05-03:死の天使・3

□scene:01 - 東北某所:総合病院:病院前



 強烈な光に思わず目を閉じ数瞬。

 ゆっくりまぶたを開けると、緑に囲まれた白いビルの前。

 さっきまでとは違いいろも輪郭も濃く、木木の騒めきが現実的リアル

 サイレンを鳴らし飛び込んできた救急車に思う言葉が、自然と声になる。

 

「病院?」


 無意識に聞こえるよう言ったのは、自分に言い聞かせるためか。

 さっきまでいた〝見たままではない〟と聞き実感していた世界ではない、と。


 そんな思いまで知ったような表情かおで、かたわらにいた金髪が得意げにうなずく。


「そう」


 現実か否かに取り敢えずの決着が着き改めて辺りを見渡すと、知らない風景。

 耳に入る理解できない単語に、俺が住む街とは遠く離れた地と思う。


 道行くヒトを避けようと退いた俺を見て、金髪が偉そうに胸を張る。


「そのヘンのヒトたちに私たちは見えないし聞こえないし、すり抜けるから気遣いは無用よ。ぶつかるとこっち側にだけちょこっと抵抗あるけどさ。足下もそんな感じ。うっかり踏み抜いちゃわないように気を付けてね」


 そう言われると、確かに足下の感触が頼りない気がする。

 素直に下を見て足踏みした俺に気を良くしたのか、金髪が調子づく。


「詳しくは長くてメンドクサいから説明しないけど、簡単に言えば存在してる階層ステージが違うから。風景も日頃の行いも上からはよく見えるけど、下々の者共はすぐ近くしか見えないし見られてるとも気付かない、みたいな? 向こうはコッチを感知できないけどこっちからは見えてぶつかると抵抗あるのも、まあそんな感じ。全然違うかも。まあいいや。とにかくキミは次へ上がる途中、私はずーっと上から降りてあげてる、このヒトたちより上位の存在になるワケ。で、上位と言うだけのコトができちゃえるから、こんなコトだって♪」


 金髪が結んだ口元を揺すると、コミカルな効果音と共に宙に浮く。

 建物の壁沿いに急上昇、高層階で減速。


「浮かせたのは私。でもキミまで浮かんだままなのは、この階層ここルールに囚われる存在じゃないから。慣れたら自由に飛び回れるかもね。まみんながみんな階層ステージなりのちからが使えるワケじゃないけどさ。その辺は才能とか個性」


 金髪が不意に遠い目になる。


「逆にず──っと上から降りてきてあげてる私も、この階層ステージまで墜ちたらほっとんどヒトと同じになっちゃう。わーざわざ自分の足で歩かなきゃいけない暑さ寒さが身に染みる辛ーい身になりたいヤツなんて、いるワケないけどさ……クソが……」


 目尻に涙が浮かんでいるのは、そんな身だった頃を思いだしているのだろう。

 何らかのペナルティで落とされたと見て間違いない。


 それはともかく。


 調子に乗って勝手に語り続けていた金髪を黙って睨む。

 手違いで殺された相手に頼らざるを得ない有様など、面白いはずがない。


 不穏な空気に感付いたのか、金髪が俺から目をらしかたわらの窓に向く。


「で、本題。ここでこれから死ぬ予定のヒトにキミをぶち込んで入れ代わるの」

「死ぬ予定のヒトになったらまずいだろ。結局死ぬじゃないか」

「だーかーらー予定通りそのヒトの魂は回収するけど、その肉体からだはキミ本来の寿命になんのよ。キミに理解できそうな言葉だと〝生命力〟はたーっぷり抱えたままだし」

「理屈はわからなくもない」

「そんでもってクスハラユウさん一一六歳を回収したら数は合う! こんなド田舎、書類さえちゃんと揃ってりゃわざわざ調べに来るワケないし♪ めでたく私のミスはなかったコトにぃ♪ なって欲しいなー♪ お願いなって──!」


