第51話 あの女の子の正体は魔族です

「ち、ち、ち、違うんですカイル様!? わ、私は……」


「違うって……何が?」



 カイルはキョトンと聞き返す。



「——はう!?  そ、それを私から言わせるんですか……ただ……別に、嘘……って訳じゃ……にゃくてですね……えっと……ッ——わ、私はヨダレなんて垂らしてません!!」


「あらら……聖女様〜逃げましたね♪」


「——ッエクレは黙っててよ!!」


「はい。仰せの通りに……ふふふ……」


「——むぅぅ〜〜!!」



 聖女様はお怒りだ。カイルは何故この子がこれほどまでの怒りを露わにしてるか分からなかったが……


 ただこれだけは言える——



「セレナちゃん!」


「——ッ!? ふぅえ!!??」


「急に倒れちゃってびっくりしたけど……元気な様で良かったよ。ふふ……」


「——ッッッ!!??」



 カイルは布団から突き出し、エクレを指差すセレナの手を取ると、笑いながら安堵を口にする。



「——ッはわわわわ!? か、カイル様!!?? ——イヤ!!」



 セレナは顔を、これでもか!! ——と紅潮させ、恥ずかしさのあまり乱暴に手を引っ込ませ、再び布団に潜り混んでジタバタ——



「えっと、これは……」

「大丈夫です。聖女様は大喜びですから心配無用です」

「そ、そうなんですか?」


「キャァ〜〜〜〜! カイル様!? 好き!」


「……え? 今なんて??」

「口から出たでまかせです。気にしないでください」

「はぁ……?」



 カイルとエクレはしばらく布団の中の乙女を観察した。表層の大荒れな様子は、セレナな興奮度合いの現れ。この荒波が治るまで数分の時間を有したという。





「聖女様? 落ち着きましたか」


「……はい。もう、疲れました」


「ちなみに、聖女は昔と違って恋愛自由ですよ」


「——ッ何故、このタイミングでそれ言うんですか?!」


「反応が面白いからです♪」


「——エクレぇえええ!!」



 カイルがここまで2人を観察していたが、主従の関係ながらも、とても仲むずまじい姿に“ホッコリ”する。まるで姉と妹……幸せを具現化したかの光景がそこにある。


 だが、騒がしい早朝もここまで……



「ところで聖女様? 昨日のことですが……」


「……ホヨ?」



 エクレは、気を切り替えて昨日の話を持ちかける。



「倒れる直前、何か叫ばれている様でしたが……一体なにがあったと言うのですか?」


「……ん? 倒れる前?? う〜〜ん?」


「式典の挨拶を終えてからのことです。カイル様を見つけたそのあとです」


「あと……あと……?」



 だが、セレナはベットの上で『う〜ん?』と唸っては昨日のことを思い出す。


 さて、何度、彼女が首を傾げたのだろうか。それも分からなくなりそうな……


 そんな時だ——



「カイル様と挨拶を交わして、それから女の子が…………女の子?」



 セレナは何かに思い至ったのだろう。



「——ッあ!? あ、あ、あ、アレは……!?」



 思案顔は一瞬にして崩れ落ち、みるみるうちに顔色は青ざめる。セレナの脳裏に当時の光景がフラッシュバックする。



「え、エクレ!? お、女の子です!! カイル様の後ろにいたあの子は——魔族! 魔族がいました!!」


「「——ッ!?」」



 そして、叫び上げたのは、まさかの事実——



「本当ですか!? そ、それは——!!」


「ま、間違いありません! とてつもないオーラを放ってました!」



 エクレも、それに動揺を隠せない。


 そしてこの結果に……もう1人動揺する人物が……



(ま、まさか……エリスの正体がバレた!? セレナちゃんには、エリスが魔族だって見抜かれちゃったんだ。だから、慌てて……ど、どうしようこの状況!?)



 カイルである。


 セレナの言うカイルの背後にいた人物とは間違いなくエリスのことなのだろう。

 

 セレナは聖女である。


 魔族に対抗する癒し手——人族を代表する重要人物が彼女。


 たとえツノを隠していたとしても、魔族が放つ独特のオーラの様なモノはセレナには隠せなかったのだ。



「あの時——なぜ殺されなかったのか不思議ではありますが……エクレ、魔族が街に入り込んでる可能性があります。今すぐに連絡を——」



 そしてカイルを他所に、セレナはエクレに指示を飛ばす。


 魔族と人族が戦争を繰り広げる昨今——街に魔族が侵入したとあっては秩序を揺るがしかねない重大な問題へと発展する。



「分かりました聖女様! 今すぐ——」



 セレナの慌て様も、エクレの対処への早さも当然の反応である。



 だが……それを良しとしない者がいた。



「そんなことされると困るのよね」


「「「——ッ!?」」」



 突然、パタンッ——と閉まるドアの音で皆の意識は部屋の入り口の方へと引き寄せられる。


 そこに居たのは……



「……エリス!?」


「エリス? あの少女はカイルさんのお隣に居た方ですよね?」



 エリスである。


 カイルが彼女に反応し、エクレがこれを拾う。ただ、2人の反応はまだ楽観的だ。純粋に突然現れた少女について回答しているだけなのだから……


 しかし……



「——ッヒィ!? あ、あ、あの子です……エクレ!! あの子が魔族ですぅうう!! 助けて——エクレぇええ!!!!」


「——ッッッ!!??」



 セレナはベットの上で縮こまり、驚愕と恐怖で瞳孔が開く……そして、少女の正体を告げ、すかさずエクレに助けを求めた。



「——聖女様! その場を動かないでください!! ——ッ下がれ魔族!! 聖女様には近づかせない!!」



 すかさず聖女を守りに入るエクレ……



 腰の剣を引き抜くと一閃——



 少女との距離を刹那で詰め、横凪に剣を振りかざしたのだ。


 






 

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