33話 真実



―続き



「オルマーで語られている伝説ではオーレルアイゼンの死後、すぐに息子であったブローゼン王子が魔族を討ち取ったと言われているが・・・」


「このくだり、なんかおかしいと思わないか?」


「まぁ、伝説は所詮伝説だし、多少は脚色されてそうではあるけど・・・」


「オーレルアイゼンはその当時42、息子の方はまだ12歳だった」



「・・・えっ?」



「ああ、ただのガキンチョが人間の手練れ何十人で挑んでも勝てない上級魔将を討ち取ったんだ、しかも、だ」


「上級魔将カースブレイダーの得意技は相手の心臓カルディナルを斬る技スラッシュ。文字通り、食らえば確実に死ぬ必殺の剣だったのさ」


「いくら親父の力や記憶を受け継いだとは言え、齢12のガキが勝てる相手じゃねぇ」


「だが、結果は御覧の通りだ。これを期に『伝承』の系譜は続いていったとされている」



「それで次の質問だ、なぜ息子のブローゼンはカースブレイダーに勝てたか、だ」



情報もロクにない俺には皆目見当がつかない。何より既に遠い過去の話である。だがその中で一人、口を手で押さえ驚愕の表情でソアレを見る者がいた。




「まさか・・・『見切り』か!!!」


「さすがはドニヤ、壁役戦士の事だけはあるね」


「そう、オーレルアイゼンは相手の心臓カルディナルを斬る技スラッシュを見切る為にわざとカースブレイダーに挑んだのさ、その命をかけてね」


「そして見事に見切りは成功し、それをそのまま息子に託したんだ。これがカースブレイダーが破れた理由、そして・・・」


「人間達が何故か忘れている真実だ」


「それだけじゃない。伝承される度に後継した者がどんどん強くなっていく理由もいつの間にか語られなくなっていった」


「言われてみれば、確かにその辺は漠然としているような気がする・・・」


「簡単な事さ、そのまま現在にまで伝わっちまうと都合が悪いだろう・・・?」



魔族私たちにはさ」



「・・・魔族の仕業だったの?」



「もしくは人間を利用してそうさせたか、伝記を書き換え、詩を改ざんし、そしてあたかもそれが自然であるかのように見せかけて徐々に『伝承』が持つ重要な部分だけを忘却させた」


「・・・それだけ、あの皇帝はヤバかったのさ。それこそ魔族の存続さえ危うい程にね」


「だから、彼の皇帝アルテミシアは色欲のプラムフィー、天舞のサンバイシン、そして第六魔貴族の総統括であるモズナルの3柱が協力して永久に封印されたと言われている。殺した方が楽だったが、それじゃ『伝承』によってますます強くなり続けるからね」



ソアレは大きく首を振り、両手を広げる。



「全く、たかだか人間相手にけして手を組まないあの第六魔貴族達がが共闘するまでに至ったんだから、アルテミシアは魔族の歴史を変えたと言ってもいい」


「と、言う訳で、無事に皇帝は封印され魔族は無事平穏に暮らせましたとさ、おしまいおしまい」




・・・・シーン




「なんだい?何か言う事もないのかい?」


「いや、あまりにも衝撃的すぎて反応に困ると言うか・・・」


「いや・・・ソアレ。封印されたって事は、その封印を解く事も出来るのか?」



「さすがにそこまでは知らないな。だが、どういう方法で皇帝を封印させたかは知らないが、あの魔貴族が3柱でかかってようやく、という感じだったらしいから相当すごい力で封じ込めた事には違いない」


