第3話 ロボット掃除機VSぴよちゃんず🐣🐤🐥

 今日もキャベツの妖精であるひよこたちは、山田家でのんびりと暮らしていた。


 いつものようにリビングにあるソファーの上で、窓から流れ込む風とぽかぽか陽気に目を細める3匹。


「暖かいぺよね~」


 ぴよ太は頭に生えた1本の毛を揺らしながら、隣にいる兄弟たちへと視線を向ける。


 その隣にいるぴよ郎は、頭に生えた2本の毛を揺らしながら、日当たりが一番いい場所を探していた。


「ぺよ~、暖かいけどぺよ。もっと日当たりのいい場所ないぺよかね~」


「ぷすぅ……ぷすぅ……」


 ぴよ助は会話する兄弟の横で頭に生えた3本の毛を揺らしながら、鼻提灯を作っている。


 家の中には、のんびりとした時間が流れる。


 だが、今日はお世話になっている山田夫妻から、とあるお願いをされているので、午前中の間にソファーの上から下りて済ませないといけないのだ。


 そのお願いとは1階フローリングのから拭き、拭き掃除。


 午前中の間に済ませないと行けない理由は単純。


 ロボット掃除機が活動を始めてしまうから。


「ぺ、ぺよ! みんな起きるぺよ! 大事なことを忘れてたぺよ!」


 そのことを思い出した長男ぴよ太は、立ち上がる。


 それにより、のんびりモードとなっていた次男ぴよ郎がふわふわモフモフボディーを毛羽立たせ。


「ぺよ!? 何かあったぺよか?」


 スピスピモードとなっていた三男ぴよ助も「パァン」と鼻提灯を割り目を覚ました。


「ぺよ!? どしたぺよ?! おやつタイムぺよ?」


 ぴよ太は、2匹が目を覚ましたのを確認すると、すぐさま、テーブルの上に用意されていたあんこ色のカゴへと「ひょこん」と出した手を掛ける。そして、そこから草餅色のマイクロファイバー製のクロスを取り出し掲げた。