 笑顔が引き攣り冷や汗が見えるのは、バレた前例があるからに他ならない。

 言いなりになる義理などないが、それで悪夢が覚めるのなら仕方が無い。


 聞いた通りなら、亜理沙たちは俺が死んだと思って……


 ようやく知った生き延びた意味、中途半端で終わりたくない。

 成仏できない魂が恨めしいとわれるのは、実際に目にしての評だろう。

 違う誰かになって何ができるにせよ、この有様から脱しないと話が再開しない。


 俺の思い詰めた表情かおを何と勘違いしたのか、金髪がさらに焦る。


「大事なのは、死ぬ直前でまだ死んでないヒトと入れ替わるコト。死んじゃった方にカウントされちゃったらゴマカせないし、消えた火にいくら薪をくべたってどうにもならないしね」


 先に誤魔化す方を言う辺りに本心が丸見え。

 関わってはいけないたぐいだが、こうなった以上一刻いっこくも早く無関係になりたい。


「大体わかった。で? 結局、俺は何をすればいいんだ?」


 金髪が結んだ口元を揺すると、コミカルな効果音と共にゆっくり前進。

 言われた通り僅かな抵抗感を経て窓をすり抜け、ベッドのかたわらへ。

 そして両手を拡げ、満面の笑み。


「このでいい?」


 ベッドに腰掛け窓から外を眺めるのはまだ幼い美少女。

 色白で華奢きゃしゃには見えるが、外見から入院の理由はわからない。

 だが彼女に繋がるベッドサイドの仰仰しい機器が、見たままではないと物語る。


 いぶかしむ俺に、金髪がなぜか得意顔。


「心臓とかいろいろ、もうすぐ……ね。何考えてんのか大体の想像はつくけど、もう決まってる事だから。まあ、この仕事してたら珍しくない案件ケースよ」


 俺がどう思おうとどうにもならない、ぐらいは理解わかる。

 金髪がのたまった〝確実な死を前にしたまだ生きているヒト〟なのだろう。


 だがしかし、当然で必然的に浮かぶクエスチョンマーク


「女のだろ?」

「女のよ?」

「さっきヒトの区別がつかないみたいな事を言ってたから一応いちおう宣言しとくけど、俺は男なんだが」

「だからでしょ。前にやらかした溶けた脂身みたいで何か臭かったオッサンなんか、わんわん気持ち悪く吐いて泣きながら土下座して感謝してくれたし」

「ちょっと待て。そんな目で見られてたと思うと何かいやなんだが」

「あれ? キミの国のオトコってこんなのがいいんじゃないの? 今まで大体みんな喜んで〝お互い過去は忘れよう〟って同意してくれたけど」

「特定の方向に思いっきり偏った価値観でこの国の男全部を語るな。ってか、俺にはやらなきゃいけない事が! 護らなきゃいけないがいるんだ!! せめて殺される前の俺ぐらいはちからのある野郎にしてくれ! そのはちゃんと次のステージとやらに送れよ!」

