ロープ
原口 モ
第1話 裂け目
さっきまで恐ろしい程に無表情だった者達、今は満面の笑みを浮かべている。
僕は綱渡りをしようとしている。比喩などではなく、一本のロープの上を文字通りの
〝綱渡り〟。
なぜこうなったのか? 誰も人がいない山奥で、なぜこんなことをしているのか?
しかも命がけの綱渡りを……
慎重に右足をロープの上に乗せる。
張られたロープが、僕の体重を受けて少し沈む。思っていたよりも沈み、不安定さを感じる。
──これは無理かな……
ロープが軋む。中心の辺りの揺れが激しくなっている。
次の一歩が踏み出せない。
ここは人里離れた山の中、僕は生きる事に疲れていた。そう。死ぬつもりでここに来た。
特に死に方など考えてはいないが、どうでもいい。どうなってもいい。もう、疲れた……
そんな僕の目の前に、突然あらわれた裂け目。山の地面に大きく口を開けた裂け目。雪山のクレバスというのを聞いたことあるが、まさにそんな感じだ。
距離はどうだろう。四、五メートルあるのだろうか? そして底の方は…… 恐る恐る覗き込んで見たが、全く見えない。底が見えない。
──落ちたら死ぬな
そう思った。
裂け目の向こうを見てみると、六畳程のスペースがありそうだ。その奥はおそらく崖になってる。小さな離島みたいになっている。
これだけの裂け目があって、よくも崩れずにそのスペースが残っているなと不思議に思った。
そして、一番の謎……
裂け目の先、島の中心には立派な木が一本立っている。その木と、こちら側の木の一本に、ロープが結び付けられている。
──なんだこれは?
誰か渡ったのか? なんの為に? 向こうに何かあるのか?
誰も人がいない山奥で、僕は、
──渡ってみたい
そんな衝動に駆られ始めていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます