第2章 西涼の董卓
第7話 執金吾
ご覧頂きましてありがとうございます。
ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
=====
趙忠率いる宦官と近衛兵に襲撃されて混乱していた何進は我を取り戻して周囲を見渡すと自分を襲撃しようとした連中が悉く倒れていたのを見て命拾いした事を実感した。恐怖で強張っていた身体を叩きながら立ち上がると少し離れた所で後始末の指揮を執っている呂布の姿が見えたので覚束ない足取りで近付いた。
「怪我は無いようだな」
「お前たちのお陰で難を逃れることが出来た」
俺は大将軍だとふんぞり返っている普段の態度とは異なり呂布に対して深々と頭を下げた。大将軍が頭を下げるのは帝の前だけだと言わんばかりに無言で制した。
「儂に出来る事があれば言ってくれ」
「俺たちは丁原様の指示で動いている」
「そう固い事を言うな」
何進も命の恩人に対して何もしないのは己の沽券に関わると退かないので呂布は諦めてしばらく思案した。
「一つ教えてほしい事がある」
「分かる範囲で良いなら答えよう」
内容を聞いた何進はたったそれだけなのかと驚いたが、呂布は何も言わなかった。何進もそんな事なら幾らでも教えると覚えている範囲で詳しく答えた。
*****
何進は主犯格の十常侍だけでなく宮中で働く宦官も粛清した。何進の命令で宮中の調査を行っていた袁紹と曹操によって宦官の腐敗が明らかになったのが理由である。十常侍の件もあったので軽微な罪だった者も洛陽から追放されるなど全体的に厳しい措置が取られた。また後継者争いで宮中を掻き乱したとされる何皇后と董太后は後宮に軟禁される形で政治から切り離された。
事態の収拾が終わったとして何進の警護を行っていた呂布と高順はその役目を解かれた。丁原を通じて労いの意味で良酒を貰ったので二人は兵舎に戻り杯を酌み交わしていた。
「これで幷州に戻れそうだ」
「そうとは限らんぞ」
「どういう事だ?」
酔いが醒めて詰め寄る高順を宥めながら呂布は何進から聞き出した内容を伝えた。何進は丁原以外の諸侯にも応援を要請しており、その中で期待していたのは益州牧の劉焉、荊州牧の劉表、涼州刺史の董卓の三者だった。騒動が沈静化したので手を引くのが常識とは言うものの当て嵌まらない場合もある。
「俺が思うに董卓が一番厄介だ」
「そいつは色々やらかして問題視されていたな」
董卓は黄巾の乱で独断専行や命令無視などやりたい放題した挙げ句に大敗を喫したので朝廷において指揮権剥奪も検討されたが、何故か帳尻を合わせるように勝利を得たので問題は有耶無耶にされたが評判は頗る悪かった。
「朝廷の権力争いに巻き込まれるのは御免だぞ」
「大将が見切りを付けてくれたら良いがな」
丁原が并州に戻る号令を掛ければ呂布は董卓の事で悩まされずに済むと、高順は朝廷の厄介事に巻き込まれないで済むとそれぞれ考えていた。
*****
「執金吾を拝命して引き受ける事になった」
「何ゆえに引き受けた?」
高順が顔を真っ赤にして詰め寄ったので呂布が慌てて間に入った。
「全員、先日断った事を覚えているな?」
「立ち会っていたので覚えている」
「確かに見ております」
数日前に何進が屋敷を訪れて執金吾就任を要請したが丁原は既に幷州へ帰る準備を始めていたので暇乞いをした上で就任を断った。その場には呂布以下関係者全員が揃っていて丁原が嫌そうにしていたのを見ていた。
「今朝参内すると御上から直接頭を下げられたのだ」
「何と…」
「断る方法があれば教えてくれ、高順」
事情が事情だけに高順も言い返す事が出来ず黙り込んだ。
「帝の要請を断れば不敬罪だと言われかねません。高順様の気持ちも分かりますが、丁原様の対応は致し方無いと思われます」
ここが収め所だと鐘繇が間に入って双方を宥めたので矛を納めた。現時点で洛陽を真面に守れるのは并州軍以外考えられないので致し方ないと鐘繇は付け加えた。
「もう暫く頑張って貰うぞ」
「承知致しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます