第2話 どうしてこんなことを!?

「ど……どうして、こんな事をしちゃったんだ?? 僕はァァァ………」



 カイルは、その日の宿屋で困惑している。それは自身が無意識のうちに、あれよあれよと行動した『あるコト』が原因なのだが……


 彼はその、床に手をつく勢いで項垂れるのだ。



——自問自答——



 だが、彼はどうして『こんなコト』をしたのか“その要因”には思い当たる節が……あることはあった——のだが……



それは別に置いておくとして——



 彼が分からなかったのは、『コレ』は行動だからなのだ。



 やってはいけないと分かっていながらやってしまった——まさに『矛盾』——



 だから彼は、自分で自分を叱責する思いで頭を抱えるのだ。



 それで……肝心の彼が頭を抱える『原因』だが、それは部屋のベットに横にされ寝かされた1人の女性……



 カイルは自身の自問自答が落ち着きの兆しを見せるとゆっくりと振り向き『原因』を視界に捉える。



「——スゥー……スゥー……」



「……………ハァァ………」



 カイルは堪らず溜息を付く。ただ、溜息を漏らした理由は、べットの上で静かに寝息を立てる女性の姿に……ではなく——厳密には、その彼女の頭に存在する異径な物体にであった。


 『ツノ』——


 本来なら、動物や魔物だけが所持するそれが……人の頭部から生えている。

 この事実が証明するのは、この娘が人類の敵である『魔族』だという事だ。


 なんと……カイルは森で鉢合わせた手負いの魔族を介抱した挙句に、自身の荷馬車に乗せて街まで連れてきてしまっていたのだ。



 “人類の敵である魔族を——”



 これは誰の目から見ても、“とんでもない行為”。なんて言ったって——脅威の存在を人類圏である街中に連れ込んでいるのだから……これが、カイルが頭を抱えるほどに『ヤッちまったぁあ!!』と思う自問自答の答えだ。



 ただ……この件で、彼が何故このような愚行に走ったのかの理由だが……



「はぁぁ……魔族って言っても、こんな少女を森に置いてくるとか——放っておける訳ないじゃないかよ……チクショウ……」



 そう……カイルと言う男は、言伝に聞いた危険だと言う魔族であろうと、手を差し伸べてしまう程の飛んだお人よしだった。


 更に……



「あぁぁ……それに、積荷の薬草も全部使っちまったし……取り引き先に何て言えばいいんだァァ——」



 カイルは、彼女(魔族)の脇腹の怪我を積荷の薬草全て使用する事で治療していた。それも、取り引き用の『商品』であるはずの薬草をだ。


 実は、カイルは樹海窟に足を踏み入れる前に——旅路を急ぐ中、魔物に襲われた同業者に会っていた。

 その護衛をしていた冒険者が、魔物を追い払う際に怪我を負ったため、カイルは積荷の薬草の一部を冒険者の治療に気兼ねなく使っていた。自分を護衛している冒険者でもないのにだ。


 で——カイルは、迷う事なく薬草を使ってしまったのだが……果たして、彼はそんな事をしてよかったのか?



 否——よくはなかった。



 薬草を使ってしまった事で、納品予定の数量を下回ってしまった。だから安易にも……その補填の為に自身で薬草採取をと森に足を踏み入れて……



 それからはお察しだ。



 カイルは大事な商品を已む無く手をつけてしまい、慌てて森に突っ込んだ。そこには『魔物』の危険を一切考えずに……つい先刻には、魔物に襲われた集団を目撃しているにも関わらず。それに、そもそも護衛(冒険者)を雇うにしてもそんな金は薬草を仕入れる段階で殆ど使い切って——後は旅資金ぐらい……考えたとしてもカイルには名案なぞ既に無かった。


 そして……



 結果——どうなったか? 



 『魔物』以前に、更に危険な『魔族』を目撃……しかも、商品であるはずの貴重な薬草も全て使い尽くして、そんな『脅威(魔族)』を助けてしまった——更なる状況悪化。



 トチ狂った“おひとよし”——コレが旅商人【カイル】なのだ。



 正直、商人になんて……むいていない——





 だけど……





 カイル自身もそんな事は知っていた。だから、分からないなりにも“やってしまった”要因ぐらいは“自分自身”だと想像をつけているのだ。



「結局、僕のこの性格がいけないんだ。ああ……そんなのは分かりきっているともさ。あ〜あ〜……どうしようかな?」



 ただ、自分が悪いと分かっていながらも、同時に『時既に遅い』事すらも分かっている。だから、カイルの慌ただしさも、時間経過と共に落ち着きを取り戻す。殆ど、現実逃避の様な行為だが、それでも慌てふためいているよりは幾分かマシではある。

 彼に求められるのは頭を抱えるより、この状況をどうするかを思案する事——



 しかし……



 カイルに求められた現状回復は、かなり難しい状況下なのは否めない。

 それでも……最善を熟考しつつ、彼は視線を逃避する様にベットから逸らした。


 ちょうど、その時——



 ——カタン……



「——ッッッ!?」



 微かな物音の後——突然、カイルに衝撃が走る。



 それは、一瞬の浮遊感——



 そこから、ゴンッ——と壁へと打ち付けられ……



 背中に走った痛み——


 

 更に首を……小さな手に掴まれた圧迫感から呼吸も息苦しく……



 体も動かない。



「ねぇ……人間、ここはどこ? 説明して。納得いく答えをくれれば楽に殺してあげるから……」



 そんな状況のカイルの目の前に銀髪赤眼の女の顔があって、その瞳からは何の感情も伝わってこない程、カイルの事を、暗く——冷たく——見つめていた。





 カイルは、助けた女性に——いや……





 『魔族』に——





 首を掴まれ壁際に追い詰められたのだ。



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