第1クール
第1話 炎の勇者を目の前にして①
クラス分けを貼りだした掲示板に、生徒たちが集まる。
「俺……、何組だろ……」
2年生になった男子、
名前が五十音順で後の方ということもあり、なかなか見つからない。
た行あたりまで確かめたとき、後ろから肩を掴まれた。
「よっ、カイザー!
まーた俺様と同じクラス!
伝説を作った勇者様と、脈ありっ!」
「隼徒!
引っ張るなって!」
煌が後ろを振り向くと、赤い髪に甘いマスクの顔を携えた男子、
煌のおでこに人差し指を当て、10cmは差がある目線の高さを無理やり合わせた。
「カイザー、24時間365日正義感のカタマリで生きてるんじゃね?
俺様も、見習いたいくらいだ!」
「そりゃそうだけどさ。
1年3組で、俺、何度隼徒からいじられたか」
「ユーは何もできねぇんだから、しょうがねぇんじゃね?
てかロボが本当の姿かもな。
カイザーが輝くのは、マジモノのバーニングカイザーになった時だけ!」
「たしかに、この体じゃ何もできなくて、ロボになったら強いのは分かるけどさ。
俺、この姿が普通だからな」
煌が首を振って、隼徒の人差し指を突き放す。
隼徒も一歩下がるものの、今度は勢いよく煌の肩を組んだ。
「てかユー、2年からロボ部だろ?
学校公認、羨ましいなぁ、バーニングカイザー」
2年生が始まって、初日からバーニングカイザーって言われたか。
あくまでもあれは、俺の魂に宿ったもう一つの魂、アルターソウルだっていうのに!
……ったく、隼徒ますます陽キャになってる。
「で?
俺は何組だよ」
「2年1組。
一番階段に近いから、すぐにソウルスポットにも行ける場所」
「あそこか……」
1年生のときにロボ戦で煌とパートナーとなったうちの一人が、2年1組の勇斗という先輩である。
当然、煌も何度かその前に行ったことがある。
バスケの天才と言われた、その偉大な
「何かの偶然かもしれないけど……。
別にそこまで意識はしてないかな」
「意識してるんだろぉ?
2年1組の教室から、2年連続で神が誕生するって、俺様的に胸熱展開!」
2年のフロアに向かう、煌の足取りは重かった。
~~~~~~~~
「机、汚ないなぁ……」
煌は机の脇にカバンを掛けて、椅子を引く。
新しい生徒を迎える教室は、まだ誰だか分からない担任によってきれいに整頓されているが、机についた傷までは隠せなかった。
煌は、机の上にそっと手を載せた。
ちょうどその時、隣の席に金髪の男子生徒が座るのが、煌の目に留まった。
「おはよう」
「あ、隣、カイザーなんだ。
よろしく」
あ……。
初対面の男子にも、この名前で言われるんだ。
「俺、神門煌って言います。
1年の時に、そっちの方が有名になっちゃったけど」
「ヒーローがヒーローとして呼ばれるの、それこそ名誉。
あ、言い忘れてたけど、俺、
アニメのヒーローが授業中も隣って、今から最高の2年生を送れそうだよ」
「じゃあ、俺は輝って呼ぶよ」
「決まりだな。
アニオタの俺と、ロボットでいい話ができそうだ。
2年生で、いい中二病を発症できそうだよ」
輝は煌の肩を軽く叩き、座った瞬間にスマホで電子コミックのアプリを開いた。
「ちょっ……」
2年連続、隣がオタクかよ……。
「俺、一応、ブレイバーシリーズのロボに変身してるけど、アニメの話をされても全然詳しくない」
「それガチ?
こんなヒーローになったから、ブレイバーシリーズは全作配信で見てるかと思った」
輝がスマホを見せると、画面には「ブレイバーシリーズ・コミカライズリスト」という文字が書かれていた。
「何となくは
「ダメ! ダメ!
90年代から00年代前半にかけて放映された、伝説のロボットアニメシリーズ。
先輩戦士の活躍を見てこそ、2024年の勇者を再現できるって思うけどな!
正義の勇者、バーニングカイザー。この1年間リアルで楽しんできたんだから」
「そこまで見る時間と、ギガがないんだって」
煌が輝のスマホ画面から目を離そうとすると、輝がそのスマホを煌の机の上に置いた。
「さ、朝の読書!
