今日も人が死ぬ、この私の手で

有原優

第1話 最初の死

 また今日も人が死んでいく、この私の自分の手で。

 だれか私を止めてください。誰か私を殺してください。

 もう人が死んでいくのは嫌だ。

 私は普通に生活をしていた。その生活が終わってしまうとは考えてすらいなかった。


 私はもう、生きている価値などない。

 こんな大量殺人犯になってしまった私なんて。



 あの日からだった。あの日の夜に見た夢。どんな夢だったかはほとんど覚えていないが、大きな城門をぐぐって恐ろしい悪魔に会って話をする夢だった。


 ただ少なくともいい夢ではないことだけはわかっていた。でも、その一方どうせこれは現実逃避のための私の妄想が見せている夢だ。私の疲れが見せているものだとも思っていた。


 それが現実での悪夢になるとは思ってもいなかった。

 あの悪魔が言ったことを覚えていない。

 それを思い出したのはだいぶ日がたった時のことであった

 





 愛華の親、千佳子は愛華を見て、「そろそろ起きてー遅刻するよ」と、呼ぶ。


 そういっても、愛華はびくともしない、その姿は少し疲れてるようにも見える。その隣では目覚まし時計ががんがんとなっている。


「起きて」


 さらに大きな声で言うが、愛華はやはり起きない。


「おきて!」


 そう言い千佳子がほほをつねりながら言う。

 愛華はその痛みでようやく目覚めるがめんどくさくて返事をしない。


「起きなさい」

「ちょっとまってあと二分」


 愛華は無視するのも面倒くさいので、ようやく返事をする。


「起きろ」


 そう言って千佳子はさらに強くほほをつねる。見る人によっては虐待にも見えかねない強さだ。


「もう七時五十五分。いい加減にしないと遅刻するよ、」

「え! もうそんな時間!?」


 びっくりして私は飛び上がるように布団から出る。

 まだ七時半くらいだと思っていた。後十五分で家を出なくてはならない。

 急がなければ。


「だから言ってるのよ」

「急いで準備する」


 そして部屋を出て、学校に行く準備をする。その傍らで、夢のことを考えた。

 昨日のあれは何だったんだろう? 疲れていたのかな? でもこんな夢を見るって不思議だな。

 もうこんな夢は見たくないな。

 何にしろ、あの夢は精神を直接マインドブレイクするような感じがしたのだ。


「ねえお母さん」


 歯を磨いている時に、お母さんに話しかける。


「ん?なに」

「怖い夢見たんだけど」

「どんな?」

「悪魔に会う夢」


 そして私は説明をし始める。


 あれは本当に不思議な夢だった。なぜ私はあんな夢を見たのか。

 怖かった割にはほとんど覚えていないなんて馬鹿なことがあるのか?

