【完結】大阪のおばちゃん乙女ゲームの悪役令嬢に転生する
竜胆
第1話 思い出したんよ
煌びやかな会場は目に痛い程、厳かな音楽は生演奏という贅沢、色とりどりのドレスの女性にカラフルな髪色が目立つ。
そんな中でシュッとした青年がキャンキャンしたお嬢ちゃんの肩を抱き寄せ、階段の途中で声を張り上げた。
「貴様との婚約を破棄する!」
それを階下から見上げて泣き崩れる銀髪のお嬢ちゃん。
「マルグリット!貴様の悪行は聞き及んでいるぞ!貴様はここに居るアリア男爵令嬢を嫉妬の末、多数の嫌がらせをしていたな」
「公爵令嬢という立場を利用して人々を扇動しアリアを迫害したであろう」
「剰え危害を加えるべく階段から突き飛ばしたと聞く」
「そのような卑劣極まりない者がこの国に国母となること、以ての外」
「貴様のような者を私の伴侶にすることはない」
「何より私はアリアを愛しているのだ」
…………。
「なんでやねん」
それが目覚めた第一声だった。
「いや、なんでやねん」
一言目は夢の内容に、二言目は今見えている景色に向けたもの。
天蓋?っちゅうの?ヒラヒラしたカーテンみたいなんに囲まれたベッド、周囲は豪奢な家具。
見える範囲全てが非現実的、中世が舞台の海外映画のよう。
「ホンマ、なんでやねん」
私は記憶を辿った。
操作も覚束ないスマートホンとやらにかんたん操作の携帯電話から買い替えたのは良いものの、全く使いこなせなかった私に娘が入れたあぷりとかいうもの、なんか流行りの乙女ゲームいうの?
そう、それをやれと。
AIとかいうしすてむとやらが、ちゃっととかいうので話かけたら返事が返ってくるって言われて、やってれば慣れるからとか。
ようわからんまんまやらされているうちに、ずっとちゃっとをしとったシュッとした金髪の王子さまとやらがいきなり自分の婚約者であるお嬢ちゃんに、婚約破棄とかいう今どきワイドショーでも笑えへんような、浮気の挙句逆ギレして責任取らんと悪いのは浮気した僕じゃなくされたお前とばかりの暴言とさして悪いと思われへんお嬢ちゃんの婚約破棄と追放とかいう結末に、寝転がりながらげえむをしていた私があまりのお粗末さに文句のひとつでも言おうとした瞬間、食べていた煎餅を喉に詰まらせて……。
なんでやねん。
いくら何でもそんな死因ないやろ。
ただ、十二年生きて来た記憶と共に思い出したげえむの内容が重なって行く。
記憶を整理するために改めて自分のことを考える。
私はマルグリット。
アルダイム公爵家の長女、現在十二歳。
銀髪に紫の瞳は冷たい印象を与えるらしく、友人と呼べるものはいない。
寂しいやん。
家族は兄が一人と私、妹と弟。
父はアルダイム公爵で国では宰相の地位にいる。
母は隣国の王室の血を引く侯爵令嬢であったのをたまたま外交で隣国に行った父が見初めて大恋愛の末に結婚。
巷で有名なロマンス小説の題材にもなるくらいに熱烈な恋愛結婚は貴族社会で珍しいこともあり、二十年近く経った今も話題に上がることがあるほど。
まるでドラマか映画のような恋やね。
恐らく前世ともいうべき長くはない記憶が突如生えて来たけれども、十二年間この世界で生きて来た記憶もしっかりある。
そうして思い出した前世の記憶を反芻する。
このままだと娘が話していた所謂断罪劇が将来あるらしい。
え?浮気された挙句に人前で婚約破棄されて追放されるん?
なんやの、その笑われへんギャグより酷い結末は。
嘘やん、いくらなんでもあんなん通用しはるん?
でも夢のシュッとした王子様に今世で覚えがある。
今日、顔見せで会う予定で私と婚約が内定したというこの国の第二王子アルフォンスなんちゃら。
側妃の第一子で公爵家の後ろ盾を求めて、みたいな話を父たちが昨夜していた気がする。
もしかしてドロドロの昔々の昼ドラみたいなやつかいな。
そういうんは外から見るにはええけど当事者になりたくはないね。
はぁとため息を吐いて起き上がる。
窓に映る少女は記憶の中のすちるとかいう絵に載ってた少女に似ている。
いや、ほんまに、なんでやねん。
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