青の囁き(2)
ほうほう、これはこれは……
まるで映画のセットかと見まごうような赤いカーペットの敷かれた大階段を上って通された応接間は、様々な精緻を尽くした装飾品や美術品の並ぶ、宮殿のような空間だった。
巨大な暖炉には赤々とした火が燃え盛り、寒さでこわばっていた身体の心をほぐしてくれるかのようだった。
「なにこれ……まるでお城みたい。結構感動かも。ね、そう思わない? アリサ、ガリアのおじさん」
「そうだね。確かにただの男爵家ではありえないような建物だな」
お父さんが小声で呟き、私も小さく頷いた。
これはまるで王族の建物だ。
この経済力がどこから出ているのか、気になるところだが……
雪のように澄んだ白磁器のカップで紅茶を飲んでいると、軽やかなノックと共に老執事が姿を現した。
「お待たせ致しました。もうすぐお坊ちゃまとお嬢様が来られます」
その視線と言葉には言外に「だから失礼の無いようにしろ」と言う圧力を感じた。
まあ、言われるまでも無くそうするけどね。
その後少しして入ってきた二人の姿に私は思わずため息を漏らしそうになった。
美しい。
月並みだがそうとしか言えない。
二人は双子だろうか。
ブロンドの髪と青い瞳、ぷっくりとした唇だけでなく二人とも肩まで髪をを伸ばしているため、少女の方がドレスで少年の方がジャケットとネクタイと言う服装の違いが無ければ見分けがつかないくらいだ。
「すっごい……お人形みたい」
隣でクローディアの呆けたような声が聞こえたが、まあ否定できないな。
「今回はお忙しい中、お時間頂き有難うございます。ガリア・コルバーニ様、クローディア・アルト様、そしてアリサ・コルバーニ様。即位後わずか半年にして名君の誉れ高きオリビエ・デュラム王の紹介状を持つご一行。そのような勇名轟く方々がこの忌まわしき事件に対処いただけるなど、感謝の言葉もありません」
立て板に水、と言う言葉のふさわしい流れるような口調で話すと、少年は深々と頭を下げた。
だが、少女の方は私たちをまるで人形のように生気のない目でじっと見ているだけだった。
「私はロット・ギルモア。こちらは妹のアナ・ギルモアです。双子故、見間違う事もあるようで……当主の父が2ヶ月前、残酷な死を遂げたため、13歳と言う若輩者ではありますがギルモア家の当主を勤めさせていただいています」
「丁寧なご挨拶痛み入ります。改めて、アリサ・コルバーニと申します。私どものような旅の一行にこのようなご歓待頂き感謝いたします」
深々と頭を下げた私に、ロット候は笑顔で鷹揚に頷くと手でソファを指し示した。
「さて、では今回の……俗称でお伝えする無礼をお許し下さい。『血の金曜日』事件ですが、元々父がこの屋敷の離れにある訓練場にて、惨殺されていた事が始まりでした。その姿は……言葉にするのも……」
ロット候は言葉を詰まらせると、ハンカチで目元を押さえた。
「お見苦しいところを失礼しました。当時ギルモア家の出来る手段を尽くし犯人を捜しましたが、芳しくない状態のままその2週間後……今度は屋敷のメイド長が胸元を一刀の下に。父と異なり即死だったのが救いですが。ですが、それからは街の住民に被害が広がり、毎週金曜になると街の……女性ばかりメイド長と同じく胸元を切られて即死となっています」
「なるほど……殺された方々に……お父上も含めて共通点はございますか?」
「父とはございません。他の者はいずれも年齢は20代で女性。他は……職業も様々で共通点はありません」
「若い女性のみ、という事なんですね。お父様と他の方々との関わりはございましたか?」
「さあ……ただ父は町の住民を常日頃から気に掛けており、毎週末には街に行っては住民と交流していました」
ほう。これはこれは……
どうやらここに鍵がありそうだ。
お父さんも同じ事を考えたようで、お互いに同時に目配せしたとき。
ふいに射るような視線を感じて目を向けると、ロット候の隣で全く口を開かなかったアナが無表情で私とお父さんを見ていた。
それは深く暗い光を内包していたが、その中でもある一つの感情は読み取れた。
●○●○●○●○●○●○●○●○
それからロット候から当面の路銀代わりに、と報酬の一部を受け取った私たちは早速街の居酒屋に入って、今後のことを話し合うことにした。
「まずは街の住民に前当主の事を聞かねばな。街を回っていた同じ週末に起こっているのは気になるところだ」
「あ、じゃあ私もやる! みんなで聞き込みすれば早いよ」
「ふむ、その聞き取りだけどさ……悪いけどお父さんとクローディアでお願いしてもいいかな?」
「へ? アリサは別行動なの?」
「うん。ちょっと気になってね。別の方向から話を聞きたくてね」
「ロット候の妹君か」
「そう。あの時の視線……見たよね?」
「ああ」
「え!? 妹さんなんか変な目でアリサのこと見てたの! ってか、また私だけ分かんなかった!!」
「まあまあ、あれは気付かなくて良かったよ。何せ……あんなどす黒い殺意は久々に見たからね。だから、お父さん。クローディアの事、頼んだよ。あれは絶対私たちに何かしてきかねないからね」
「無論だ。しかし、男爵家にしては不自然なほど豪華な屋敷といい、あの一家には色々と調べたい事が多いな」
「うん。だから私はあの屋敷の方でちっと聞き取りしたいんでね。と、言う事でよろしく」
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