第9話 正体
私の手は赤い液体にぬれた。隣を見渡すと、すぐにその出元が分かる。
綾香だ。綾香の体がズタボロに斬り裂かれ、大量の血を流している。
一目見るだけで死んでいるという事は明白だ。
これでようやく気が付いた。私が彩香を殺してしまったのだと。
夢の内容は予告でも何でもなかった。私が全員殺していたんだ。私のこの手で。
でも、こんなこと言っても何になるのだろう。誰かに、言っても信用されないだろう。
……だめだ、耐えられない。罪の意識にさいなまれる。
私が親友を殺してしまったのだ。
「どうしたの? 愛華。何かあった?」
由美がぼんやりと私に尋ねる。すると、すぐに顔を青くした。今の状況について気付いたのだろう。
「嘘でしょ? 彩香? 彩香?」
由美は彩香の体を揺らす。だが、彩香の体が生き返ることもない。
「とりあえず、救急車、呼ばなきゃ。後先生と」
「無駄だよ」
私は冷たい声で由美に言った。思った以上に冷たい声が出て、正直びっくりした。
「由美は殺されたんだ。あの、殺人鬼に」
そう、私に。
私には今も、彩香を殺した感触を感じている。
「……」
「もう、私達は元に戻れない! 私たちはもう元の生活には……」
「愛華落ち着いて!!!」
落ち着けない。落ち着けるわけがない。
そして、先生と警察が来て、色々な事情聴取を受けた。例の事件関係とされ、私達はすぐに解放された。いろいろと私達には不可能なことが分かったからだ。まず私たちの筋力では到底不可能だし、窓ガラスが外から割られていたという事も、色々と。
そもそもあの姿になった私は人外なのだから、
本来なら警察に捕まらなかったことは喜ばれることなのだろう。だけど、私には喜ぶことが出来なかった。私が殺したのに、私が裁かれないなんて。
結局、修学旅行は中止になり、帰ることになった。
飛行機の中で、由美とは一言もしゃべらずに、互いに現実逃避の為の映画を観た。内容はくそ面白くなかった。面白く見ろという方がおかしいと思う。
まだ、私が殺したとは決まっていないと、自分に言い聞かせても、罪の意識は消えない。
それにもう、元の日常に戻ることはないのだから。
そして翌日から一人ずつ家族が死んでいった。まだ彩香の件は偶然の可能性があった。だけど、夢の中でも私がしっかりとお母さんを殺していた。
お母さんの死体の前に行った時、また、絶望と悲しみが私を襲った。
ああ、死ななきゃと、包丁を持つ。これを私の腹に突き刺すことが出来れば、私は死ねる。これで、もう誰にも迷惑はかけなくなる。
由美を置いて死ぬのは心苦しいが、これで由美は助かる。
「えい!」
私はお腹にナイフを突き刺した。これで、全て終われる。
「え?」
痛いけど、痛くない。段々と痛みが引いていく。
ふとお腹を見る。すると、お腹から血が出ていないのだ。
「死ね……ないってこと?」
ああ、最悪だ。死ねないなんてそんな馬鹿なことがあるのか。
これも、悪魔の呪いなのだろうか。
この、誰かを殺すような呪いを持った人間がこの世に生存することになるのか。
嫌だなあ。
そして、翌日、お父さんが死んだ。もうわかり切っていたことだから涙が出なかった。このまま悪魔は、私は家族を全員殺すつもりなのだろう。その次は由美か?
いやだ、由美が死ぬのは。由美には死んでほしくない。親戚にも死んでほしくない。
その日、家にマスコミが来た。お父さんとお母さんが死んだことについて訊いてきた。その執着心は激しいものだった。
何が何でも情報を聞き出そうとしているかのようなそういう執着心だ。
しんどい、と本当に感じた。しかも中には私が何か関係しているんじゃないかという事まで言われた。
勿論私が殺しているのだから、正しいのだけど。
そして葬式が終わった日、私の叔父や叔母たちが話し合っているのが聴こえた。私の譲り合いが起きている。もう、私は悪魔の子扱いをされているらしい。ははは、言えてる。私が殺しているのだから。
その後も全員死んでいった。親戚全員。どうせなら私が刑務所送りにでもなったらいいのに、私は証拠不十分で逮捕状すら出ない。アリバイもあるのだし。人外となった私にアリバイもくそもないと思うけど。
それから私は、学校をやめて、別の町に向かった。鳥取県だ。
鳥取県で一人暮らしをした。今の時代は便利なことで、置きはいというシステムがある。
「皆さん。今日も配信していくね! まずはこのゲーム! 難しいって聞くけどどれくらい難しいんだろ。みんな知ってる? あ、さがりんさん、鬼ムズって? そっか、それは大変だね。私も覚悟決めなきゃ!!」
配信業を始めた。本当は根暗な自分を偽って、元気なふうにした。まさに視聴者が求める私像を。
本当にきつい。死にたいという気持ちを偽って、金を稼ぐのが。
だけもこれで、出来るだけ外に出ないという生活ができた。
みんなにとって私は可愛いみたいで、かなりの登録者数を稼げた。でも、死亡者は無くならなかった。じゃあ!ということで、はいしんをやめ、動画だけ投稿するようになった。そしたら、死亡者がいなくなった。やっぱり誰にも会わなかったたら誰も殺さない。その事実でだいぶ気持ちが楽になった。うん、私はいける。私は自分を偽ることができる。
そのおかげか、だいぶ人が死ぬのが収まった。今までだったら一日に1人程度が死んでいたのが、いまは五日程度に一人だ。
その陰で、私の精神状態も保たれている。
だが、いつまでこの生活をしたらいいのか、いつこの地獄が終わるのか、全く見当がつかなかった。
正直、もう終わりたい、人生を終わらせたい。
いつの間にか私の体にはいくつもの傷がついていた。ナイフで自分の体を切り刻むことが趣味になっていたのだ。だが、「傷も半日で言えるし、痛みもすぐになくなる。こんな私、由美が見たら悲しむだろうなと思った。
自殺もあれからいくつも試してみた。練炭自殺、首つり、飛び降りは危ないからやっていないけど、兎に角自殺を試したけど、死なない。
死ぬことが趣味ってどこかの漫画のキャラみたいだなと思う。それかどっかの文豪か。
私はそんなたいそうな人ではないのに。
とにかくもう私が嫌だ。私が嫌だ。存在が嫌だし、視聴者に媚びを打っている私も嫌いだ。
何より、今も人が死んでいるのに、こんなものほんと生きている私が嫌いだ。
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