第33話

「お久しぶりです、せんぱい!」


 そう言いながら現れたのはご存知、白帆 羊だった。まぁ昼飯の時間だしここにいるのもおかしく……。


「総務課行ったらここって教えてくれました、課長が」


 課長……。出張に連行された時から思っていたが、なんでそんなにこいつと仲良いんだよ。


「と、総務に新人さん入ったから見に来ようと思ったら遠峰ちゃんじゃないですか!」


 お、やっぱり知り合いか?


「お久しぶりです、白帆先輩」


 驚いた顔を元に戻して彼女は綺麗な礼をする。


「あれ、知り合い?」


「遠峰ちゃんは私の大学の後輩です!」


 こくこくと遠峰さんは頷く。


「白帆先輩には在学中も仲良くしていただいてて」


 へぇ、当たり前と言えば当たり前だが、こいつも先輩なんだな。

 後輩属性が強すぎて忘れていた。


 さっきから同僚の気配がないけど大丈夫か。

 隣を見ると白帆と遠峰さんを交互に見ながらうんうんと首を振っている。不審者じゃねぇか。


 遠峰さん、白帆と仲良いならなおさら企画に入りゃよかったのに。まぁでも。


「企画課に知り合いがいると仕事やりやすいからいいかもな」


「ですです!分からないこと会ったらこの白帆先輩になんでも聞くんだよ!」


 むんっと胸を張って彼女は自慢げに言う。お前この前ポカやらかして申請忘れてただろうが。


「そこの先輩は鈍感でちょっと言葉遣いが悪いけど、優しい人だよ」


 人差し指を立てて隣の遠峰さんにこんこんと話している。


「優しいだけでいいじゃねぇか。何かしたか?俺」


「なにもしないのが悪いんですよ〜だ!」


 運ばれてきた唐揚げ定食のレモンをつまみながら舌を出す。

 負けじと俺もざる蕎麦の薬味をつゆに入れていく。ネギなんて多ければ多いほどいいからな。


「そういや遠峰さんって白帆のサークルの後輩?」


「いえ、学部が同じなんです。デザインの」


 ほんとに企画入れた方がいいんじゃないか……?いや、異動もできなくはないし、総務経験者を企画に送り込むのも悪くないな。


「なんか悪い顔してますね、先輩」


「いたって真面目だわ」


 たっぷりタルタルソースのかかったチキン南蛮をもっきゅもっきゅと頬張る遠峰さんは、やはり最初のクールビューティといった印象とはかけ離れている。

 しかも食べる速度が尋常じゃないし。


 ごくん、と喉を鳴らして一息ついた遠峰さんは俺たちを見ると言葉を放った。


「先輩と白帆先輩ってお付き合いされてるんですか?」

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