第3話 最後のエイプリルフール

幸せな日々は、あっけなく崩れ去った。


「悠介さん、私の病気が急速に悪化したの。もう、余命は長くないみたい...。」


震える手でメールを読む悠介。すぐに美咲の元へ駆けつけた。


病室のベッドに横たわる美咲は、以前よりも痩せ細っていた。


「美咲さん...。」


「悠介さん、ごめんなさい。私、もうあまり長くないみたい...。」


弱々しい声で美咲は言う。悠介は彼女の手を握りしめた。


「美咲さん、私はあなたのそばにいます。最後まで、一緒に戦いましょう。」


「ええ、悠介さん。でも、私はもう...」


美咲の言葉は、途切れがちだ。


「美咲さん、あなたは強い人です。必ず乗り越えられます。」


「悠介さん...私、もう疲れたの。でも、あなたと過ごした日々は、私の宝物よ。」


美咲は悠介の手を握り返す。その手は、以前よりも冷たく感じられた。


「私も、美咲さんとの思い出は一生の宝物です。」


涙を浮かべる悠介。美咲は微笑んだ。


「悠介さん、私が死んだら、私のことを忘れないでね。」


「忘れるわけないです。美咲さんは、私の心の中に永遠に生きています。」


二人は黙って手を握り合う。


残された時間は、残酷なほど短いものになっていた。


美咲の命の炎は、確実に弱まりつつある。


悠介は必死に美咲を支えようとするが、現実は非情だった。


二人の間に流れる静寂は、別れが近いことを告げているようだった。


◇ 最後のエイプリルフール


美咲の病状は日に日に悪化し、彼女が病院のベッドで過ごす時間が長くなっていった。


そんな中、4月1日が近づいてくる。


「悠介さん、私、最後のエイプリルフールを迎えられそうね。」


美咲は弱々しい声で言った。


「美咲さん...。」


悠介は言葉を詰まらせる。


「悠介さん、最後のエイプリルフールだから、私、あなたに嘘をつきたいの。」


「嘘...ですか?」


「ええ。最高の嘘を、あなたにプレゼントしたいの。」


美咲の瞳は、いつになく輝いているように見えた。


「美咲さん、あなたの嘘なら、私は喜んで受け取ります。」


悠介は美咲の手を握る。その手は、かつてないほど小さく感じられた。



悠介が病室を訪れると、美咲は悠介を見つめ、微笑んだ。


「悠介さん、聞いて。私、宇宙飛行士になれることになったの。」


「えっ...?」


「今日から、私は宇宙へ旅立つわ。だから、もうこの病気とはお別れよ。」


美咲の声は、いつになく明るく響いた。


「美咲さん...。」


悠介は涙を浮かべながら、美咲を抱きしめた。


「悠介さん、私、あなたのことを宇宙から見守っているからね。」


「ええ、美咲さん。あなたの夢が、宇宙で叶いますように。」


二人は笑顔で見つめ合う。


これが、美咲が悠介につく最後の嘘になるのだと、悠介は直感していた。


しかし、その嘘は、二人の絆の象徴でもあった。


最後のエイプリルフールに、美咲は精一杯の愛を込めて、悠介に嘘をついたのだ。


その嘘は、悠介の心に永遠に刻まれることになる。


3-3. 嘘の告白


美咲の最後のエイプリルフールの嘘から数日後、彼女の容態は急変した。


悠介が駆けつけると、美咲は酸素マスクを付け、弱々しく横たわっていた。


「美咲さん...!」


「悠介さん...私、もう長くないみたい...。」


美咲の声は、かすれがちだった。


「そんな...美咲さん、あなたは宇宙飛行士になるんでしょう?」


悠介は必死に美咲の手を握る。


「私、あなたにと一緒に夢を見れて良かった...。私が宇宙飛行士になる夢を...。」


悠介は涙を流しながら、美咲を抱きしめた。


「美咲さん...あなたを心から愛しています...。」


二人は涙を流しながら、キスをした。


◇ 真実の確認


数日後、悠介は彼女の病室を訪れた。


しかし、そこで目にしたのは、空っぽのベッドだった。


「美咲さん...?」


悠介は戸惑いながら、看護師に尋ねる。


「すみません、佐々木美咲さんはどこにいったんでしょうか...?」


看護師は悲しそうな表情で、悠介を見つめた。


「佐藤さん...実は、佐々木さんは昨晩、亡くなられました...。」


「え...?信じられない...美咲さんが、もういないなんて...。」


悠介は呆然と立ち尽くす。


看護師は悠介に、美咲の遺品を手渡した。


「佐藤さん、これは佐々木さんがあなたに託したものです...。」


悠介は震える手で、美咲からの手紙を開く。


---

悠介さんへ


 私が死んでしまったら、ごめんなさい。


 でも、私は最期まで、あなたと一緒に夢を見ることができて、幸せでした。


 あなたと出会えたこと、愛し合えたこと、それが私の人生最大の幸福です。


 悠介さん、あなたは私に、かけがえのない真実の愛を与えてくれました。


 だから、私はこの世を去ることができるのです。


 悠介さん、あなたとの思い出は、私の永遠の宝物です。


 どうか、あなたも私との思い出を胸に、前を向いて生きてください。


 いつか、また会える日まで。


美咲より

---


悠介は涙が止まらなかった。


美咲は最期まで、悠介を想い続けてくれていたのだ。


悠介は美咲への愛を胸に、彼女との思い出を永遠に刻むことを誓った。


美咲が遺してくれた、真実の愛。


それが、悠介の生きる支えになることを、彼は信じて疑わなかった。



◇ 嘘の真実


美咲の死から数日後、悠介は彼女の両親に会うために、美咲の実家を訪れた。


「悠介君、よく来てくれました。美咲は、あなたに会えて本当に幸せだったと思います。」


美咲の母親は、涙ながらに悠介に語りかける。


「私も、美咲さんと過ごした日々は、かけがえのない宝物です。」


悠介は、美咲との思い出を胸に、答えた。


そのとき、美咲の父親が切り出した。


「実は、美咲から悠介君への手紙がもう一通あったんだ。」


「美咲さんからもう一通...?」


父親は悠介に、美咲の書いた手紙を手渡した。


---

悠介さんへ


 私がずっと宇宙飛行士になりたいと言っていたこと、覚えていますか?


 あれは、嘘じゃありませんでした。


 私は本当に、宇宙飛行士になる夢を持っていたんです。


 でも、病気になって、その夢を諦めなければならなくなった。

 

 だから、私は宇宙飛行士なった嘘をあなたにつきました。


 でも、あなたと過ごした日々、あなたと見た夢、あなたを愛した気持ち、


 それは全て本当のことでした。


 悠介さん、私はあなたと出会えて、本当に幸せでした。


 あなたが私に教えてくれた愛は、私の人生で一番の真実でした。


 だから最期に、もう一度だけ、あなたと夢を見たかったんです。


 「私とあなたが一緒に宇宙飛行士になるという私の最高の嘘」を


 あなたにプレゼントしたの。


 あの嘘は、私の愛の証でもあったんです。


 悠介さん、ごめんなさい。そして、ありがとう。


 あなたを愛しています。


美咲より

---


悠介は涙が止まらなかった。


美咲の最後の嘘のプレゼントは、彼女の真実の愛の表れだったのだ。


彼女は最後まで、悠介を想い、悠介と夢を見ていたのだと、悠介は気づいた。


美咲の愛は、嘘という形を取ることで、真実になったのかもしれない。


悠介は美咲への感謝の気持ちを胸に、彼女との思い出を永遠に刻むことを誓った。


(続く)

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