思い出だけ募らせては言葉を探る、報われないこのお話

那須茄子

思い出だけ募らせては言葉を探る、報われないこのお話

血はべっとりと頬を濡らす。

まるで涙が伝うよう。


そうであれば、どれ程良かったことだろう。



悪夢は死体に触れ、能天気にはしゃぐ。


誰かの脳漿は銃弾で溶け焦げる。


降り注ぐ威光の礫が、風と季節さえ殺す。




簡単に死ぬことなんか許されないこの世界。


せめて、ささやかな光と風が欲しい。


でも、待ってみても何処まで行っても、光と風はない。


すべてが残骸と化し止まっていた。




どれ程願えば懇願すれば、お仕舞いにできるのか教えて。


耐えるだけ耐えたけどもう、ここまで。






いつの日のことだったか……この部屋で誓った思い出に陶酔しながら、何がいけなかったのか、ふと考えた。





霞んで見えなくなったあの日々。

早く目覚めて笑い会いたい。


確かにいた彼女らと手を握り約束した、明日まで行くつもりだったのに。


きっとそうであれば、白昼夢のように心地いい長い夢。


皆がみんな。

愛をお伽噺にして語り合い、そっとお互いの温もりにキスする。微笑み見つめる。




不安も翳りも感じない幸せな鼓動が響くもしもの世界。


せめて長く長く居させて。





















ぱっと、刹那はすぐ終わる。


また救いのない惨劇に立つ。


そして死が高鳴る。


幾つもの威光が回り廻る。


孤独な身でそれを受け入れ、血でべっとり濡れる。


赤く赤く赤く。


見えるものすべてが、独りぼっちだった。






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