第7話 ぴよちゃんず、ジグソーパズルをする🐥🐤🐣🧩
大阪に住まいを構える山田家。
今日も、ここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。
だが、いつもの黒ゴマ色のソファーではなく、二階の和室にいた。
そこで彼らはとうもろこし色のモフモフふわふわボディーをゆらゆらと揺らしながら、何かにチャレンジしていた。
座っている位置はいつもと同じである。
右から頭に1本の毛を生やす長男のぴよ太。
2本の毛を生やす次男ぴよ郎。
3本の毛を生やす三男ぴよ助の順に。
彼らの目の前には、1000ピースサイズのジグソーパズルの枠が置かれていた。
そのジグソーパズルは彼らの好きなプリン。しかも、ただのプリンではない。
一番上にはさくらんぼ、真ん中にはホイップクリーム。
下には、ほろ苦滑らかな口当たりのカスタードプリンに、左側にはイチゴとバナナが。
右側には大き目にカットされたメロンとマンゴーがある。
そう、みんな大好きプリンアラモードだ。
「ぺよ! もう少しで完成ぺよー!」
まずは甘えた三男坊のぴよ助が自分の体ほどの大きさである、カスタード色のピースを型に嵌める。
ゆらゆらと揺れる3本の毛。
その様子を興味深そうに見ていた器用な次男ぴよ郎は、空いている部分と後ろへ無造作に置かれたピースを見比べていた。
「プリンアラモードぺよから……下の部分は器ぺよ……つまり透明ぺよね……ということはぺよ。これぺよ!」
ガラスの器が描かれたピースを持ちながらも揺れ動く2本の毛。
「ぺよぺよ。2人とも楽しそうで良かったぺよ」
しっかり者の長男ぴよ太は、目の前のジグソーパズルに夢中となっている兄弟を見つめて満足そうな表情を浮かべる。
そんな兄に対して、下2匹は催促した。
「「ぺよー、ぴよ太の番ぺよよ!」」
これは考えることが大好きなぴよ郎と楽しいことが大好きなぴよ助だから仕方のないこと。
ぴよ太はそう思い、2匹からの催促に困った表情を浮かべながらも一番近くにあったピースを手に取り嵌めた。
「これでおっけーぺよ!」
ぴよ太が選んだのは、プリンアラモードのさくらんぼが乗った一番わかりやすい部分。
それが不服なのか、ぴよ郎とぴよ助は横並びとなり、ほっぺたをぷくっと膨らませている。
まるで、焼いたお餅のようだ。
「ぴよ太、そこに置いちゃうとぴよちゃん、次なに置いていいかわからないぺよー」
ぴよ助は3本の毛を揺らしながら、畳で地団駄を踏んでいる。
ぴよ助の考えでは、一番美味しそうなさくらんぼの部分を最後に嵌めて完成させた後。
皆でその完成したパズルを見ながら、1階の冷蔵庫に入っているキンキンに冷えたプリンを食べるということを決めていたのだ。
その左で焼き餅状態を維持しているぴよ郎は、純粋にパズルを楽しむ上で、一番簡単なピースを嵌めた兄に呆れていた。
「ぺよー、そんな簡単なピース今嵌めたらダメぺよよ……」
パズルを楽しんでいた時とは違い、ピンと立っていた2本の毛は倒れて元気がない。
その居心地の悪い雰囲気にぴよ太は、なにか打開策がないか周囲を見渡す。
そして、ある案を思いついた。
「ぺ、ぺよー! わー! ぺよー」
なにも落ちていないところで、ぴよ太は全力で転んだ。
その瞬間、ズリっと音を立てて枠が動く。
そう、ぴよ太が思いついた案とは自分が転んだことにより、嵌めてしまったパズルを意図せずバラけさせることだ。
だが、1000ピースに及ぶパズルはぴよ太が考えていたより、頑丈でバラけることはなかった。
つまり、ただ転んだだけとなってしまったのだ。
ぴよ太は、恥ずかしくなりその場で動けずにいた。
「だ、大丈夫ぺよか? どっかうったぺよ?」
いまいち状況を飲み込めない三男坊のぴよ助は、純粋に心配して動かない兄の元へと駆け寄る。
その純粋な弟の反応のせいでぴよ太はますます動けずにいた。
