EP.11「手がかり」
おれは冥崇教の連中とあかりちゃん捜索をしながらなにか手がかりになるものを探していた。まるで別の存在が彼女を乗っ取ったかのような変わりようを見せられた時は違う意味で恐怖を感じた。どうしてあんなことになってしまったのか、なぜ豹変したのか、何か歴史書か何かで鬼族に関する情報が知りたい。
「ここ秋明で1番でかい図書館かなんかあんのか?」
「向こうの大通り沿いにある。何か調べるのか?」
「あぁ、あの子たち鬼族について何か調べられればと思ってな。」
「あまり時間はないぞ、急いで調べろ。」
そうして一度一同から抜けて図書館に向かった。目の前まで来ると壮大な建物の外観だ。ここ絡庵の中で1番大きく、絡庵誕生からの歴史書が一通り揃っている。
あまり自分で情報を調べたりとかはしてこなかったがここに行けば何かしらわかるかもしれないと一抹の希望に賭けることにした。
中には様々な種族がたくさん入っており、賑わいを見せていた。4階まで本がずらりと360°並んでいる。この中から特定の本を探し出すだけで数日かかってしまうほどだ。
検索する端末などは置いていないため司書官の方に声をかけていくことに。
「すみませんちょっと探してる本があるんですけど。」
「はい、どちらでしょうか?」
彼女が振り向くと見覚えがあった。確か学生時代の同級生の人だ。首元にほくろがあるから間違いない。
彼女は岸本菜乃花、普段から本を読んでいたからいずれは小説家などになるのかなと思っていたがまさかこんなところで再会するとは思わなかった。学生時代よりずっと綺麗に垢抜けており、左手の薬指には指輪がはまっていた。そしておれのことはやはり忘れられている。
今は感慨深く思い出に浸ってる場合じゃない、急いで調べなくちゃならないからな。
「この図書館に、鬼族に関しての資料か何かってありますか?」
「鬼族に関してですか?こちらになります。」
階段を登り、2階の南エリアに行くと種族ごとの歴史書コーナーぬたどり着く。エイリーン族はもちろん、ほぼ全ての種族の書物がずらりと並んでいる。
「えーと、あった。こちらが鬼族の歴史書になります。」
「ほんとだ、ありがとうございます。」
岸本が用意した本を確認した後、ふと彼女を見つめる。学生の時よりもほんとに随分と綺麗になったもんだ。髪をおろすようになり、多分コンタクトに変えたんだろうな。学生のときはまさに三つ編みメガネロングスカートと真面目系委員長のテンプレート祭りだったからな。男ができると変わるんだなと感じた。彼女もおれが見つめているのに気づいた。
「あの、何かまだご用でしょうか?」
「いえ、特には。すみません自分の知り合いにそっくりだったもので。」
「そうだったんですね。ところでなぜ今鬼族についてお調べになろうとしたのでしょうか?失礼ですが確か数年前に世界政府通達で絶滅と報告されてますが。」
やはり真面目ちゃんだ、今でも情報は仕入れてるみたいだ。彼女に嘘をついても仕方ない。おれはあかりちゃんなどについて簡単に説明した。あかりちゃんの写真を一枚撮ってあったからそれを証拠として見せて。
「なるほど、確かに鬼族の少女ですね。そして今彼女がここ秋明で暴れ回ろうとしていると...