「えー!? あーもー! これで今日は終われると思ったのにぃ……はぁ……で? どんな〝ちから〟がありゃ満足して黙ってくれんの? 腕力? お金? 見た目ルックス?」

「それは……」


 改めて問われると、己を知らなかったと思う。


 まず見た目は多くを求めない。

 今も残念な自覚があるから、悪化したところで五十歩百歩。

 良くなっても使いこなせるとは思えず、正直なところどうでもいい。

 この顔でも亜理沙は受け入れてくれているのだから、どうにかなるだろう。


 腕力も重要ではない。

 早弓には以前から、最近は双子相手も怪しいが問題はない。

 それは俺の立ち位置が頼りなくとも何とかなっている、とも言える。


 となると残りはひとつ。


「財……か」


 亜理沙と双子にできた全ては、伯父貴の人脈コネクションと財力無しでは為し得なかった。

 金髪が脱力し、思いっきりさげすんだ目で嘆息。


「あーそーゆーコトですか。自分を愛でるより金で言いなりにする方ね」

「最低限必要な条件を言ったまでだ。特殊性癖がある前提で俺を見るな」


「はいはいわかりました、っと。じゃあ……」





□scene:02 - 北陸近郊:広大な屋敷



 瞬きした瞬間、広大で凝った和風の庭園。

 遙か左右に延びる園側の奥に医師団と看護師の群。

 金髪の後を着いて中に入ると、豪奢な布団に横たわる骨と皮の老人。


「はい、お望み通りの大金持ちよ」


 それは桁違いに豪奢な屋敷を見ればわかるが、当然で必然な不安。


「あの爺さんになったして、起き上がれんのか?」

「あ、それ、ムリ。さっきのコだったらまだ幼いからグングン回復できたけど、このヒトはこの年齢としでしょ? でもキミの寿命のい分は死にたくなっても絶対につからその点は安心して♪ 二四時間三六五日寝坊して昼寝して夜寝る毎日が上げ膳据え膳なんて、最高じゃなーい♪」


 いい仕事をしてる風にいい笑顔。

 自らの願望に基づく、勝手な態度には黙っていられない。


「俺にはまだ生きてやらなきゃいけない事が! 俺がどうなろうと生きてけるようにすると決めたがいるんだ! ただ生きたいだけじゃねーんだよ!」

「老婆心で言っとくけどさ……あ! キミにどう見えてるかわかんないけどホントに老婆じゃないからそんな目で見ないでね! ってかヒト一人ひとりにできるコトなんて高が知れてるよ? やる気がどんなに壮大でもヒト以上にはなれないんだしさ。それこそ独り善がりってヤツ。いろんなヒトのココロザシってのを聞いてきたけど結局気楽に生きたらよかったー、ちぇー、ってオチだったし」

「俺の知らない奴らがどうだったかなんざどうでもいい。多分あんたが知ってるより他人ヒトに興味が無い性質たちでな。とにかく女の一人ひとりとその妹二人ぐらいなら絶対護れる野郎にしろ」

「何言ってるかわかってる? 〝絶対〟とか約束できるワケないんだけど。私がものすごーくいい仕事しても、結果はキミ次第なワケだし」

「あんたこそ立ち位置わかってんのか? 適当にやりやがったら関係者とか上司とか次のステージとやらで真実を洗いざらいぶちまけてやる。今のテンションじゃ心情的に自然と脚色するかもな」

「ちょっと! 上司ってか上司ヅラしてるヘンなのと会ってもヘンなコト言わないでよね! 絶対!!」

「〝絶対〟なんざ有り得ない、っつったのはそっちだろ。結果は俺次第と思うんなら精々努力しろ」

「こっのー………」


 客観的に見れば睨み合って数瞬。

 実際は物理的に見下ろし圧す俺と、情状酌量を求めてすがる金髪。

 やらかしやらかされた瞬間から、どちらが優位かは考えるまでもない。


 当然で必然的に金髪が肩を落として目を逸らし、大きな溜息。


「はいはいわかったわかりましたーっと! やればいいんでしょやれば!」





□scene:03 - 山陰某所:緑深い海岸沿いに建つ古風で洋風な館



 立派な門の上空から迷路のような植込みの向こうに聳える古風な館を眺める。

 やがて空を滑り、暗く陰鬱な部屋のなかへ。


 そこにいたのは、小学生に見えても高校生に見えない少年。


 広大な庭は荒れ、朽ちて見える館にヒトの気配はない。

 その理由は、彼が見ている大型モニターの映像で想像がつく。

 猟奇殺人の記録スナッフフィルムを見ながらナイフを舐める目は、とても正常まともとは言えない。


 金髪が堂々と胸を張る。


「どうよ? 由緒も資産もたっぷりある名家生まれの独り暮らし。お金も時間も使い放題の自由人」

「まさかあいつを囲んでる、透けた群って……」

「うわっちゃ。レベルアップしたから見えちゃってるか……若いのに細かいトコまで気にすんのね。ハゲるよ。ま、死体カラダの方は溶かしたり焼肉にして食べててバレなきゃヤってないと同じだし、上級国民絡みは迷宮入りする国だから大丈夫よ。多分」