「普通に考えりゃその封印を解くなんて言うのは無理なんじゃない?」



「・・・はははっ、これを帝国の連中に言わなきゃならねぇってのは結構きついな」


「ええ・・・ようやく見えた光が、最悪の形で影を落としましたから」


「死んでもないが、かと言って生きてもいない、これって何だか今の帝国そのものね」


「皮肉が効きすぎて逆に笑えねぇ」


「いや、別に笑わせたい訳で言ったんじゃないけど」



ソアレが言った真実で皆の空気がどんよりと重くなる。

生きているのは嬉しい事なのだろうが状況は絶望的だ。



「皇帝は一体どうやって封印されたんだ?」


「聞いた話だが『進化の技法』と言われるアーティーファクトに封じられたらしい、私も詳しい事は知らないが」



結局、ショックが大きすぎて他の話を聞く気にはなれず、

俺達は一旦オルマーまで引き返す事にした。



「あ、そうだ。鹿」


「なんだ?」


「お前、弱いな」


「はい・・・」


そんな面と向かって言われると傷つく。


「だが、伸びしろはある。龍玉泉にちょっとした変わり者の知り合いがいる。そいつに会っていっちょ鍛えてこい」


「えっ?急にそんな事言われても・・・」


あんな暑苦しいところ行きたくないしな。


「私の見立てじゃお前以外はたぶん何とかなる。と、言っても中将が単独で居る場合に限る、が。だがお前は確実に死ぬ。これはある意味情けだと思ってもいい、嫌なら無理にとはまでは言わないが」


何それ・・・そんな風に言われたら行くしかないじゃない。


「き、鍛えたら強くなれるのか?」


「さぁな、お前次第だろうそれは」


・・・元々、生まれてまだ数年程度しか経ってないのだ。ロドリー達に比べれば実戦経験が乏しいのは仕方ない。


・・・・って俺って何年まで生きられるんだっけ?



「あの、つかぬことをお聞きしたいのだが・・・」


「あん?」


「し、鹿の寿命って何年ぐらいか知ってる?」



「知らんがな」




ーーーーーーーーーーーーーー




―それぞれの寿命



重い事実を知ってしまったオルマーへの帰り道、ロドリーがふとある重要な事に気づく。



「なぁ、皇帝は封印されてどうにもならないんだろ?なのになんで魔族側は皇帝の行方をチラつかせるような事を言い出したんだ?」



そうだった、確かマーチルホーンなる魔族が帝国に会談を求めていた。その中に皇帝の居場所をほのめかすような事が書かれていたのだ。



「・・・罠か」


「罠って・・・あんな帝国の連中をハメて魔族側に何のメリットがあるのさ」


「そんなの、だがソアレから聞いた事は一刻も早くジゲンに報告する必要があるな」


「そうね、もしかすると封印を解く方法だってあるはずだもん」


「まずは『進化の技法』なるものを回収せんとだな」


「ですが、ソアレの言った伝説についての話は気になりますね、オルマーで少し話を聞いても良いかもしれません」


「ああ、もしかするとあの街に魔族の息のかかった者が潜んでいるかもしれない」



と、皆がそっちの話で夢中になっている中、俺は一人己の寿命について考えていた。ペットで飼ってる犬が確か10年ぐらい?鹿の寿命も大体それぐらいだろうか・・・。



「そう言えば、この世界の人間や魔族の寿命ってどれくらいなんだ?」


「人は60年、魔族は600年、ドワーフが400年でエルフが1000年だっけ?」



へぇ・・・やっぱりエルフだけはとびぬけて長命なんだな。

うちのエルフを見る限り全くそうは見えないが・・・。



「ミリューって何歳なんだ?いや、他の皆も」


「俺は・・・確か今年で162歳だった、ような・・・」


「ロドリー、あんた自分の歳も覚えてないのかい?私は202歳だ」


「私は26です」


「私はまだ342歳、ちなみにエルフって1000年じゃなくてそれ以上生きるからね」



おお、人間種であるラミが混ざるとますますそのギャップがファンタジー。そう考えるとソアレは500は超えているのだろうか。100年程度しか生きれない人間からすれば何もかもが規格外である。



それにしても、ロドリー達やミリューと言い、長く生きれば生きる程老け込んで行くという現象は皆無らしい。いや、白銀に案内されて行ったエルフの村の老婆はしっかり老け込んでいたし、いずれ衰えはくるのかもしれない。



そして、肝心の俺の寿命だがオルマーの町で聞いたら大方10年程度という事が判明した。


動物の一生は驚く程短いのだ。



―オルマーの変わり者



ソアレの話を聞いて分かったが、オルマーの大広場には二つの銅像が飾られていた。一つはオーレルアイゼン帝、そして二つ目はその息子のブローゼン王子である。俺達はそれとなく、もう一度この町が救われた伝説について聞いてみたが、やっぱり肝心の鍵とも言える必殺技を見切った話しや、フローゼン王子がまだ子供だった事などを語る者はいなかった。



だが収穫程では至らなかったにしろ、このオルマーには人の理解を超えた物を次々と発明する天才が居ると言う話を聞き、とりあえず会いに行く事に。発明家の家は屋敷のように大きく、その一室が自宅兼研究室兼、そして今まで作ってきた作品を展示しているような博物館となっていた。