 しかもリアルな割にはあんなに覚えてないようなことは。


「なるほどね。確かに不思議な夢だね。何かメッセージ性があるんじゃない?」

「メッセージ性?」

「うん。だってあるじゃん。夢は人間の深層心理が見せてるとかいうやつ。そういう事なんじゃない?」

「そうかな……」


 だとしたらいい予感はしないんだけど。


「てか、手動いてないよ、急いで!」


 確かにそうだ。時間がない。さっさと歯を磨き終わらなければ。

 そして朝の諸々の準備が終わり、


「行ってきます」

「気をつけてね」


 家を出る。時間ギリギリだから走らなくては。

 私は学校まで徒歩十五分で行ける。


 家から出て最初の曲がり角を八時一〇分に曲がると、

 そこでいつも親友に合うけど。いまは二〇分。流石に出会えないか……

 そう思いながら曲がり角を曲がる。すると、


「おはよう」


 普通に親友がいた。いつも余り遅い時間だというのに。


「おはよ由美。もしかして待っててくれたの?」

「いやたまたま、今日動画見すぎて遅刻しかけただけ」


 動画見過ぎたのかいとツッコみたくなるのを抑え、二人でいつもの通学路を走る。

 そしてそんな中で、


「いつもそんなことないじゃん」


 と私は言った。私は当然のこと、由美も普段遅刻するような人間ではない。


「今日ゲーム配信に夢中になっちゃって、二時間も見ちゃった」


 そう言ってテヘと舌を出す。


「どんだけ見てんの!」


 流石に見過ぎだ。これに関しては自業自得としか言いようがない。


「それで、愛華はなんで遅れたの?」

「今日怖い夢見たから」

「どんな?」

「門の中で悪魔と話す夢。とても怖かったから今日寝坊したんじゃないかな?」

「ふつう逆じゃないの? 怖すぎて寝れないとかうなされて起きるとかそういうことじゃない?」

「でもやけにリアリティの高い夢だったから、もしかしたら悪魔とか神様とかがメッセージくれたとかかもしれない」


 そんな重要な夢だったから起きられなかったのかも・


「考えすぎじゃない? でなんか言われたの?」

「覚えてない」

「えー面白くないの」


 そう言って落胆の表情を見せられる。そんな表情をされても困るのだけど。


 そして学校へとついた。


「あ、由美、愛華おはよ」


 クラスには私たちのもう一人の親友篠崎彩香がいた


「おはよー」

「いつも早く来るのに珍しーな」

「私は動画の見過ぎで」

「私は寝すぎ」

「二人そろってか」

「うん」


 恥ずかしいことに。

「てかホームルーム始まるじゃん。あーあ、話せねえな」

「ホームルーム後に話そうよ」

「おい、愛華。誰のせいだと思ってるんだよ」

「ごめん」


 由美はともかく、私は悪くない気がするけど。

 まあ寝坊と言えば寝坊だけど。


 そしてホームルーム終わりに、放課後にどこに行くかの話し合いとなった。綾香は残念ながら放課後用事があるからいけないという事なので、今日は由美と二人でということになる。

 

「カラオケ行こうよ!」


 そうハイテンションで提案する由美だったが、残念ながら私にはお金がない。そう言う訳で断ると、

 由美は悲しそうな顔をした。

 だが、すぐに気を取り戻し、


「だったら、私の家に来てよ。ゲームしよ!」


 そう言った。その提案に私はすぐに「うん。そうしよう」と答え、放課後に由美の家に行くことになった。

 ちなみに彩花は一人だけ仲間外れにされたことを恨んでいた。……用事あるから仕方ないのに。


「いらっしゃーいーーー! 愛華!!」

「あ、うん」


 テンションの高さに物おじてしまう。


「じゃあカートゲームしよう!!」


 そしていきなりそう言われた。もう何のゲームをするか決まってるらしい。

 そして試合が始まると、圧倒的な実力で一位に連続してなった。


「ねえ愛華! またワンツーフィニッシュなんだけど! 凄くない?」

「凄くない? って相手NPCだし」

「そうだけどさあ……もう少し喜んでも良くない?」

「そりゃあ仕方ないよ。私が強すぎるだけだし」

「確かに、私一回も愛華に勝ててないや。でも、なんかムカつくなあ」


 そう言って由美は頬を膨らませた。


「あ、でも私も勝ててるから良いよね」

「うん」


 相変わらず気持ちあげるの早いな。こういうところが由美のいいところだ。悪く言えば楽観的、よく言えば、この気持ちの切り替えが早いところが。




 だが、この時の私は知らなかった。あのおぞましい日々が始まるなんて……私の平安が潰されるなんて……。


 その頃、別のところでは、


「うわあああああああ!!!! お前は誰なんだ!! 勝手に入ってくるなああああああ!」


 男は叫ぶ。だが、その言葉は聞き入れられる気配もなく、ただ、謎の人物は男に近づいていく。


「なんなんだよ!! なんなんだよ!! お前は。くるなあああああああああああ!」


 だんだんと近づいていく。一歩ずつ男の方へと。


「来ないでよおおおおおおおお!!!」


 だが聞き入れられない……


「くるなああああああ!!!」


 そして、男は抵抗するが、その抵抗虚しく、腹を切り裂かれ、そのまま大量の血を流し、亡くなった。


「きゃーーーーー 直樹さん!!!! あ、救急車! 救急車呼ばなきゃ!!!!」


 そしてその事件はニュースで流れ、SNSでも拡散された。世にも恐ろしき事件として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る