「これぺよ!」


 ぴよ郎とぴよ助もそのクロスを見たことで、山田夫妻からのお願いを思い出した。


「ぺよー! お掃除ぺよな」


「ぺよぺよ! ぴよちゃんも思い出したぺよ!」


 全て思い出したひよこたちは、夫妻からのお願いごとを済ませる為、ソファーから「ぽてん」と音を立てながら、順番に飛び降りていく。


 まずは、甘えた三男坊のぴよ助。


「今日は、ぴよちゃんが先頭ぺよー!」


 その後に続くのは、要領のいい次男ぴよ郎。


「じゃあ、ぴよちゃんが2番ぺよー!」


 最後にしっかり者の長男ぴよ太と。


「2人とも、肝心のクロスを忘れてるぺよよー!」


 その言葉を受けて、ぴよ郎とぴよ助もそれぞれにあんこ色のカゴからクロスを取り出す。


「ぴよちゃんは、桜もち色のクロスぺよー!」


 初めに桜もち色のクロスを取り出したぴよ助は、その場で駆け回る。


「ふふっ、ぺよ! ぴよちゃんは汚れがわかりやすい、おもち色のクロスぺよ!」


 同じく自分のクロスを取り出したぴよ郎は、小さな目を「キラーン」と光らせている。


 そんな兄弟たちを目の当たりして、ぴよ太は少し不安になっていた。


「だ、大丈夫ぺよかね……」


 掃除が大変だと言うことを忘れてしまっているではないかと。


 そんなやり取りがありながらも、はしゃぐ2匹と心配になる1匹は拭き掃除を開始した。




 ☆☆☆




「ぺよぺよ」と言いながら、フローリングに列を成して歩くひよこたち。


 そのふわふわモフモフボディーの下には、先程のマイクロファイバー製のクロスがあり、それをすり足で引きずりながら前へと進んでいく。


 これが、体の小さな彼らの拭き掃除の仕方。


 先陣を切るのは、一番にソファーを飛び降りたぴよ助。

 ぴよ助は、一番前にいることが嬉しいのか上機嫌だ。

「今日はぴよちゃんがずっと先頭ぺよ~♪」


 3本の毛を揺らしながら、お尻をフリフリ振っている。


 その後ろにいるのは、次男ぴよ郎。


「隅っこの汚れも見逃さないぺよよ~♪」


 ぴよ郎は、小さな足を器用に使いぴよ助が拭き残した汚れを取っていく。


 その度にふわふわとなびく2本の毛。


 そんなやり取りを繰り広げる次男と三男の後ろを歩くのは長男ぴよ太。


「あんまり、はしゃぐと危ないぺよよー!」


 ぴよ太は、目の前を歩く2匹が心配なようで、転けたりしないか後ろから様子を伺っている。


 慌ただしく動く1本の毛。


 そんな長男ぴよ太の気持ちなど知る由もなく、下2匹は黄色い小さな手ひょこんと出し応じた。


「ぺよ! 大丈夫ぺよ!」


「ぺよぺよー! 滑らないから平気ぺよ」


 ぴよ助が言うように、この家のフローリングは、念の為ひよこたちが滑って転ばないように、クリーム色をしたペット用の滑り止めマットが敷かれている。

 

 これは、つるつるしたフローリングだとよく転ぶ彼らを気遣った山田夫妻がしたことだ。


 そのおかげでひよこたちは滑ることなく、玄関からリビング。


 リビングから、アイランドキッチンへと順番にズリ拭きをしていく。


「ぺよぺよー! お掃除、楽しいぺよー!」


 一番先頭にいるぴよ助は、綺麗になっていく。

 というよりは、3匹で一緒のことをできていることが嬉しいようで、くちばしをカチカチ鳴らしながら進んでいく。



 ――ズリズリ。



「ぺよぺよー! ピカピカになって嬉しいぺよな♪」


 その後ろにいるぴよ郎は、連携することで1匹では拭けない箇所を拭き取ることができて満足といったところだろう。


 短い手足を勢いよく交互に振っている。



 ――ズリズリズリ。



「ぺよ! みんないい感じぺよー!」


 最後尾で兄弟たちの様子を確認しているぴよ太もご機嫌だ。

 お願いされたことを3匹一緒にできて。



 ――ズリズリズリズリ。



 ☆☆☆



 それからしばらくして。


 2階へと続く階段前。


 ひよこたちはそこにいた。


 後ろにはお掃除ロボットのステーションがあり、その横には、小さめサイズのゴミ箱が4つ置かれていた。

 それぞれに文字の読めないひよこたちでもわかりやすいよう燃えるゴミ、燃えないゴミ、古紙、缶・瓶のイラストの描かれたシールが貼られている。


「ふぅ……ぴよちゃん疲れたぺよ、ちょっと休憩ぺよ」


 この場所で、先頭を歩くぴよ助は少し疲れたようでその場で「ぽてっ」と尻もちをつく。


「確かにぺよ……それにあんまり根を詰めて良くないって、パパさんの本にも書いてあったぺよ」


 真ん中にいるぴよ郎もそれに続き「ぽてん」と尻もちをつく。


 一番後ろで2匹の様子を見ていたぴよ太は、唯一尻もちをつかずにその場で立っていた。


「ぺよー! もうそろそろICOさんが動くぺよよ!」


【ICO】というのは、山田家にいるロボット掃除機の名前だ。


 その姿は、黒ゴマ色でツヤツヤしたボディーに円盤状のフォルムをしており、命令を出す時は「おっけー! ICO」という言葉の後に指示を出すと掃除を開始するひよこたちの天敵。