「いや細かくねーだろ! 気になるだろ!」

「まぁ確かに。ヒト一人ひとりにステージ超えて干渉するちからは無いんだけど、楽したいとか働きたくないとか大昔のアレをいい加減忘れて欲しいとか、正常まともなら無数に分散して並列処理してる精神を〝恨む〟一点いってんに集中したのがこんな団体さんだとねぇ。カレもそんな感じで精神面でアレになって呼吸イキが止まる予定。でも大丈夫♪ 死ぬまで取り憑かれたままだから、周りのヒトが巻き添えっちゃうかもしんないけど、キミだけは寿命が来るまで絶対死なないから♪ 安心して♪」

「あんなのに囲まれて安心できるか! それに〝巻き添え〟が有り得んなら護りたいに近づけねーだろ! ……って? あのヒトたちは回収しないのか?」

「さぁ? 回収リストつくってんのがいっいっコ指定するのがメンドクサくて、カレが死んだら全選択してポイするつもりだったのかな? あの家最後の一人ひとりみたいだし。覚えてたら話し付けといたげる。それまでちょーっと我慢すればいいだけだし、どうでもいいでしょ」

「ちょっとじゃないしどうでもよくねー! 俺が護りたいと会えたとしても、そん時に〝手当たり次第〟の相手になるかもしれねーじゃねーか!!」

「やっぱダメ?」

「次だ次!!」





□scene:04 - 機内某所:タワーマンション



 タワーマンションの上階、街を見下ろす品のいい部屋。

 伯父貴の城には見劣りするが、一般的いっぱんてきにはかなりのもの。

 鍛えられた体を持つ美少年が、優雅に音楽を楽しんでいる。


 金髪がタブレットを撫でる。


「どう? 暮らしぶりはご覧の通り。なかなかのもんでしょ」

「確かに。何となく馴染めそうな住環境とこだし、ここまでの見た目は要らないけど悪く無いに越したことは無いし……」


 何とかなりそうな絵図は浮かぶが、どうにも胸の奥が気持ち悪い。

 その原因に違いない金髪に向く。


「今までの後がこれって、どうも怪しいんだが」

「あーえーとそれはねー……」


 部屋に枯れたのや脂ぎった爺さんたちが数人、黒服に介添えされて入場。

 その様子から、部屋は中から開かない仕組みになっている模様。

 お付きの者たちが退場すると、爺さんたちが美少年に群がる。

 そしてベッドに押し倒され、ゾンビに貪られるように……


 思わず金髪に詰め寄る。


「おぃい!? 俺が生き返らなきゃいけない理由は言ったよな!?」

「いやだって、タダでいい暮らしできるワケないじゃん。それに大人しくオモチャになってれば外出許可は貰えてるみたいだし。首輪にリード付きで」

「いいとこに住んでるだけで金も時間も自由になってねーんだが!?」

「もうすぐ首〆プレイで力加減を間違っちゃうワケだけど、絶頂の極みにある肉体からだに押し込むから妙な感覚の覚悟はしといてねーん。因みにそれはカレが要求した好みのプレイで、天にも昇る気持ちでイっちゃうワケだし気に病む必要は無いから」

「んな野郎になってどうしろと!?」

「んーヒトの趣味はよくわかんないけど、頑張って尻振って気に入って貰って養子になるとか? まーあのヒトたちの家族も遺産狙って万全の態勢で待ってんだけどね。外で囲んでる黒服も隙を覗ってる殺し屋だから、後はキミの努力次第?」