『北欧の勇者ビクトリーヴァイキング』、コミカライズの第1話から読むと熱くなるって!」
「朝の読書でマンガ読むのだけは、ダメだって。
先生から怒られるだろ!
そもそも、電子書籍で読書って言うの……」
「電子書籍ダメとは書いてなかったし」
輝が鋭い返事を煌に返したところで、教室のざわめきが廊下の方から小さくなっていった。
数学の先生、
「さて……。
今日から2年1組の担任として、君たちと1年間一緒に過ごす、中原です。
ほとんどの人は知っていると思いますが、このクラスには学校の英雄がいます。
みんなも一人ひとり、何かの英雄になって欲しいと、思っています。
1年間、それを目標にしていきましょう」
中原がうなずくと、ほぼ全ての生徒が「はい!」と教室内に響かせた。
同時に、中原は出席簿を開いた。
生徒たちの前で、初めて名前を読み上げる瞬間だ。
「俺、最後の方なんだよな……」
掲示板を最後まで見ていなかった煌は、輝が同じクラスだと思っていなかった上に、そもそも他のクラスの生徒の名前までインプットされたため、このクラスに誰が来たのかほとんど把握していなかった。
「赤木隼徒!」
「はい!」
ほぼ1番で呼ばれる隼徒に始まり、1年の時は同じクラスではなかった生徒の名前が次々と呼ばれていく。
絡んだ生徒で2年連続同じクラスになったのは、前半で女子の
「板東輝!」
「はい!」
いよいよ、は行。
次あたりで名前が呼ばれるかもしれない。
中原の口が開きかけて、煌は身構えた。
「
「はいっ!」
やべっ……!
他の人の名前で返事した!
「あー、バカが一人出た!」
隼徒がほぼ同時に突っ込む。
中原が出席簿を教卓に置き、体を隼徒に向けた。
「静かにしなさい!」
「すいませーん!」
隼徒が頭を撫でながら、煌のほうに目をやる。
改めて、中原が出席簿を持ち上げる。
「もう一度。
牧島睦!」
「はい」
すごくおとなしい声だ……。
煌は、聞こえてきた声を頼りに、睦と呼ばれた女子の顔を見ようとした。
だが、そのような余裕はなかった。
「神門煌!」
「あっ、はいっ!」
「変身しなければ、おっちょこちょいなヒーローですね。
気を付けてください」
「はい……」
煌は、教室の壁に響かない程度にため息をついた。
~~~~~~~~
始業式と入学式、そしてクラス委員などを決めるホームルームで、煌の2年生初日が終わった。
帰りも、隼徒が煌の前に飛んできた。
「な、カイザー。
俺様が、皇帝様を昇降口までエスコートするから、落ち込むなって」
「あの時に突っ込んだ隼徒に言われたくないよ。
あれで何人の人に、牧島煌って言われたか……」
煌が力なく立ち上がろうとすると、隼徒が指を左右に振った。
「学年のほとんどの女子のハートを射抜いた俺様だって、知らないからさ。
牧島睦って女子」
「は……?
隼徒も知らないのかよ。
てか、本人いないよな」
隼徒が念のため、教室を見渡す。
睦らしき女子の姿は、そこになかった。
「帰ったな。
教室にいる女子、全部俺様がLINE交換した人!」
「まぁ、隼徒が知らないんじゃ……、突っ込みたくなるか。
ホームルーム中は勘弁してほしかったけど」
煌は、隼徒と並んで教室を出て、階段を降りる。
「てか、睦って女子、転校生なんじゃね?
たぶん、中原がこのクラスの目標を言った時、あの声で返事しなかっただろ」
「俺も聞こえなかった。
たぶん、この学校になじんでないからかも」
「俺様の中では、ちょっと変わった女子ってことにしておくよ。
すぐに帰っちゃうのも含めて」
隼徒の手が、煌のオレンジ色の髪に軽く触れる。
炎が燃えるような、少し尖った煌の髪が、一瞬だけ平べったくなった。
「あまり変なあだ名付けるなよ。
1年間、このクラスで一緒に過ごすんだから」
「大丈夫、大丈夫!
俺様、なんかあの声に運命感じたんだからさ!」
「運命って、そんな大げさなレベルじゃないけど」
煌が笑うと、隼徒も笑った。
睦という転校生が、煌たちの2年生ライフに大きく関わってくることも知らずに。
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