第8話 涼州軍(一)
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「十常侍による暗殺が失敗に終わりました」
董卓は洛陽からの知らせを聞いて唖然とした。何進と十常侍の双方に手を貸して恩を売り、中央の要職を得ようという企みが水泡に帰した。
「どういう事だ?」
凄い剣幕で詰め寄る董卓に怯えながら兵士は洛陽で仕入れてきた情報を伝えた。十常侍が粛清されたので何進に協力するしか手立てが無いので洛陽に向かう指示を出そうとした。
「お待ち下さい」
董卓を押し留めたのは参謀役の賈詡である。董卓がこのまま洛陽に向かえば何ら得るモノが無いと説いた。騒動が収まった直後に現れたら十常侍との関与を疑われて詮議を受ける事になり経歴に傷が付く事になりかねない。
「某に策が有ります」
賈詡が内容を説明すると董卓は笑みを浮かべて納得した。進軍と退却のいずれを選択しても不利な立場になる董卓にしてみれば、それをひっくり返せる上に釣りも出るようなモノであった。
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執金吾に就任した事で羽林軍(近衛軍が不祥事を起こした事が原因で改称)を支配下に収めた丁原は呂布と高順を羽林中郎将に任命して指揮権を与えた。
張遼・魏越・魏続の三人もそれぞれ校尉に任命されて張遼は丁原の護衛役、魏越が高順の副将、魏続が呂布の副将という役目を与えられた。郭図と鍾繇も司馬に任命されて郭図は羽林軍の参謀、鍾繇は事務方の長という役目を与えられた。
「何進が丞相に任命されました」
羽林軍の屯所に顔を出した鐘繇が情報を伝えると用事をしていた者が手を止めて集まった。弁皇子が帝位に就けたのは何進の後ろ盾があっての事だが、大将軍から丞相になるとは誰も考えていなかった。
「肉屋に務まるでしょうか?」
張遼が何とも言えない表情で高順に尋ねたが、素人の儂に聞くなと睨まれた。この中でその判断が出来るのは鐘繇しか居ないので全員の視線が郭図に向けられた。
「案外上手くやりそうな感じです」
予想外の返事を聞いて驚く面々を宥めながら郭図は説明を続けた。王允・孔融・陳琳・蔡邕・朱儁・皇甫嵩・盧植など十常侍の台頭で閑職に追いやられていた者を招請して要職に付けるなど朝廷内の評価は上々だった。
「私や郭図にも声が掛かりました」
また十常侍を嫌って洛陽を離れた若手官僚に洛陽への帰還を促して有能な人材を積極的に集めようとしていた。鐘繇と郭図の二人も当時の上司を通じて朝廷への復帰を誘われたが、幷州軍の面々と居る方が面白いと理由を付けて断りを入れていた。
「高官の相手は大将に任せて俺たちは羽林軍の強化に努めるだけだ」
何進が生き残った事で流れは大きく変わると踏んでいた呂布はある事を除いて自分が率先して動く機会は少なくなるだろうと思った。その分并州軍を鍛える事に時間を割いて異変が起きた時に丁原が軍事的主導権を握る立場になれば面白くなると考えた。
*****
「涼州軍の戦力が日毎に増えているようです」
丁原に呼ばれて宮中に参内している最中にこの話を耳にした郭図はある程度情報を集めた上で屯所に戻り羽林軍の面々に報告した。
涼州軍は一万程度の軍勢だったが毎日千から二千人が駐屯地に到着していて、今は四万強に膨れ上がっているという。丞相府は騒然となっており詰問の使者を送るか様子を見るかで意見が割れて何進も調整に四苦八苦していた。
「我々は宮中を守るのが役目。意見を戦わせるのは良いが、勝手な動きをすれば大将に迷惑を掛ける事になるぞ」
この中では最年長の高順が軽挙妄動したところでどうにもならないと釘を差した。呂布もその通りだと頷いたので二人が動かないなら様子見だと他の者も納得した。
「郭図、函谷関から情報は届いていないのか?」
呂布の質問に対して郭図は来ていないと答えた。呂布は思案する素振りを見せた後、疑問に思っている事を伝えた。涼州軍は函谷関を通らなければ洛陽には来れない。千人を超える将兵が毎日通れば函谷関から知らせが来る。但し涼州軍が函谷関を制圧して情報封鎖を行っていれば話は変わってくる。
「言われてみれば…」
洛陽の防衛拠点にあたる函谷関と虎牢関では関所を通行した軍勢と一般人の数が洛陽に報告されている。西涼軍が通過した事は報告されているが、増援が来ている事については報告が無かった。
「函谷関と涼州軍に探りを入れる必要がありますね」
郭図は情報を探る程度なら独自にやっても支障は無いと判断して間者を送る事を提案した。旅人や商人に扮して行けば素性を探られる可能性は低い。些細な情報でも手に入ればある程推測は出来るので是非とも実施したかった。
「俺と弟に任せてもらいたい」
魏越が手を挙げた。魏越と弟の魏続は十常侍の乱では焔陣営の兵士に扮していたのであまり目立っておらず涼州軍関係者にも顔を知られていなかった。
「それでは魏越殿に駐屯地の調査を、魏続殿には函谷関の調査をお願いします」
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