第67話 ドラミは? ドラミはどうしたんだ!?

 さらに進むことしばらく。とうとう見えてきたそれは、予想していた中で最悪のものだった。


「死体だらけじゃん」


 一度侵略を許しちゃったので、兵士達を沢山配置していたことは分かる。二十人くらいの人間が倒れているわけで。


「なんだー? この遺跡になんかあんのかよ。荒っぽい真似しやがんなぁ」


 ガリバルディは物珍しそうに立派な遺跡を見てキョロキョロしてる。普通はドン引きものだが、戦乱を生きてきたオークからしたらよくある光景なんだろう。


 兵士達はみんな切り裂かれて死んでいる、と思っていたのだが。


「お、まだ生きてる人がいるな」


 一人だけ、微かに息がある男を見つけた。俺はそいつに手を当て、回復魔法ヒールをかけてやる。


「え!? 兄者、回復魔法なんていつ覚えたんだ」

「だから兄じゃねえって。俺は人間だし」


 ビックリ仰天してるマッチョの発言にイラッとしつつも、どうにかこの兵士は助けることができた。


「あ、ありがとうございます……うわ!? オーク!」

「あー大丈夫。俺人間だし、あっちにいる奴に襲ったりはさせないから。ところで、何があったん?」


 大体予想つくんだけど聞いてみる。すると兵士は悔しそうな顔で地面を殴りつけた。


「あの貴族もどきが! マーマン数匹が突然我々に不意打ちを仕掛けて来たのです。そして、あれを……とある危険な宝を盗んでいきました」


 男は怒りに震えながら、ことの一部始終を語ってくれた。


 どうやら俺の偽者野郎が、マーマンの生き残りを引き連れてここを襲撃してそのまま遺跡内に侵入。それから瀕死ながらも生き残った兵士は、奴らが遺跡から出て行った姿も見たらしい。


 ただ奇妙だったのは、その直前に奇妙な光が飛び出していったという。奇妙な光って、確かに謎だ。


「カイ・フォン・アルストロメリアが魔物だったとは、どうにも信じ難いのですが……」

「え!? ちょっと待てよ。そいつは俺らの雇い主の名前だぞ。暴君の圧政に苦しめられている民を救ってほしい、とかなんとかで、俺たちに討伐の依頼をよこした奴だ」

「暴君だと! バカな!」


 男は憤慨しつつも、国王がどれだけフィルドガルドに尽くしているかを熱弁した。


 まあ、この兵士の言うことを真に受けるのも違う気がするけど、圧政に苦しんでいるとは到底思えない国だ。みんなリア充っぽいし、むしろ全員爆発しろって言いたい。


「ああん!? 全然聞いてた話と違うじゃんかよ。兄者、どう思う?」


 まだ兄者って言われてるの気になるけど、もう否定すんの疲れたわ。


「騙されたんじゃねーの、知らんけど。で、そいつらはどっちに行った?」


 まさに知らんけど案件。すると兵士はふらつく足で立ち上がりつつ、北を指差した。俺たちが来た方向とは逆だ。


「恐らくですが、湖に向かったのではないかと。バルバロッサの湖と呼ばれる場所がこの先、しばらく進んだところにあります。あそこにはかねてより魔物が多く発生しており、立入禁止区域になっているのです」


 バルバロッサの湖ねえ。原作では登場しなかった場所だけど、確かマップだとちょこっとした湖はあったっけな。


「ほーん。教えてくれてサンキュ。じゃあ俺、行くわ」

「え、お、お待ちを! 危険ですぞ」

「オッケー、オッケー」


 いうてマーマン達だし。しかし、あの近づくだけで危険な暗黒竜の血をどうやって運び出したんだろう。


 あいつのことはぎり思い出したくらいに印象薄いけど、暗黒竜シリーズを受け取る資格があるとは考えられない。


「兄者、とにかく気をつけて行こうぜ。記憶を無くしちまったみたいだから言っとくけど、全然話が違ってきてるんだ。貴族かどうかも怪しくなってきたし、ちょっくら締め上げてやらねえとな!」

「依頼主だけどさ、そもそも最初になんて言ってたんだっけ?」


 このオーク次男坊もついて来ちゃうわけか。めっちゃ怠いけど、もう本人のフリしてやる。


 とりあえず森を抜けて草原を歩きながら、進むオーク二匹。じゃなかった人とオーク。無意識に認めてる自分が悔しー!


「フィルドガルドの民を何万人と虐殺し、謀略の限りを尽くし侵略の手を広げている国王をなんとかしなくては、いずれ世界中が戦争に巻き込まれるとかなんとかってよう。兄者はめちゃくちゃ憤っていたんだぜ。まあその辺の背景は俺にとっちゃどうでもいいけどよ。報酬は金貨十枚は確約するって言ってたんだ!」


