ありのまま 自分らしく生きる勇気

桜 こころ

第1話  君

 

 いつも気になってた……


 君の瞳の奥にはとても暗く深い闇があって、誰も届かない闇の中一人膝を抱え震え息もできず、声を殺して泣いている君がいる……。


 なのに君はいつも笑うんだ、苦しみを隠すために。儚く今にも消えてしまいそうな君は笑うんだ。


 何が君をそんな風にしてしまったのか、本当の君はどんな人なのか、すごく気になった。

 いつのまにか目で追ってしまうことが多くなって、気づくといつも君を探してた。


 君はいつも無理に笑っていて……君が心の底から笑うところを見たい。そう願ってしまった、心の底から強く願ってしまったんだ。 


 寂しく微笑む君は何もかもあきらめてしまったような、悲しい目をする。


 なぜ? 何が君をそうさせている?


 もっと君を知りたい……。




 廊下にはたくさんの生徒たちが他愛もない話をしている。話声や笑い声、廊下にはたくさんの生徒が友達と話をしていた。


 とても平穏な学校の風景。

 春の暖かな日差しが差し込み、窓から爽やかな風が吹き込むと、窓際で佇んでいた藤原ふじわらかなめの髪が風になびいた。


 その様子を偶然通りかかった女生徒がうっとりとした目で見つめる。

 要は世間でいうイケメンだった。長身で整った綺麗な顔をしていたし、勉強もスポーツも人並以上にできる。校内ではかなりのモテ男だった。


 本人はそんなことにはまったく興味はなく、要が今、興味を持っているのはただ一つ……。


 要は爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくり吐き出すと、「よしっ」と気合を入れて、ある場所へ向かうため歩き出した。



 要は目的の場所で足を止める。

 教室の入口から中の様子を伺うため、そっと覗き込んだ。

 放課後ということもあり教室にはほとんど生徒は残っておらず、数人ほどしかいなかった。


 要は女生徒たちの塊に目が向いた。数人で一人を囲んでいる。中心の女生徒は下向き加減でそこにいた。

 井上いのうえかえではいつも下ばかり向いている、自信無さげで大人しくて、いかにもいじめの標的にされそうなタイプだった。


「ね、お願い。井上さん、掃除当番代わって? 私たち今日大切な用事があるんだ。井上さんは暇でしょ?」

 いかにもギャルっぽい感じの女生徒がお願いのポーズをしている。しかし威圧感がすごい、あれではただの脅しにしか見えない。


「えっ……」

 楓は猫に追い込まれたネズミの如く、戸惑い後ずさった。


「ね、お願―い。いいよねっ」

 ギャルのリーダー的存在の一人が念を押すように、最後の一押しの言葉を強めに言い放つ。


 楓はおずおずと小さく首を縦に振る。

「ありがとうーっ! 井上さん、優しいっ。じゃ、よろしくねっ」

 楓の肩をポンと叩くと、ギャルは嬉しそうに跳ねる。そして彼女たちは騒がしくお喋りしながら、あっという間にいなくなった。


 一人になった楓は一度小さくため息をついたあと、何事もなかったかのように掃除を始めた。その後ろ姿を見ていた要は胸がきつく締め付けられる。


 痛くて切なくて、彼女を今すぐ優しく抱きしめたくなる衝動を収めるため、胸の辺りをギュッと握りしめた。

 大きく深呼吸してから要は一歩踏み出した。






 読んでいただき、ありがとうございます!


 次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/


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