第50話 腕試しを挑まれる

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 幷州に戻る準備を終えた呂布は慰労をする為に戯志才・鍾繇・郭嘉・張遼・華雄・趙雲を連れて馴染みの酒家に来た。郭図と面識を得た場所であり、それからは洛陽へ来る度に顔を出す程になっていた。


「戯志才、執金吾の曹操は大丈夫なのか?」


「気になるのか?」


「袁紹と同類では困るからな」


「今のところ心配ない」


 前世の曹操は反董卓連合軍で失敗したものの、董卓が呂布に暗殺された後に長安を逃げ出した劉協を保護する事に成功して権力を手に入れていた。呂布は曹操と抗争を繰り広げたが朝敵扱いとしての戦いを強いられ苦労を重ねた事を思い出していた。


「曹操は何進から抜擢された恩義があると公言している。それを覆すような事をすれば付いてくる者は居なくなる」


「事ある毎に呼出されたら身体が保たん」


「呂布殿らしくない発言だな」


「俺は化け物じゃないぞ」


 何進には直接言っているが、呂布は洛陽の雰囲気が苦手なので必要以上に顔を出したくなかった。また洛陽に顔を出す時は決まって厄介事に巻き込まれているので勘弁願いたいと思っていた。


「何進もそれなりの人材を抱えている。曹操が事を起こそうとすれば抑え込める筈だ」


「それなら良いが。念の為に探りを入れてくれ」


「心得た」


 呂布は戯志才に調査を依頼すると再び酒を飲み始めた。


*****


 呂布たちが世間話に講じているとガタイの大きい男が呂布の目の前に立った。


「あんた強そうだな」


「俺の事か?」


「そうだ」


「で、何の用だ?」


「腕試しの相手をしてくれ」


 張遼と趙雲が無礼を咎めようとすると呂布は無言で制した。


「よし。腕試しに付き合おう」


「話が分かる旦那で助かった」


「何が望みだ?」


「あんたが腰に提げている刀が欲しい」


「分かった。俺が勝てば望みを聞いてもらうぞ」


「当たり前だ」


「俺の方は勝負が終わってからで構わん。急に言われたから考えが浮かばん」


 呂布と男は酒家の裏庭を借りて勝負をする事になった。男が出した条件はどちらかが負けを認めるか気を失うまで素手で戦う事だった。


「単なる嫌がらせか?」


「それなら呂布殿に喧嘩を売らんだろう」


「賞金稼ぎかもしれんぞ」


「得物を要求したからな」


「案外仕官を望んでいるかもしれませんよ」


「郭嘉、どういう事だ?」


 郭嘉が男を興味深そうに観察しながら口を開いた。


「嫌がらせや賞金稼ぎなら警備兵に目を付けられて我々の耳にも入ってきている筈。そうですよね?」


「その通りだ。問題を起こすような奴なら鼬に見つかっている(鼬…戯志才率いる諜報部隊、この度正式に名称が付けられた)」


 話を振られた戯志才は同意するように小さく頷いた。


「あの男、侮れんぞ」


「確かに。私でも勝てるかどうか…」


「強者の雰囲気を感じます」


 華雄・張遼・趙雲の三人はそれぞれ思うところを口に出したが、張遼の言葉通りなら呂布でも手こずる可能性があると思わせた。


「あんた、化け物か!」


「化け物?失礼な物言いをするな」


「それ以外思いつかねえんだよ」


 戦いが始まると呂布は男の攻撃を悉く防いだ。しかし攻撃する機会を見定めているのか防戦一方だった。


「攻めないのか?」


「仕方ない」


 呂布は困った表情を見せた直後、突然攻めに転じた。男の攻撃は通用しなくなり呂布は一気に追い込んだ。


「ど、どういう事だ?」


「隙ありだな」


「くそっ、どうとでもなりやがれ!」


 男は捨て身の攻撃を仕掛けたが、呂布は上手く躱すと男の腕を取って関節を固めた。


「畜生!」


「暴れると腕が二度と使えなくなるぞ」


「ま、参った…」


 腕が使い物にならなければ生死に関わってくるので男は諦めて降参した。


*****


「俺は呂布」


「呂布…、旦那は幷州の偉い人だよな?」


「そんなところだ。ところでお前の名前を聞いていなかったな?」


「典韋だ」


「お前は見どころがある」


「そうか?最初から旦那には勝てる気がしなかった」


「お前の攻撃は一つ一つが重い」


 呂布はしばらく防戦一方だった影響で左腕が少し痺れていた。


「約束通り俺の望みを伝える」


「何でも言ってくれ」


「ある男に仕えてもらいたい」


「旦那じゃないのか」


「少し危なかっかしい友人が居てな。そいつを護ってやってほしい」


「任せてくれ」


 呂布はニヤッとすると腰に下げていた刀を典韋に渡した。


「俺からの仕官祝いだ。受け取れ」


「これ上物だよな?」


「欲しくなかったのか?」


「欲しいに決まってるだろ。ありがたく使わせてもらうぜ」


 この後、呂布たちは典韋を交えて酒を飲み直したのは言うまでもない。


*****


 呂布は典韋を連れて丞相府に向かった。


「旦那、ここは…」


「朝廷内にある丞相府だ」


「誰に会うんだ?」


「丞相府といえば一人しか居ないだろう」


「…」


 典韋は答えを言うのが恐ろしくなって黙り込んだ。


「呂布殿、今日はどうされました?」


「華歆殿か。例の件で使える者を連れてきた」


「確かに強者の雰囲気がありますな」


「丞相は?」


「執務室にお見えです。案内致しましょう」


 華歆は青州出身で身を立てようと洛陽を訪れた際に丞相府の文官募集に応じて出仕が叶った。華歆は公平無私な態度で仕事に励んだので直ぐに何進の目に留まり側近格に抜擢された。地位が上がっても公平無私な態度を変えず仕えているので何進の信頼を得ており、呂布もその人柄を認めている。因みに酒好きで呂布とは酒を通じて親交を築いている。


「呂布、どうした?」


「あんたの護衛役が見つかったぞ」 


 呂布は典韋と知り合った経緯を説明した。同席して話を聞いた華歆はその場に居なかったのを悔しがって呂布に恨み節を言っていた。


「お前を唸らせたというなら大丈夫だな。お主、名前は?」


「典韋です」


「典韋を校尉に任じて丞相付きとする」


「あっしが?」


「お主の他に典韋を名乗る男が居るのか?」


「いや、居ません」


「ならそういう事だ」


「よ、宜しくお願いします」


 諸々の手続きがあるのを理由に典韋は華歆に連れられて別室に向かった。華歆は部屋を出る前に呂布に近づいた。


「口惜しい思いをしたので酒を奢ってもらいますぞ」


「お手柔らかに願いたいものだ」


「呂布殿の顔に免じて程々にしておきましょう」


「そうしてもらえると助かる」


 華歆が大酒呑みである事から呂布は後ろ姿を見送りつつ苦笑いしていた。数日後に呂布は約束を果たしたが、予想以上の酒を飲まれて支払いの時に頭を抱える光景が見られた。

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