 金貨のくだりになると急に目がキラキラしてる。分かりやすい奴だわ。


「何万人と虐殺っていうのは無理あるな。っていうか、あいつは弟?」


 草原を抜けていくといくつか道があり、とりあえず湖に向けて歩いて行ったが、そこで一人……いや一匹のオークが遠くに見えた。


 この先にでっかい魔力反応がいくつもある。その最初の一匹が、こちらに気づいて駆け寄ってきた。


「兄さーん!」

「ウルド! 無事だったか!」


 感動の再会って感じかもだけど、駆けてきた三兄弟の末弟は、近づくほどに「え? え?」と言わんばかりの顔になる。


「あ、アルフレッド兄さん! その姿は……」

「大変なんだ! よく分からねえけど、俺が会った時にはこんなチビになってて、おまけに記憶まで無くしてたんだ!」

「なんですって!」


 仰天する長身痩躯オーク。ちなみに法衣っぽいの着てるのも原作のまま。ガリバルディが唾を飛ばしながら熱心に説明を始めちゃったので、なんか気まずい。


「いや、否定すんのも疲れたけど、お前ら間違ってるからな」

「でも、その服も剣も、サイズは違いますがまったく同じデザインのものですし……」


 え、マジ?

 この服とか剣とか、わりと最近買ったんだけど。そんなにセンス似てんの?


「そうなんだよ! ブーツの模様まで一緒だしよ。兄者にこんな魔法をかけるなんて、一体どんな恐ろしい奴がいるんだって話だ」

「魔法をかけられたということなら、まだ良かったのかもしれません。魔法が解くことができれば、きっと元に戻り、僕らのことも思い出すはずです」

「そうだ! じゃあとりあえずこの先にある湖に行こうぜ。俺らを嵌めた野郎が、この先に逃げ込んだらしいからよ」

「え!?」


 次から次へと衝撃を受けてる弟オーク。多分普段から一番振り回されてるんだろうなーと思いつつ、俺はスタスタと歩く。


「待ってください兄さん!」

「兄者が冷てえよ。ってか! ドラミは? ドラミはどうしたんだ!?」

「今は安全な場所に隠れています。無事です」


 その一言に俺の足取りはちょっとスローペースになる。なんか気になる情報出てきたぞ。


「ドラミってなんだっけ?」

「俺らの愛竜だよ。なんたって兄者が見つけてきて名付けたんだぞ」

「ふーん」


 ネーミングセンスまで似てるやんけ。なんか頭痛してきた。


「そういえば兄さん、あの小説はどうされたのですか? バッグがないようですが……」


 長兄って小説読んでたのか。原作ではバトルするだけだから知らなかった。


「持ってねえよ。小説ってどんなやつ?」

「兄者、あんなもんは無くして正解だ!」

「恋愛小説のようなものを、よく読まれていましたよ。たしかタイトルに、婚約破棄とかなんとか付いていて」


 うわ……前世の俺がハマったジャンルかもしれん。なんだよめっちゃ話し合いそうじゃん。


「どうやらいたみたいだぞ。連中が」


 わちゃわちゃと喋っているうちに、俺たちは湖へと辿り着いた。大きな橋があって、その一番奥にマーマンが数匹いる。


 橋は湖の途中までしかなく、そこにめちゃくちゃ黒くてモヤモヤしてるいかにも奴がいる。


「オオ!? なんっだよあれ? 黒い煙みたいなの出てるじゃねえか」

「あれは……まさか! 暗黒竜の力を付与されているのではありませんか」

「は!? なんだよそれ。ヤベーじゃねえか」


 オーク二匹があまりにもな状況に驚いていたが、俺はそれよりまず気になっていることがあった。


 橋台の影に隠れるようにして、慌ててる子供みたいなのがいる。ローブを着ていてフードまで被ってるけど、見覚えしかないわ。


「まずい。まずいのよ……」

「まずいって何が?」

「ぎゃあ!?」


 飛び跳ねてビビり散らかし、フードが脱げた。やっぱりマガローナだ。


「何アンタ達? オークがなんでこんな所にいるのよ」

「俺たちも色々あってな。ところで、そういうお前は何してんだ? お父さんとお母さんは?」

「あたしは子供じゃないわ! あれを見なさいよ!」


 すると見るからに激ヤバになってる湖中心を指差し、魔女っ子みたいな格好で震えてる。


「信じられないわ。あのバカ……暗黒竜の血を使おうとしてるの。本当に見つけちゃった上に使っちゃうなんて。まだ力を三分の一も引き出せてないけど……もうどうしようもないのよ」

「物騒だなーおい。お前もしかして、あいつらに協力してたとか?」


 マガローナは生意気そうな切れ長の目をぎゅっと閉じて頭を振った。


「とあるペンダントを貨したのと、それっぽい預言者の真似をしただけよ。人殺しなんて聞いてなかったのに!」

「やべえなーこれ。共犯者ってことかー」


 このアホ! やっぱりお前が貸してやがったのか。共犯者という言葉に反応し、二匹のオークも寄ってきた。


「共犯者だと! アレを手伝ったのか? こんなガキンチョが?」

「まさか。まだ子供ですよ。そんな風には見えませんが」

「ガキって言うな! ああ、でもどうしよう。もう終わりだわ!」


 めんどくせーと思いつつ、俺は湖の奥へと歩き出した。


「まだ何とかなる。反省してんなら付いて来い」

「え? え!? ちょっと!」


 まさかこんなワケありパーティを組むことになっちゃうとは。人生って本当にわからないもんである。


 さてと、そろそろあの半魚人野郎をボコるとしようかね。

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