第2話 おネムなひよこたち🐥🐤🐣zzz
大阪に住まいを構える山田家。
今日もここで、摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。
リビングの窓際、日当たりのいい場所。
彼らはそこにある黒ゴマ色ソファーの上で、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーを寄せ合い座っている。
いつもと同じ位置。
右から頭に1本の毛を生やす、長男で優しくてしっかり者の長男のぴよ太。
2本の毛を生やす、次男で頭が良く要領のいいぴよ郎。
3本の毛を生やす、三男の甘えん坊で泣き虫なぴよ助の順に。
「いい天気ぺよねー」
ぽかぽか陽気が気持ちいいようで、ぴよ太は目を細めている。
「ー」のように開けているのかすら、わからないほどだ。
そんなネムネムモードの長男が言葉を発すると、兄弟たちも語尾を繰り返す。
「ぺよねー」
「ぺよぺよー」
みんなぽかぽか陽気に当てられたようで、同じように目を細めている。
どうして、ここで彼らが身を寄せ合っているのかというと、理由はとても単純。
温かいから。
それに兄弟たちも近くにいるので、一石二鳥……いや、3匹いるので三鳥だ。
そんなひよこたちは、コクンコクンと頭を揺らし始めていた。
もう寝落ちする寸前といったところだろう。
「……ねむいぺよ」
「ふぁぁ~……ねむねむぺよな」
長男ぴよ太は
「ふぁぁ~……ねむねむぺよぺよー」
一番端でこくりこくりと頭を揺らすのは三男ぴよ助。
ぴよ助はぴよ太の癖、ぴよ郎のあくびが移り、
そんなネムネムモードから、ウトウトモードになったひよこたちの毛を、お日様の匂いのする風が揺らす。
すると、彼らは順番に鼻の穴をクンクンと動かした。
「お日様の甘い匂いがするぺよねー」
「ぺよぺよ、いい匂いぺよなー」
「ぺよ、でもお腹減ってたの思い出したぺよ!」
ぴよ助の「お腹が減ってた」という言葉を聞いた瞬間――。
低い音、真ん中くらいの音、高い音のグゥ~という音が重なってリビングに響く。
「ぺ、ぺよ、お腹減ったぺよねー」
ぴよ太は少し顔を赤くすると1本毛をゆらゆら揺らしている。その隣にいる次男ぴよ郎はというと特に恥ずかしがることなく、2本毛の振りながらうんうんと頷いていた。
「ぺよぺよ! 減ったぺよね」
「ぺよー、ぴよちゃん。ずっと減ってるぺよー」
ぴよ助はまん丸でふわふわなお腹を撫でながら、3本の毛を揺らしてしょんぼりしている。
彼らはぽかぽか陽気と眠気で、お腹が減っていたことを忘れていたのだ。
「ぺよー……ぴよちゃんのお腹さん、鳴りやまないぺよ……」
ぴよ助がくちばしを尖らせていると、ぴよ太はある物が冷蔵庫にあったことを思い出した。
「ぺ、ぺよ! 良い物が冷蔵庫にあったぺよ」
そして、ひよこ一倍優しい長男ぴよ太は、お腹を空かせている兄弟たちの為に立ち上がり、ソファーを下りようとする。
モフモフふわふわボディーと頭上に生えている1本の毛がなびく。
「みんな、待っててぺよねー!」
すると、そんなぴよ太のことが気になった次男ぴよ郎も立ち上がり声を掛けた。
「ぺよ? ぴよ太だけで大丈夫ぺよか?」
それは優し過ぎることで無茶をしてしまうぴよ太のことを心配しての言葉。
「ぺよー! ぴよ太、大丈夫ぺよ?」
そんな兄2匹のやり取りを見ていた甘えたの三男ぴよ助は、ぴよ郎を真似てぴよ太に声を掛ける。
ただ真似てはいるものの、普段から優しいぴよ太を心配する気持ちは本物だ。
「ぺよぉ……ありがとうぺよ! じゃあ、みんなでいくぺよ」
ぴよ太は、その弟たち2匹の気遣いに心を打たれて目をうるうるさせている。
そんなぴよ太の手をぴよ郎が握りひいた。
「ぺよ、いくぺよー!」
その後をぴよ助が追い掛けた。
「ぴよちゃんも、いくぺよー!」
とてとてと足音を立てながら走る。
こうして、腹ペコひよこたちは、ぽてぽてと足並みを揃えてキッチンへと向かった。
☆☆☆
キッチンの前に着いたぴよ太、ぴよ郎、ぴよ助の3匹は、その横にあるパントリーから青りんご色の脚立を引きずり出していた。
理由は言うまでもなく、体の小さな彼らでは冷蔵庫を開けることすら叶わないからだ。
長男ぴよ太は脚立の正面に立ち、モフモフふわふわボディーから、ぴょこんと出した腕で力いっぱい引っ張っている。
「ぺっよ! ぺっよ! なかなか動かないペよ」
その後ろで、顔をまん丸に膨らませて引っ張るひよ郎。
「ぺよ! う、動かないぺよ!」
そして、一番後ろで体を傾けて引っ張るぴよ助。
「ぐぬぬぬ……ぺっよ!」
しかし、3匹が力を合わせても脚立はなかなか動かない。
すると、頭の良い次男ぴよ郎にとある案が浮かんだ。
「ぴよ太任せてぺよ! ぴよちゃんが後ろから押すペよ」
駆け足で脚立の後ろへと回り、そこから声を掛ける。
「きっと、こっちの方が力が伝わるぺよ!」
ぴよ郎の考えはこうだ。
3匹居るなら、全員が違う位置から直接触れて同じ方向へと押すのが一番良いと考えていた。
そんなぴよ郎を見ていた甘えた三男坊ぴよ助にも、案が浮かんだ。
「ぺよー! じゃあ、ぴよちゃんは、ぴよ太の横で一緒に引っ張るぺよ!」
ぴよ助もぴよ郎と同じように、脚立へ直接触れて全員が違う位置から、同じ方向に押すと動くんじゃないか? と本能的に感じていたのだ。
だが、残念なことに意味はわかっていない。
そんなぴよ助は列を成す形から横並びへと変わり、みんなが違う位置に確認したぴよ太は掛け声を上げた。
「ぺよ! みんなで協力するぺよー!」
それに続き、勢いよく手を上げる次男ぴよ郎。
「ぺよー! 任せてぺよー!」
ぴよ助も兄2匹の真似をして、両手を上げる。
「ぴよちゃんも、頑張るぺよー!」
こうして、ひよこたちは自分たちより、何倍も大きな脚立を見事な連携プレーで動かすことに成功した。
☆☆☆
青りんご色の脚立の上。
そこで、彼らは開けた冷蔵庫からある物を取り出そうとしていた。
横一列に並んでいるひよこたち。
「これぺよ!」
ぴよ太が指した先には、どこかのパパが作ったと書かれた小さめの紙箱が1個あった。
その箱を目にした瞬間――。
気分が上がり、モフモフふわふわボディーから、ぴょこんと出した手をバタつかせるぴよ郎。
「ぺよー! シュークリームぺよね」
その横でぴょんぴょん跳ねるぴよ助。
「やったぺよー! シュークリームぺよー!」
そう、ある物とは外サックリとしたパイ生地。
中は、卵とミルク。
そして、ほんのり甘いバニラビーンズの香りが漂う洋菓子。
その名もシュークリーム。
これもプリン同様にひよこたちの好物で。
この箱の中に、大ぶりなシュークリーム1個入っているのだ。
好物を前にした3匹は「ぺよぺよ」と言いながら協力して箱を取り出し、急ぎ足でリビングへと持っていった。
☆☆☆
日当たりのいいリビングのソファーにて。
とうもろこし色のモフモフでふわふわな3つの塊を、窓から流れ込む風が撫でる。
ひよこたちは、くちばし周辺にカスタードクリームとパイ生地を少し付けたまま、寝息を立てていた。
その表情は、実に幸せそうだ。
兄弟が笑顔になったこと、シュークリームを食べられたことで胸も、お腹もいっぱいになったことで微笑みながら寝ている長男ぴよ太。
「すぴぃー、すぴぃー」
その横で、自分の思いついた案が皆の役に立って満足そうな表情を浮かべている次男ぴよ郎。
「すぅ……すぴぃー」
そして、とにかくシュークリームを食べられたことが、幸せでたまらない鼻提灯を膨らませている三男ぴよ助。
「すぴぴ……すぅ……」
そんな彼らの前には、空になった箱と3つに分けたであろう食べかすが落ちている。
ひよこたちは、今日も仲良く1つの物を分けていたのだ。
その夢を見ているのか、3匹は寝言を口にした。
「みんな笑顔で嬉しいぺよー……すぴぃー」
「上手くいって良かったぺよー……すぅ……」
「すぴぴ……美味しいぺよー……」
こうして、ネムネムモードからウトウトモード。
ウトウトモードからスピスピモードとなったひよこたちは、山田夫妻が戻ってくるまで寄り添い合い、幸せそうな顔で寝息を立てていましたとさ。
ぺよぺよ
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