 なぜ天敵かというと、彼らが飛べない鳥である……いや、妖精であるからだ。


 すると、階段前の後ろにあるスペースへと設置されたステーションから【ICO】が動き始めた。


「オソウジヲハジメマス」


 ブラシが回転する音と、モーターの駆動する音が室内に響く。


 その音を聞いた瞬間、ひよこたちはあたふたし始めた。


「ほら! 言った通りぺよ! ICOさんが動き始めたぺよー」


「ぺよ! 早く高いところに行かないと吸われちゃうぺよね!」


「ぺよー! 休憩しちゃってごめんなさいぺよー」


 ぴよ太、ぴよ郎、ぴよ助の順にそれぞれが自分たちのクロスを手に持ち、階段前で駆け回っている。


 すると、次男ぴよ郎にある案が浮ぶ。


「ぺよ! 階段に上がるぺよ!」


 そう。

 逃げ道がないなら、階段に上がってしまえばいいのだ。

 これは頭の良いぴよ郎だからこそ、思いついた案だ。



 ぴよ郎の言葉を聞いた瞬間――。



 ひよこたちは見事な連携で3色団子のように積み重なっていく。


 草餅色のクロスを持った長男ぴよ太は1段目。


「うんしょぺよ!」


 おもち色のクロスを持った次男ぴよ郎は2段目。


「ぺよー! 上がるぺよ!」


 桜もち色のクロスを持つ三男ぴよ助は3段目へと。


「ぴよちゃんも上がるぺよー!」


 彼らが必死にモフモフふわふわボディーを重ねていこうとしている間も、背後から【ICO】はモーター音とブラシが回転する音を鳴らしながら、少しずつ距離を詰めてきていた。



 ――ウィィィン。



「うわあぁぁぁ! どうすればいいぺよー!」


 ぴよ助は、一番上で騒ぎ始めている。


 ぴよ郎はぴよ助をなだめようと、2段目から優しく声を掛けた。


「ぴよ助、大丈夫ぺよ! こういう時こそ、冷静になるぺよ!」


 ただ、ぴよ郎も怖いようで、小刻みに震えている。



 ――そんな中。



 しっかり者の長男ぴよ太の声が響いた。


「みんな、落ち着いて聞くぺよ! 背伸びをするペよ! そうすれば階段に届くはずぺよ」


 慌てふためいていた下2匹は、長男ぴよ太から指示により、全員が背伸びをしていった。



 

 ☆☆☆


 

 

 それにより、一番上にいたぴよ助の手が階段の淵に手が届き階段を登る。

 

 そして、そのぴよ助が手を伸ばし、ぴよ郎を引っ張ること順当に階段の上へと辿り着いていた。


 だが、しかし。


 取り残されたぴよ太を助ける手立てがなかった。



 ――ウィィィン! シュゴゴゴォ!



 迫るモーター音+ブラシ音+吸引する音。


 声を揃えてぴよ郎、ぴよ助が手を伸ばした。


「「ぴよ太ー! 手を伸ばすぺよー!」」


「ぺよー!」


 下にいるぴよ太も必死に手を伸ばすが届かない。


 そして、残酷なことにその瞬間は訪れた。


「シュゴゴゴォッ……ッ」という音がしたと思えば、モーター音+ブラシ音+吸引する音が途絶え。


【ICO】の前には、モフモフでふわふわなとうもろこし色の塊が転がっている。


「ぺよか……」と塊が呟くと【ICO】から声が聞こえた。


「ダストボックスヲカクニンシテクダイ、ダストボックスヲカクニンシテクダイ、ダストボックスガイッパイニナッテイマス」



 この後、仕事を終えた山田夫妻によって、階段の上で泣いているぴよ郎、ぴよ助。


 色んな意味でぐったりしていたぴよ太も無事に救出された。


 ただ、しばらくの間。


 長男ぴよ太のお尻部分には、何かに吸われたような跡がついていたようで、お尻を恥ずかしそうに隠すぴよ太と、それをからかう下2匹のやり取りが見られましたとさ。


 ぺよぺよ

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