わかりました。ならこの本の重要部分を抜粋していきましょう。」
岸本は再び歴史書を持つと230ページぐらいを開いて見せてくれた。そこには鬼族の知られざる生態が記されている。
「鬼族がなぜ暴走するのか、それは角が影響しています。この角には接種した血を蓄える機能があり、それらを栄養源としていることで理性を保つことができます。ですが片一方の角が折られると脳に栄養が行き届かなくなってしまいます。それを防衛するために多種族の血を得るためのリミッターが解除されちゃうのです。」
昔から彼女の説明は簡単で分かりやすい。すんなりと理解できた。
「なるほど、確かにあかりちゃんも片方折れてたからな。これが原因なのか。
それで、これの解決法とかは何かわかりますか?」
「2つ存在します。
1つはやはり殺すこと、これが1番手っ取り早いかと。もう一つはマナの雫を飲ませ続けることです、そうすれば血を接種しなくても理性を保てますがマナの雫は絡庵の指令拠点施設に保管されていて簡単には手に入りません。」
マナの雫。ここ絡庵の中央に存在する大木から100年に一度入手できる樹液で1リットルを接種するのになんと2000年はかかる代物だ。絡庵のその施設に1リットルのペットボトルに数本あるのは何年か前に確認していた。使っていなければそこにあるはずだ。またあそこに侵入するとは思わなかったけど。
「わかりました。ありがとうございます。おかげでなんとか対策できそうです。」
「お役に立てたなら何よりです。」
岸本はその場を離れて自分の持ち場へと戻って行った。さて、知りたい情報は手に入れたことだ。まずは絡庵の本部をもう一度侵入するために計画を練ることにした。侵入自体は問題ないが脱出をするのが面倒だ。認証システムで外に出れるようになるからそれを遮断されるとHEARTが再接続する時間稼ぎをしていく必要があるためだ。
そしてあいつら絡庵軍は多彩な兵器を駆使してくる。それがまた回避していくのが正直かったるい。だがあかりちゃんがいつ暴走して被害を出していくかわからない、おれは侵入を決意した。
ーーーーーー
時刻は夜、地下水路から施設に侵入したおれは連絡通路にて1人を気絶させて軍服を拝借した。他にも軍人がうじゃうじゃといてどうやら宝物部屋の辺りを巡回しているようだ。だが1人が交代に来ないと騒いでいる。先ほど気絶させた人物のようだ。
こういうときはHEARTの力を借りる。彼や軍内部で使われているシステムを解析、そして変装がバレないように変声機や指紋変更をしていく。
「いやーすみません遅くなりました。」
「なにやってんたんだよ全く。まぁいいや。
交代だから頼んだよ。」
こうしてあっさりと宝物庫へと近づいたおれは通りがいないタイミングを見計らい中へと入った。中には様々な貴重品がある。クロノの置いていった装置だったりエイリーン族の始祖とも言える黒崎加音のトランプだったりが置いてある。
少し中に歩いて行くと、マナの雫が冷蔵庫の中にあった。これがあればあかりちゃんの暴走を止められる。
「動くな」
見つかったことに喜んでいたからか、背後に刀を突きつけられてしまった。後ろを振り向くとそれはおれにとって大切な人が目の前に見えた。
「...悠人くん...」
安藤悠人、奈々の弟でおれの弟たちをずっとサポートしてくれた人物。絡庵の最高司令官としてずっとここを導いてきて何年か前に戦争で一度戦い、そしてその後はおれの活動を支援してきた正に義理の弟と言ってもいい人物。
「お前、ここの軍人ではないな。この宝物庫にはいかなる理由があろうと立ち入りを禁止している。それを知らないということは侵入者ということだ。」
悠人くん自ら確認しているとは思わなかったが仕方ない。バレてしまった以上は正体を明かす。だがやはり忘れられてしまっている。
「残念だったな、このマナの雫はいただいてくぜ!今ここ絡庵はヤバい状況なんでね。」
「残念なのはお前だ。僕を前にしてそう言えるのは今のうちだ。」
悠人くんはもう一丁刀を抜いた。彼は二刀流の使い手、そして安藤家だけが使える唯一無二の技がある。
「斬鉄刀 雪崩!」
斬鉄刀。防具、バリアどころかダイヤモンドやオリハルコンすらも切ることができるチート技術。当たればまず助からない。
一度戦ったことがあるおれはその技が来ることは知っていた、避け方も経験済みだ。
「あらよっと!」
糸を放ちまるで雪崩のように斜めからの切り下ろしや突きを次々とかわしていく。
「僕の斬鉄刀をかわすなんて、お前は一体...」
宝物庫の体温察知により警報が鳴り始めた中、脱出することを考えていたが悠人くんはきっと追いかけてくるだろう。だが久しぶりに戦えるなら正直嬉しい。
「久しぶりだこの感覚は...
さぁ、楽しく試合おうぜ!!」
少しだけ、少しだけ許してくれよ駄女神!
おれは今、生きてて楽しいんだからな!
to be cotinued
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