原理は不明だが、どれもこれも目を楽しませる。面白いのがけして実戦向きなものばかりでなく、生活で利用できそうな内燃機関や趣味的な作品も多く展示されている事だ。その中で俺の目をひいた作品が・・・。



「自動人形・・・」



それは関節のつなぎ目が無骨に露出した人間型の模型だった。何かのワイヤーに吊るされ、こちらを見下ろすように展示されている。ペリエも何か思う所があったらしく、じっとその人形を見ていた。



「客人、このコッペリアが気になりますか?」



後ろを振り返ると、頭にシフォンケーキでも乗っているかのような変わった髪型の老人が話しかけてきた。


「私はシゲヒサ18世、我が家は代々発明家なのです」


「はい、実はこの者は魔法人形でして人形繋がりで何か縁でもありそうな気がしたようです」


「・・・・・・・・」


「ほほーっ、鹿が喋るか!さて一体どんな装置を仕込ませているやら」


興味深々という感じでさっそく俺の体を触りまくる老人。


「い、いやっ・・・自分は発明じゃなくて自然現象ですっ」


「・・・・確かに、それと言った物は無いようですな。ところで、何か用でもありましたかな?」


いや、特に用は無いし、まんま観光で来ましたなども言いづらいし。


「何でも仰いなさい。人の悩みや不満が時として発明の良いヒントになるのです」


なるほど、発明家って変人ってイメージが強いがこの人はどこか良い人なのかもしれない。俺は思い切って前々から悩んでいた事を打ち明けてみた。




「ほほー・・・鹿の携帯食ですか」


「ええ、少量で栄養があって、それでいて荷物としてもかさばらない・・・」



自分で言っていても何ともわがままだと思う。まぁ鹿の欲望なんてものはそんなものか。



「なるほど・・・それでしたらば丁度良いのがございますぞ」


そう言うとシゲヒサは奥の方へ歩いて行き、何かを手にしてすぐに戻ってきた。



「これはディアクラッカーと言ってですな、まぁタダの鹿せんべいですな」


それを見た瞬間、俺は言い逃れぬような既視感を感じた。これは・・・あの某公園で鹿がこれを食べる為に何度も頭を下げまくると言うあの、あの伝説の・・・!!!



「材料は小麦粉と干し草を細かくしたもののみ。これならば大量に持っていても荷物にはならない。小麦を使用しているので栄養も問題無い。干し草が入っているのは繊維を取るという意味もあるが、まぁおまけですな」



「か、神よ!ぜ、是非それを俺にくださいっ!!!」



気が付くと俺は必死に頭を振り続けていた。


・・・えっ、お辞儀ってそういう事?



「ほれ、どうぞ」



パクッ・・・・これは、これはああああ!!



・・・このまったりとしてしつこくない味が口の中で混然一体となって奥深い風味を作っている!!!



思わず言葉を失うこの美味さ。

これが鹿せんべい、いやディアクラッカー!!!



「これは・・・素晴らしい作品ですね。やめられない止まらないかっ・・・いえ、まぁ5枚ほど食べればその日で必要な栄養は賄えそうな気がする」



「これぐらいなら特に特許料はいりません。レシピが書かれた紙代だけで結構ですよ」



こんなの絶対に買うに決まってるし!

まぁ量産体制はどこかで考えればいいだろう。

とにかくこれがあれば旅路の食料事情は克服できる。


「ところで、つかぬ事を聞きますが『進化の技法』という物をご存じありませんか?」


俺は徐に例のものについて尋ねてみる。



「『進化の技法』・・・いえ存じませぬな、一体何なのでしょうか?」



「いえ、とにかく、ありがとうございました。先生のおかげでこれからも生きていける気がします」



収穫は無かったが別の意味での収穫なら大いにあったシゲヒサ屋敷を出る。また寄ったときにも是非訪れてみよう。次に来る時、また何か新たな発見がありそうな気がする。



そして、ソアレに言われた通り、俺とペリエは龍玉泉へ修行に行く事になり、残りはその足で帝都へ戻る事にした。帝国での進展が気になる所ではあるが・・・俺は白銀の言っていた事を思い出す。




(ならば、まずは魔族と対等に渡り合える術を身に着けて見ろ)




この少ない寿命の中で俺はもっと強くならなければならないのだ。


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