第5話 十常侍の乱(二)

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 郭図から十常侍が動くと呂布に連絡が入った。呂布は直ぐに焔陣営を率いる高順の兵舎に出向いた。


「十常侍のお出ましだぞ」

「明日か。お主の当番だがどうする?」

「下手に変えない方が良いだろうな」

「勘繰られて外に出たくないと言われたら今までに苦労が水の泡だからな」


 呂布と高順は何進の護衛を交互に務めており明日は呂布が当番に当たっていた。何進は臆病な性格らしく、并州軍の都合で護衛役を変更しただけで何か陰謀があると思い込んで宮中に行かないと言い出すなど二人を困らせていた。


「とは言うものの襲撃を受けた時にあの男がどんな動きをするか全く読めん」

「それなら魏越か魏続を焔陣営の格好をさせて護衛に付けるのはどうだ?」

「名案だな。魏続にやらせよう」

「儂は残りを率いて禁門前で待機しておくぞ」

「十常侍が動いた時の合図と開門は郭図にやってもらう」

「分かった。焔陣営にはそれとなく伝えておくぞ」


*****


「郭図、奴等の戦力は?」

「近衛兵百名前後です」

「厄介だな。死人が出れば難癖を付けられるぞ」

「それについてはご安心ください」

「大丈夫なのか?」

「十常侍は近衛兵を使う為に命令書を偽造しているのです」


 近衛兵を指揮するのは皇帝もしくは大将軍である。皇帝が崩御して不在の状況下では大将軍の何進に指揮権がある。十常侍の張譲は何皇后に霊帝の代理として近衛兵を動かすように依頼した。指揮権の詳細を知らない何皇后は劉弁の擁立に協力すると言った張譲を信用して近衛兵の使用を指揮権を含めて許可を出した。


「何皇后は何を考えているんだ?」

「弁皇子の事を考えれば一切口を出さず何進に任せておけば拗れる事は無かった筈です」

「やる事成す事が全て裏目に出ているな」

「董太后は恊皇子が帝に相応しいと言っただけで十常侍に全て丸投げしています。不利な立場になったとしても最悪の事態は免れるでしょう」

「事情を知る者と知らない者の差か…」


 何皇后の中では劉弁が嫡男である事だけが唯一の拠り所だった。兄で大将軍の何進は臆病で肝心要な所で怖気づく事から頼りにならなかった。敵対勢力である十常侍が劉弁に協力すると近付いてくれば二つ返事で協力するのは仕方なかった。董太后は売官で十常侍に恩を売っている事から裏で手引きしているのは間違いなかったが今回に限って言質を取らせるような発言をしていないので影響の及ばない立場に居た。


*****


 翌日、呂布は焔陣営を率いて何進の護衛に付いていた。大将軍府から宮中に向かう道中で何進は周囲を見渡すと突然怯え出した。


「呂布よ、人の流れがおかしくないか?」

「普段と同じように見えますが」

「何かが違う。今日は出仕を控えるぞ」

「禁門を目の前にして引き返せば批判は免れないのでは?」

「批判など聞き流せば良い」

「そんな事をすれば劉弁様が不利な立場になりませんか?」

「わ、分かった」

「何か起きた時の為に我々が居るのです」

「そ、そうだったな。怖気づいて済まなかった」


 劉弁の後ろ盾である何進が意味不明な理由で出仕を取り止めれば董太后や十常侍に付け込まれて劉弁が不利な立場になるのは明白である。己の身を守る為に臆病になるのは仕方ないが、そんな事も分からなくなっているのかと呂布は呆れていた。


*****


「何進大将軍、役目につき宮中に入る」

「承知致しました。その前に武器をお預かりします」

「分かった」


 一行が宮中に入ると禁門を守る近衛兵が道を塞いだ。普段と変わらない動きだったので呂布も指示に従って立ち止まった。宮中に入る時は帯剣を許されている者以外は禁門で武器を預ける事になっているので呂布と焔陣営は武器を外して近衛兵に預けた。


「郭図様からです」

「うむ」


 呂布に紙切れを渡した近衛兵は郭図に近い者で呂布も何度か顔を合わせている知己だった。紙切れには《十常侍と近衛兵が待ち構えている》と書かれていた。


「感謝する。何かあれば俺の名前を出せ」

「分かりました。郭図様から別途指示を受けております」

「気を付けろよ」

「呂布、何かあったのか?」

「近衛兵から武器の事を聞かれただけです」

「そうか。話が済んだなら早く行ってくれ」

「分かりました」


 二人が話をしている様子を見た何進が割り込んで来たので中途半端に終わってしまったが、郭図から指示を受けている近衛兵は心配ありませんと目で合図を送った。


「おい」

「何でしょうか?」

「連中が来るぞ」

「分かりました。指示通りに動きます」

「奴の事は任せるぞ」

「心得た」


 焔陣営の格好をして近くに控えていた魏続に襲撃の事を伝えた。魏続は焔陣営に予め決められていた合図を出して襲撃に備えさせた。

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