第10話 涼州軍(三)
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何進は丁原に勧めに従って洛陽入城を促す使者を送ったがその時期に非ずと相手にされず、三度断られた段階で何進は諦めて少帝に董卓招請の勅使派遣を奏上して認められた。
勅使には尚書侍郎の蔡邕が選ばれて涼州軍駐屯地に向かう事が決まり丁原を通じて羽林軍に護衛を要請された。
「誰が適任だと思うか。自薦他薦は問わん」
話を持ち帰った丁原は部隊長を集めて尋ねた。涼州軍には董卓子飼いの李傕と郭汜に加えて華雄という猛将が居る。呂布は前世の記憶があるので全面対決にならない限り表に出たくないので手を挙げていない。
「呂布、手を挙げないのか?」
普段なら俺が行っても構わないと手を挙げる呂布が乗り気でないので高順が話を振ってきた。確かにその通りだと全員の視線が呂布に向けられた。
「俺とあんたは十常侍の件で目立っている。行けば董卓に警戒心を抱かせるだけだ」
冷静に物事を見ているのは結構な事だと高順はしたり顔で頷いた。丁原も必要以上に董卓を刺激する必要は無いと考えて張遼に護衛役を命じた。
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蔡邕に同行した張遼は涼州軍の駐屯地に入り董卓と対面した。董卓は洛陽に入らなかったのは体調を崩して臥せていたとして素直に頭を下げた。しかし増援を呼んだ事については十常侍の反乱を聞いて洛陽の治安が乱れる可能性を考えて万全の態勢を整える為だったとして謝罪しなかった。
董卓は洛陽の状況が落ち着いている事を確認出来たので数日以内に洛陽へ入ると約束した。少数の手勢を率いて向かうと言ったので蔡邕は具体的な数を訊ねたが明確な答えを出さなかった。
「それでは洛陽の警備を厳重にさせて頂く」
張遼の一言で涼州軍の将兵が無礼だと騒ぎ出した。董卓はそれを止めようとせず騒ぐのを楽しんでいる様に見えた。蔡邕は心配して張遼を見たが、言いたい奴には言わせておけば良いと張遼は全く気にしていない様子だった。
「大軍を率いて洛陽に現れたら民を驚かせるだけでなく御上を不安に陥れる事になるのを理解出来ないとは情けない」
張遼の発言を聞いた董卓は流石に拙いと考えて騒ぐ将兵を黙らせた。朝廷の使者が董卓や涼州軍に恐怖心を抱いておらず、強気な態度を取った事に対して毅然と対応したのでこれ以上やれば賊軍扱いされると考えた。
「将兵が無礼な態度を取り迷惑を掛けた」
董卓は苦笑しつつ頭を下げたが腹の中は若造の分際で生意気な真似をと煮えくり返っていた。
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「このままでは何進に頭を下げる事になる」
使者を送り出した後、董卓は参謀の李儒と賈詡と共に善後策を話し合っていた。平民から帝の外戚として成り上がった何進を蔑視しており、帝の前であったとしても頭を下げたくなかった。
「ここは我慢してもらわなければなりません」
賈詡はこれ以上指示に従わなければ賊軍として扱われる事も有り得ると考えて自重するようにと董卓を諌めた。
「何進が強気な態度を取れるのは丁原の幷州軍を手の内に入れているからです」
丁原が率いる幷州軍を羽林軍として丸抱えした上で宮中を守らせているので帝はそれを行った何進を評価すると共に絶大な信頼を寄せている。そこに楔を打ち込む事が出来れば何進は帝の信頼を失い、地位を追われる事になると結論付けた。
「どこに楔を打ち込むのだ?」
賈詡は李儒に目配せして後を任せた。何進暗殺を阻止した幷州軍の呂布は李儒と同郷の知己である。李儒の記憶において呂布は粗暴な性格で調子に乗りやすいので上手く煽てればこちら側に囲い込めると。十常侍と近衛軍による何進暗殺も難なく斥けたと聞いている事からその武勇は涼州軍にとって大いに期待出来るモノであると説明した。
「李儒、呂布を何としてでもこちら側に引き込め」
董卓と李儒は呂布を取り込めば并州軍も自ずと手に入れる事が出来ると高を括っていたが、呂布が前世の記憶を持っている上に李儒が思っているような性格でない事を知る由は無かった。
*****
蔡邕と張遼が戻って数日後に董卓は千人程度の将兵を率いて洛陽に入った。朝廷で何進に対面すると大軍を率いてきた事を謝罪して近日中に涼州へ返す事を約束した。董卓は少帝への拝謁を始めとする行事に参加する必要があるのでしばらく洛陽に滞在すると周囲に伝えた。
「李粛と申す者が呂布様に面会を申し出ております」
洛陽に入った後、李儒は配下の李粛に呂布への接触を指示した。李粛は旅人の格好をして羽林軍屯所を訪ねて呂布との面会を希望した。客人が来た事を知らされた呂布は厄介な奴が現れたなとため息を付きながら腰を上げた。
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