第40話番外編 マリエンヌの婚約
お気に入りの絵本を開く、不遇なお姫さまがキラキラの王子さまに助けられて幸せになる退屈なストーリー。
でも、いいなぁいいなぁ。
お姫さまになりたいわけじゃないんだけどねぇ、キラキラした王子さま。
太陽みたいな金色の髪に青い瞳、柔らかで明るくて爽やかで頭も良くて強いのに、うちの騎士たちみたいにゴツゴツしてなくって。
結婚するなら王子さまがいいなぁ。
そんな風に思って過ごしていたら、今日はマルグリッドお姉さまの婚約者候補の方が来るんですって!
「ふぅん、お姉さまも婚約するんだ、どんな人なの?」
「第二王子殿下だとお聞きしています」
私に宛てがわれたメイドが私の身支度をしながら答えた。
「え?お姉さまは王子さまと結婚するの?ずるい!」
ずるい!私の方がお姉さまよりずっとずっと王子さまと結婚したいのに!
いつだってそう。
私が欲しいものはすぐお姉さまが手に入れちゃうんだから、でもいつだって私が狡いって強請れば譲ってくれるのよ。
うん、きっと今回も言ってみるぐらいは良いよね。
「マリアンヌ、走っちゃだめよ」
「いいじゃない、どうせお姉さましか居ないんだし」
相変わらず澄ましたお姉さまが身支度をされながら部屋に飛び込んだ私に注意する。
「いいなぁ、お姉さまは」
「何が?」
「だって、同じ歳って言うだけで第二王子殿下の婚約者になれるんでしょう」
お姉さまの眉間に皺が寄ったわ。
「お姉さまより、私みたいな可愛い系の方がお姫さまに向いてると思わない?」
くるくると回りながらお姉さまに私の可愛さをアピールしてみる。
「お父さまやお母さまが決めたことだから、仕方ないわよ」
「ふーんだ」
わかってるわ、御本やお飾りとかと違うから、お父さまやお母さまが決めたんならきっとダメなんでしょ。
ぷんと顎をあげて私は部屋に戻った。
王子さまが来るから今日は部屋で過ごしなさいだって!
本当に狡い。
お姉さまを見たくはないけど第二王子殿下は見てみたい、私は馬車が来るのを部屋の窓から見ていた。
真っ白な馬車が門から入ってきた、玄関につけた馬車から煌びやかなドレスの女のひとが降りてきて、続けて男の子が降りてきた。
キラキラと金色の髪が眩しい。
「王子さまだわ」
お姉さまの婚約者になるならいつかはお義兄さまになるのかしら、やっぱりなんか狡いわ。
お姉さまと並ぶ王子さまが見たくなくて私は窓から離れてベッドに飛び込んだ。
暫くして私は父と母に呼び出されて応接室に向かった。
応接室には馬車から降りてきていた煌びやかなドレスの女性が座っていた。
「マリエンヌ、お前アルフォンス殿下と婚約しないか?」
「良いんですの?わぁわぁ嬉しい!やっぱりお姫さまになるのはお姉さまより私の方がお似合いよね!」
「ただ、まだ決まったわけじゃない、あくまで候補の一人だ」
「わかったわ!」
私は降って湧いた話を聞いて父に飛びついた。
そんな私を女性が微笑ましく見ていた。
初めて王子さまに会う日はすごく楽しみにしていた。
気に入ってもらえるように髪飾りの色は王子さまの瞳の色に合わせたりした。
ワクワクと四阿で待っていると、時間をかなり遅れた王子さまが四阿に足を踏み入れた。
ふわふわと風に金の髪が揺れている、絵本で見た王子さまそっくりのその男の子は私を見るなり「チッ」と舌打ちをし不機嫌に顔を歪めた。
「おい!マルグリッドを呼んでこい!」
「お、お姉さまをですか?」
「そうだ、さっさと呼んで来い!」
そう怒鳴られて私はどうしていいか分からずに控えていたメイドの元へ行くと、メイドはお姉さまを呼んできてくれた。
お姉さまが来てからも王子さまの不機嫌は治らず、お姉さまが去っていくと王子さまも帰って行った。
「何、あれ」
それから何度かお城に呼ばれたけど王子さまにはなかなか会えないし、会ってもお姉さまを連れて来いと怒鳴られてばかり、私は父に事情を話し候補を辞退した。
父は何も言わずに私の意思を汲んでくれた。
お姉さまの婚約者が決まり数ヶ月、私は遊びに行った母方の実家の領地にある保養目的の屋敷で、私は運命の出会いをした。
「はじめまして」
そう笑顔を向けたブルーグレーの髪を肩で揃えた少年は私に手を差し伸べた。
おずおずと手を重ねれば手の甲に口付けられた。
「ひぇっ」
「はじめまして、可愛いお姫さま」
彼は隣国の小公子だった。
私と彼はその日に意気投合し、直ぐに婚約が結ばれた。
綺麗で素敵な王子さまは出会ったその日に私をお姫さまにしてくれた。
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