「そんな時間かけたかないし、最初から詰んでる野郎になってどうしろと!?」

「はいはい次次」





□scene:05 - 都内某所:高層ホテル最上階の展望台



 高層ホテルの最上階に設けられた、周囲三六〇度を見渡せる展望台。

 金髪が焦り慌てて俺を呼ぶ。


「モっテモテのイッケメンな上に本人はまだ知らないけど宝くじが当たってるの! もうすぐ死ぬからチャチャッと入っちゃって!」

「追い詰められて落ちかけてるド修羅場だろ! 囲んでる女ん中に包丁投げてんのもいんぞ! あっちが構えてんのはまさか……」


 不意に響き渡った破裂音と弾け飛んだ野郎の耳で、本物の銃と確認。

 死因はいくつも思い浮かぶが、助かる道は見当たらない。

 そして金髪が叫ぶ。


「早く早く! あ!! あ────……」





□scene:06 - 九州北部:都市部



 都市を貫く幹線道路上空を高速飛行。

 眼下を突っ走るメッキ成分過多のミニバン。

 言われずとも目に入る暴走車それを、金髪が目線で示す。


「アレよアレ! お金持っててイケメンで五体満足!」


 ミニバンの後ろから怒濤のように押し寄せる赤色灯を見て反論。


「金持ってんのは、今この瞬間だけだろ!?」





□scene:07 - 富士山:山頂



 濃く暗い雲海に浮かぶような富士山、その上空数百メートル。

 満天の星空の下、遙か彼方に青白い境界線が弧を描いて見える。


 いつしか日が暮れ、日本列島はぶ厚く黒い雨雲に覆われていた。

 干されているワンピースの如く、宙に浮かんだままちからなく項垂うなだれている金髪。


「あーしんど……さっきので何人だっけ?」


 コツを掴み、仰向けで宙に手脚を投げ出した姿勢でだらしなく横たわる俺。


「三桁はいった。二桁からは数えてねーけど。段々いい加減で適当になってたし」

「仕方無いでしょ、こーんなド田舎の弱小支店じゃ扱う数だってそれなりなんだし。条件が厳しすぎんのよ」

「そっちの事情なんざ知るか。似た話を外国の映画で見たけど、ちゃんとした天使でハッピーエンドだったぞ」

「私だって、楽できるならしたいわよ」

「〝楽〟じゃない、〝ちゃんと〟と言ったんだ」


 根本的なところからまるで駄目。

 金髪が器用に宙に浮いたまま転がり仰向き、手脚をじたばたさせる。


「ねーねーもうほどほどで諦めよーよー適当に人生楽しんだ方が良くない? ヒトの半分はオンナなのに一人ひとりにこだわってちゃもっといい出会いを逃しちゃうカモよ? お金持ちのイケメンなら何人もいたじゃーん! ほんのちょ──っと妥協するだけで私もキミも幸せになれるのにね! ね? ね? ねーってば──」

ひとりだったら誰かの代わりに退場しても、楽になれると喜んでたかもな。でも……あののために生きたくなって、生きてると思ってた。それはもう無理だから諦めろってんなら、別の終わり方を教えてくれよ……」

「あぁもぉトメンドクサ……」

「誰のせいだと?」


 言葉が途切れた。

 語る言葉が見つからないのは、俺の望みは叶わないと思い知った事実ことの現れ。


 ふと辺りを見渡す。

 眼下には雲海に浮かぶ富士のいただき

 遙か彼方に宇宙そらあおと沈みゆくあかが幻想的な弧を描いている。


 暑さ寒さも風も感じず,空に留まれる実感があるから不安も恐怖もない。

 ただ地球ほしの美しさを誰とも共感できない現実いまが寂しかった。


 金髪が煌めく天頂を見上げたまま、つぶやく。


「そのコのコト……ホントに大事に想ってるのね」

「俺がまだ生きたい、まだ死ねない理由。誰かのために自分を諦められるだから、そんな事は絶対にさせたくないから……俺があのを諦めない」

「そこまで想って貰えるコがどんなコなのか、見たくなっちゃったな。ね、ちょっと行ってみない? キミも気になるでしょ?」


 愛里沙の綺麗な顔を見たい。

 生きる事を諦めたが、生きてくれている姿を見たい。

 俺が生き延びていた理由、存在を許されていた実感に浸りたい。

 様々な〝これから死ぬヒトたち〟を知ったからか、確かな生を感じたかった。

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