日もそんな一日。何も変わらない普通の一日。


 ――ぐぅぅぅ〜〜〜〜


 不意にお腹がなった。

そういえば今日は起きてから何も食べていないんだったっけ?

あれ、昨日からだっけ? まぁどっちでもいいか。


「メシメシ、メシはどこだぁ〜〜」


 俺は何か食べられそうなものを探すべく冷蔵庫を漁る。

賞味期限が一年切れたジャム、どろどろに溶けたきゅうりだったもの、いつ買ったのか分からない総菜の残り。


ウーン、どれもとても食べられたもんじゃないな。


「仕方ない、買いにいくかぁ。でも雨降ってるしダルいなぁ」


 面倒くさいとは思いつつも、空腹には抗えないので、重い体を起こして玄関へと向かう。

今日は雨が降っているので、傘を持って靴を履き、近所のコンビニへと向かう。

コンビニ自体は家のすぐ近くなのだが、その間に横断歩道が一つあるのだけが面倒くさい。

信号に引っかかると長い間待つ羽目になるから頼む、青信号であってくれ。


「あーあ、赤信号だ」


 残念、赤信号であった。

こういう時の祈りは全く届かないものだ。


 別に信号が悪いわけではない。信号機は信号機の仕事をこなしているだけなのだから。

諦めて信号が変わるのを待つ。大通りのほうが青なので、変わるまでには少し時間がかかるだろう。

あたりには人もおらず、どこかもの寂しい雰囲気だ。


 聞こえてくるのは雨の音と行きかう車の音だけ。そう、それだけ。


……ん? いや待てよ、何か声が聞こえる?


『……!!』


 うん、なんて? 全然聞こえん。


『……ぞう、……け!!』


 だからなんて? もっと大きな声で言ってちょ。


『小僧、そこをどけ!!』


 3回目ではっきりと声が聞こえ、俺は驚いて後ろを見る。

小僧ってもしかして俺のこと? じゃあそこをどけって――


 ドンッッッッ!!


 後ろを向いたときには遅かった。

直後、俺の体は傘とともに車道へと吹き飛ばされる。

後ろを見ると、生え際がかなり後退したオッサンが自転車にまたがっているのが見えた。

俺はそのオッサンに盛大にぶつかられたのだった。


 ――ドサッ


 俺の体は車道の上に転がり出た。

受け身などをとる暇もなく、俺の体は直接アスファルトの地面にたたきつけられた。

たたきつけられた衝撃で体中がとにかく痛い。あのオッサン絶対に許すまじ。


 だが、その時俺は気付いた、いや気付いてしまった。

俺が吹き飛ばされた先は車道だ、しかもまだ信号は青で車が走っている。

ということは……このままいけばテンプレ通りトラックが来て轢かれて死ぬのかな? 俺。


 なんて考えながら左を見た。そこにトラックの姿はなかった。

あくまでもトラックの姿は、である。

代わりに見えたのは白いプ◯ウスだった。


 あ、死んだわ俺。


 前を見るとぶつかってきたオッサンが青い顔でこちらを見ている。

誰のせいでこうなったと思ってんだ。お前が代わりに轢かれてくれよ。

そんなことを言ってもオッサンと俺の立場が変わることはない。


 頭の中を、走馬灯が駆け巡る。

勉強をしている俺と、それを傍で見ている両親。

もしかしたら俺は両親を心のどこかで求めていたのかもしれない。


 それとは別の思いが頭に浮かんでくる。


「最後に見た顔がオッサンだったのが心残りだ……」


 それが俺の最後の言葉であった。

直後、一瞬の痛みとともに空中に体が投げ出されたと同時に、意識が途切れる。


 海野大志24歳無職、オッサンに自転車で弾かれた後にプ○ウスが直撃し死亡。

自分で言うのもなんだが、なんとも無様な死に方である。


 これで俺の人生は終わりを迎えた……ハズであった。

そう、あの声に呼ばれるまでは。





『……い、……い!……てる?』


 何だ、この声は? はっきりと聞こえな――


『おーい!聞こえてる?』


 うん、はっきりと聞こえたぞ。ていうかあれ?俺死んだんじゃ?


『おー!ようやく目が覚めましたわ!』


 ……女の人の声?

あぁ、俺が死んだから神様が最後に女の子に起こされる夢を見せてくれているんだな。

なんて優しい神様なんだ。危うく最後に見るのがオッサンになるところだったよ。


『ん? 起きてるんでしょ? 目を開けてよ』


 はは、神様は最後にどんな美女を見せてくれるのかな?

とびっきりの美女だったら一生神様に忠誠を誓うよ。

まぁもう死んでいるけど。ははは


 なんて思いながら恐る恐る目を開けてみるとそこには――


「うぉっ! すっげぇ美女」


 思わず一目見たときの感想を口に出してしまった。

眼の前には思わず声が出るほどの絶世の美女がいたのだ。

現実で急に美女なんて言ったら間違いなく変人扱いされるが、ここは夢の世界。なんとでもなるか......


「まぁ! 美女だなんて。お世辞でも嬉しいですわ。オホホホ」


 美女がなんと喋った。

なんだかえらくリアルな夢だな。本当に夢なのか? まぁ何でもいいか。


 だが俺も男だ。

生きている間は女性には全く縁のなかった俺だが、別にそういう欲求がなかったわけではない。

ここが夢の世界なら、何をしても許されるだろう。とりあえずそのたわわな胸でも揉んでみようか……グヘヘ


 ムニッ


 あれ? すごいリアルな感触を手に感じる。

とりあえずもう一度揉んでみよう。


 ムニムニッ


 やはり触れた? そこには確かに感触が存在した。

夢ならこんなことはありえないはずだ。

ということはもしかして現じt――


 バッチィンンン!!


 思いっきり叩かれた。痛い。……痛い?

やはりこれは現実か!!

まさか俺はまだ死んでいないのか?


 そういえばこれが現実なら、俺は思いっきりセクハラをしたことになる。

まずいぞ……となれば、まずは目の前の女性に謝らなければ!


「本っっ当に申し訳ございませんでした!」


 額を地にめり込ませる勢いで土下座をする。

この時の俺は、この女性が何者なのかをまだ知らない。


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