どこもぶつけてはいない。
だが、心が痛かった。
いや、心が痛いというよりは、恥ずかしさのあまり、完全にネタばらしするタイミングを見失ってしまったのだ。
一方、少し疑っていた次男ぴよ郎もぴよ助が必死に声を掛けるというのに、ぴよ太が動かない。
そんな現状を目の当たりにしたせいで、その頭の中に最悪のシナリオが浮ぶ。
「ぺ……よ。もしかして、ぴよ太死んじゃったぺよ?」
その一言を耳にしたぴよ助は固まる。
「そんなぺよ。こんなお別れの仕方いやぺよ……」
「……ぐすっ。ぴよちゃんもいやぺよ……」
めったに泣くことがないぴよ郎も駆け寄り泣く始末。
弟たちの純粋さに胸を打たれてしまったぴよ太は、とうとう嘴を開いた。
「ぺ、ぺよ! じゃーんぺよ! ぴよちゃんは元気ぺよー!」
勢いよく立ち上がったせいで、足元にあったピースがズレ、滑って転ぶ。
その瞬間に、ぽよんとしたお腹がズレたピースのその奥にあるピースを捉えてズラす。
「ぺ、ぺよ!」
だが、慌てて立ち上がろうとしたことにより、今度は尻もちをつき、その衝撃で上手く嵌っていたピースが枠から飛び出てしまう。
足元にはバラついたピース、視線の先には触れただけで形を崩しそうになっている8割方完成していたプリンアラモード。
固まる3匹。
その重苦しい雰囲気に耐えかねたしっかり者の長男ぴよ太の目元には涙が浮かんでいた。
「ぺよ。ごめんぺよ……ぴよちゃんは皆で楽しくパズルをしたかっただけぺよ。こんなつもりじゃなかったぺよー」
そんな兄を見た2匹は、怒ることはなく、半泣き状態となった長男の背中を優しくさすった。
一見理屈っぽい次男ぴよ郎も、わがままな三男ぴよ助も、長男ぴよ太が自分たちのことを考えてくれていることを知っているのだ。
なので、怒るどころか、それぞれに反省をしていた。
ぴよ郎は、もっと柔軟に考えることができれば、どんなやり方でも楽しめるのではないか? と。
ぴよ助は、ちゃんと初めからどうしたいか言えば良かったのではないか? と。
下2匹は、お互いの目を見つめ合って、深く息を吸うと尻もちをついて半泣き状態となっているぴよ太の方向に向いた。
「「ぴよ太、ぴよちゃんたちこそ、ごめんなさいぺよ!」」
手を繋いで頭を下げる。
その姿を見た瞬間に号泣するぴよ太。
「わーんぺよー! なんで皆優しいぺよ? ぴよちゃん嬉しいぺよー」
「ぺよぺよ! いつも気遣ってくれてありがとぺよ!」
ぴよ郎は、モフモフボディから小さな手をひょこんと出しぴよ太に差し出す。
それに続くぴよ助。
「ぺよ! ぴよちゃんも……その、ありがとぺよ! いつも優しいぴよ太が大好きぺよ!」
視線を逸らしイチゴ色にほっぺたを染めている。
「ぺよ……」
ぴよ太は兄弟たちから差し出された小さな手を握り立ち上がる。
だが、目の前の惨状は変わらない。
ズレた2つのピースに枠外でなんとか形を保っている8割方完成しているパズル。
そんな現状に泣き止んだとはいえ、ぴよ太の頭の毛は倒れたままだ。
まだ落ち込んだままの長男ぴよ太を前にして、下2匹はまるで事前に示し合わせていたかのように、口を揃えた。
「「また初めからするぺよ!」」
「それにぺよ! ここからどうするか考えるのも楽しいぺよ!」
小さな腕を組みながらぴよ郎が言う。
「そうぺよ! ぴよちゃんもまたメロンとかイチゴとか好きなものをぺちんぺちん出来るの嬉しいぺよ!」
また、目的は違えど、ぴよ助もこの状況を心から楽しもうとしていた。
「わーん、ぺよー!」
そんな心優しき兄弟を前にして、ぴよ太は、またもや号泣してしまった。
☆☆☆
この後。
完成したパズルを前で、口元にプリンを付けながら、「ぺよぺよ!」と笑い合うひよこたちの姿が見られましたとさ。
ぺよぺよ
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